通告の要点
【Q】
児童虐待の通告にあたって気をつける点などがあれば、教えてください。
【A】
虐待を通告するにあたって大切な点をまとめると、以下のようなものがあげられます。
(1)児童虐待は、ある特別な家庭に起こる問題ではなく、身近な普通の家庭に起こる問題であることを理解して虐待を疑う目をもつことが大事です。通告は疑いの段階で行います。虐待なのか、そうでないのか、最終的に判断するのは児童相談所です。
(2)通告は、子どもの福祉に携わる一人ひとりの義務です。保育所、学校、保健所等の関係機関で職務している者は、所属の判断ではなく、国民の一人としての通告義務が課せられています。このことを加害者に説明して「義務がある」ので連絡するといいます。
(3)発見者は通告しても、その後の援助は引き続き行うという姿勢と、通告しても家族を“見捨てない”というメッセージや対応が大切になります。
(4)“通告”という言葉のイメージが、親を告発するような印象を与えるので気安くできないこともあります。通告を“相談”に言い換えてもよいでしょう。通告(相談)することによって、地域の関係機関がかかわりを始め、その家庭に援助が開始されることになるのです。
(5)通告者は自分の身分や名前を明かさなくても匿名でできます。児童相談所に通告したことは相手に明かされることはありません。秘密は守られるので安心して通告するようにします。
(6)通告は電話でもいいですし、文書(通告書)でもいいです。家族や近隣者は電話での通告となるでしょうが、子どもの福祉に携わる関係者は、通告書を送ったほうが児童相談所も理解しやすいでしょう。また緊急を要する場合は、電話で通告した後に通告書を発送するのが丁寧です。関係機関は、通告書を準備しておく必要があります。
(7)通告しても、児童相談所が調査に動かないとか、共通認識がもてないなどの問題が生じたときは、再度通告をして子どもを守るために関係機関が動くように対応します。
(8)医師や公務員などは、職務上知りえた個人の秘密を守る義務があります。しかし、児童虐待の通告義務は、法律で守る守秘義務よりも優先される旨が示されています(児童虐待防止法第6条第2項)。子どもを守ることが最優先されるので守秘義務違反に問われることはありません。
(9)通告機関は、市町村、福祉事務所、または児童相談所ですが、通告しにくい場合は、市町村保健センター、保健所、家庭児童相談室などに相談をして一緒に考えてもらうことも有用です。あるいは、児童虐待の複雑なケースはケースカンファレンスを開くとか、スーパーバイザーを活用するなど、関係者が共通理解をしてから通告をすることもあります。
(10)市町村だけで通告を受理して判断すると、アセスメントが甘くなることが死亡例検証事例からわかっているので、同時に児童相談所にも念を入れて通告をしておく必要があります。
(11)児童相談所は、通告後の事例の結末を関係者に連絡すると、以後の通告もしやすくなります。
(12)現在の法律では、通告をしなくても罰則規定はありません。児童虐待防止法でもそのことは謳われていないので、まだ虐待が見逃されていることは否めません。
出典:徳永雅子著『子ども虐待の予防とネットワーク―親子の支援と対応の手引き』中央法規出版、2007年