民生委員に守秘義務はありますか?
【Q】
民生委員は、関わる人の個人情報を扱うことが非常に多いのですが、守秘義務について、どのように捉えておいたらよいでしょうか?
【A】
個人情報の保護については、社会的にも大きな関心事になっていますが、民生委員法の第15条では、個人に関する秘密を守らなければならないことが規定されています。
「民生委員は、その職務を遂行するについては、個人の人格を尊重し、その身上に関する秘密を守り、人種、信条、性別、社会的身分又は門地によつて、差別的又は優先的な取扱をすることなく、且つ、その処理は、実情に即して合理的にこれを行わなければならない」
民生委員は地域住民の情報を広く知ることになります。ときにはその人の生育歴や家族関係、財産や収入といった込み入った内容まで知ることがあります。それは民生委員としてその人を支援していくために知らなければならない場合があるからです。つまり、個人情報抜きに民生委員の適切な活動はできないといっても過言ではないでしょう。
したがって、大事なことは、知ることによって生じる責任を回避しようとして個人情報の入手に消極的になるのではなく、知り得た情報を他言しないという「守秘義務」をしっかりと自覚し徹底することです。
社会福祉士や介護福祉士などの専門家には、「秘密保持義務」が課せられています。これは懲罰または罰金といった罰則規定を伴うたいへん厳しいものです。民生委員には罰則規定までは定められていませんが、知り得た個人情報を守るという点では同様に守秘義務があります。
このことは一見当たり前で、意図的に情報を漏洩するような民生委員はいないはずです。ところが多くの場合、何気ない会話から秘密が漏れています。
たとえば家族との会話です。民生委員になりたてのころは、一つ一つの事例に驚き、世の中にはいろいろな人や家族がいることに改めて気づかされます。そんなときについつい家族には気を許してしまい、その日あった出来事を話してしまうのです。ところが家族には守秘義務はありません。うわさ話の根元を辿っていったら、民生委員の家族だったということもあるのです。気の許せる友達などの場合も同様です。
また、ファミリーレストランで民生委員同士が話をしていて、その会話を近くの席にいた人が聞いてしまいトラブルになったというケースもあります。
最近では、たとえば一人暮らしの高齢者のことを聞き出そうと、業者がいろいろな手をつかって民生委員に近づいてくることもあります。そのため、知らないうちに民生委員が悪徳業者に情報を提供してしまっていた、という事件もあります。
秘密を保持するということは、その人の人権を守るということです。そうした意識をもつことが民生委員には求められています。
出典:小林雅彦・原田正樹著 『民生委員のための地域福祉活動Q&A』中央法規出版、2006年