「望む暮らし」を実現するには
【Q】
ケアマネジャーは、利用者の望む暮らしの実現をサポートすると言われますが、重い障害を負ってしまった人などからは、どんな暮らしがしたいという言葉はなかなか出てきません。「望む暮らし」とは、どのように考えればいいのでしょうか。
【A】
「良くなりたい」「元の自分に戻りたい」という動機をもてるのは、その先にその人の「望む暮らし」という目標があるからではないでしょうか。あるいは、こういう体になったからこそ、これからはこういう生き方をしていきたい、と願う人もいるかもしれません。そういったそれぞれの「望む暮らし」の実現こそが、その人の最終目標(ゴール)でもあり、ケアマネジメントの最終目標になるといってもよいでしょう。
ケアマネジメントの過程において支援を具体的に行う際には、まず重要なこととして、「望む暮らし」を対象者が自分自身の価値観で決めることが必要になります。しかし、自分で「望む暮らし」を決めることは困難な場合も多くあります。さらには、その人の状態によっては、望む暮らしを具体的にイメージするまでにかなりの時間がかかったり、「望む暮らしなどありえない」といった状態の人もいるでしょう。しかし、生きている限り、誰にでも人間らしい生活をする権利があります。そして、ケアマネジメントはそれをかなえるための援助技術なのです。
ですから、本質的なケアマネジメントを行うのであれば、まず焦らず時間をかけて、じっくりと向き合いながら、その人の力が湧いてくるような支援を行ってください。「庭の花を見る」など、どんな些細なことでもよいですから、以前その人が好きだったこと、趣味であったことなど、もし回復できたならばもう一度してみたいと思うことを見つけてください。それが「望む暮らし」として位置づけられるのではないでしょうか。
「望む暮らし」とは、決して実現不可能なことを指すのではありません。その人のレベルで、「これならば支援を行った結果、取り戻すことが可能ではないか」という根拠を多方面の専門職の意見も参考にしながら確認し、それに基づいて、その人なりに(家族も含めて)位置づけられる目標なのです。そういう視点で見れば、軽度の状態の人も重度の状態の人も、「望む暮らしはない」という結論にはならないはずです。
出典:能本 守康 著 『改訂 初めて学ぶケアマネジメントテキスト』 中央法規出版、2009年