「居宅訪問」のすすめと留意点
【Q】
脳出血・脳梗塞などの脳血管障害で入院し、リハビリ訓練を受けていた患者(58歳)です。ベッドサイドの身の回りの生活が自立したので、MSWとしてそろそろ退院の準備をしてくださいと主治医から指示を受けています。どういう点に留意して在宅生活の準備を支援すればよいでしょうか。
【A】
患者が58歳と比較的若いですが、介護保険制度の第2号被保険者として介護保険サービスを活用することができます。在宅の準備をしていくには必要となるので、まず介護保険による介護認定申請をしていきましょう。
住宅改修は患者の身体機能低下を防ぐと同時に日常生活動作が少しでも自立することで、生きる自信、意欲を高めることにもつながります。また、介護量の軽減は居宅生活を家族と長く過ごすために大切な条件になります。効果的に住宅改修を行うためには入院中の生活をよく理解している看護師やリハビリテーションスタッフに相談し、患者の身体機能レベルに合わせ、受け入れ体制を準備することが不可欠です。そのために、まず必要となるのは患者の家庭を訪問し、利用者や家族と相談すること、すなわち「居宅訪問」です。居宅訪問は、MSW単独よりも理学療法士や作業療法士、訪問看護スタッフと共同で取り組むとよいでしょう。
ここでは「居宅訪問」による脳血管障害後の患者の受け入れ体制づくりについて簡単に紹介します。
脳血管障害後の居室環境は、ベッド、洋式トイレなどを利用しての洋式生活が便利です。必要に応じて車いす、ポータブルトイレなどの準備もします。
ベッドを準備するにあたって留意すべきことはベッドの高さや幅、マットレスの硬さ、手すりの位置です。ベッドの高さは座位を安定して移動を効率的に行うために重要なポイントです。一般的には40㎝前後の高さですが、ベッドサイドに腰掛けたときに足底がしっかりと床に着く高さがベストです。
マットレスはやわらかすぎるとからだが沈み動きづらく、寝返りや動作の障害になります。寝たきりの場合は床ずれのことを考えてやわらかいものやエアーマットの使用も必要ですが、移動が自立している患者の場合は固めのものを準備する、もしくはマットレスの代わりに畳や、スノコを敷いて和式布団を活用するというのもよいでしょう。
次に排泄に関する居室環境ですが、排泄動作は最も基本で頻繁な動作であり、自尊心を保つ意味からもできる限り自立状態を保持できるように考えましょう。トイレまでの廊下に安全に移動できるように手すりをつけたり、トイレの中での安定性や起座動作を補助できる手すりや便座の高さを調節することが重要です。現在は立ち上がりをサポートできる電動便座昇降機もあります。和式のトイレの場合は簡易の腰掛型便座を取り付けることもできます。
トイレまでの移動が困難な場合はポータブルトイレの準備をするとよいでしょう。ポータブルトイレにもいろいろな形状、サイズがあります。前述のトイレ環境同様、高さや、手すりについて考え準備する必要があります。高さについてはベッドの高さと同じですと、横移動で活用範囲が広がることがあります。また、高さの調節用具にポータブルトイレそのものを台の上に置く補助的なものや便座の上に重ね置きできるものなどもあります。形状として留意する点は、起立動作のために、便座に腰掛けた姿勢で足が手前に引けるよう足元に空間があることが大切です。
入浴環境についてはいろいろな形状の浴室環境があるかと思いますが、理想的には深さ60㎝の浴槽で洗い場からの高さが40㎝くらいといわれています。既存の浴槽内外に、スノコを敷いたりして調整をすると意外と利用しやすくなります。また、浴槽と高さが同じいすを浴槽の横に準備すると浴槽内外への移動がスムーズになります。
浴槽自体もあまり大きなものですと、体が浮いてしまい危険です。背中は浴槽側面に着いた状態で膝が軽く曲がるくらいの広さが安定します。浴槽内に座面の広いいすを入れて浴槽を小さくするなどの工夫もできます。
家庭内での移動ですが、手すりでは歩行が困難な場合は車いすの準備も考えられます。しかし、回転動作などを考えると意外と廊下幅が必要になりますし、居室間の段差も解消しなければなりません。大がかりな改修が必要な場合はキャスターつきのいすの活用や、這って移動するということも考慮してみるとよいでしょう。
玄関の出入りについても、上がり框の段差の昇降を助けるための手すり、路面から玄関までの安全性を確保するための手すりなどもあると、移動
に大変便利です。また、介護保険サービスでは2009(平成21)年より「厚生労働大臣が定める居宅介護住宅改修費等の支給に係る住宅改修の種類」の「引き戸等への扉の取替え」に「引き戸等の新設」が含まれ、条件はありますが給付対象とされました。住宅改修は安易に取り付けられそうな手すりなどでも、体重を支えるものですし、安全性を考慮して専門の業者に依頼することが望ましいでしょう。
住宅改修の点について述べてきましたが、介護保険サービスの福祉用具についても、入浴や排泄の助けになる用具(腰掛便座、特殊尿器、入浴補助用具(入浴用いす、浴槽用手すり、浴槽内いす、入浴用介助ベルトなど)、簡易浴槽、移動用リフトのつり具の部分など)を購入し、活用することで介護者の負担を随分楽にできることもあります。
また、仰臥位より側臥位・座位への体位変換器、床や階段の移動を助ける移動リフト、特殊寝台をはじめ福祉用具貸与(要介護度により該当枠に違いあり)の活用を考えることも必要です。
これらの活用は、リハビリテーションスタッフと相談し、本人や介護者の意見を十分に聞いて調整することが大切です。
出典:医療福祉相談研究会=編集 『<加除式>医療福祉相談ガイド』 中央法規出版、1988年