つきまとう行為が見られる男性利用者にどう接すればよいでしょうか?
【Q】
特別養護老人ホームに入所中の81歳の男性。中等度の認知症があり、妻を16年前に亡くしています。女性職員の一人が妻に似ているようで、その職員が好きで、勤務日にはつきまとう行為がみられます。女性職員に近づいていくことが多く、仕事に支障が出ています。
姿が見えないと廊下に探しに行ったり、「あの娘はどこに行った」とほかの職員に尋ねたりします。いつの間にか女性職員のすぐ後ろに立っていることがあるので、振り向きざまにぶつかって怪我でもさせてしまうのではないかと心配です。
どのような対応をすればよいでしょうか?
【A】
まず、つきまとう気持ちに目を向けてみましょう
高齢者、特に認知症が始まった高齢者にとって、住み慣れた家、自分の持ち物、日々の生活、馴染んだ土地、近隣との絆など、自分を支えてきた一切から離れて、新しい環境に馴染むのは容易なことではありません。「安心できる居場所」になるには時間がかかるでしょう。おそらく不安を抱えた日々のなかで妻に似た職員に出会ったのです。どんなにかホッとし、心温まる思いがしたことでしょう。その女性職員の姿を見出すことで安心するのではないでしょうか。
女性職員をキーパーソンにすることも考えてみましょう
「忙しいのに」と避けようとすると、よけいつきまとってくるかもしれません。また、仕事をしながら中途半端な応対をしていると、なかなか満足してくれないものです。
例えば「お茶が終わったら20分ほど時間がとれるので、ゆっくりお話ししましょう。待っていていただけますか」と、話せる時間を伝えて、不安があるようなら、職員の姿が見えるところに居場所をつくって待っていてもらいます。そして約束した20分間はしっかり相手に気持ちを向けて聞きましょう。
不安が強い利用者の場合、誰か一人でもキーパーソンとなり、しっかりした人間関係を築くと、安心感が生まれるものです。この女性職員がキーパーソンとなれるといいですね。
チームワークで対応しましょう
さらに、女性職員へのプラスの感情をうまく活用して、その方の生活が豊かになるように誘導したいものです。女性職員からレクリエーション活動に誘う、簡単な仕事をお願いする、他の利用者との間に立って関係づくりをするなどで、関心を持つ者が増え、施設での生活に馴染んでくると、結果的につきまとう行為も減っていくのではないでしょうか?
また、つきまとう行為が続く場合、同じ場にいる職員が、危険がないように目配りしましょう。女性職員が不在の際に「あの娘はどこ?」と聞かれたら、「今日はお休みですよ」と答えるだけではなく、時には「○○さんがいないと寂しいですか?」「○○さんが奥さんに似ていると伺いましたが奥様のことを話してくださいませんか?」等と声かけし、奥様への思いに耳を傾けましょう。
自分の思いを聞いてくれる、親しみをもてる職員が増えることで、さらに安心できる居場所になり、一人の職員につきまとうという行為も減少するのではないでしょうか。
出典:荒木乳根子 著『基礎から学ぶ介護シリーズ Q&Aで学ぶ 高齢者の性とその対応』中央法規出版、2008年