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どうなる? 介護保険

被災地の「特例看護サービス」

 東日本大震災からまる2年が過ぎました。
 3月6日、厚生労働省が公表した『2013年我が国の人口動態(2011年までの動向)』では、東日本大震災による死亡は1万8,877人(男性8,693人、女性1万184人)にのぼり、「6割以上が60歳以上」(60代が3,501人、70代が4,515人、80代が3,322人、90代が643人、100歳以上が25人)と報告されています。
 8日に開かれた社会保障審議会介護給付費分科会(田中滋・分科会長 以下、分科会)の第93回では、東日本大震災に対応するため、訪問看護ステーション(基準該当サービス)の人員配置基準を常勤換算1人に緩和することを認めた「被災地特例」について、対象地域を大幅に縮小して、今年9月まで延長を認めるという厚生労働大臣の諮問を了承する答申が行なわれました(資料2「訪問看護サービスの人員基準について」)。

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被災地限定「1人訪問看護ステーション」
基準該当サービスは、介護保険法の事業者指定条件〈人員・設備・運営基準〉を満たしていないけれど、厚生労働省令で定める一定の基準を満たした事業者は、市区町村が必要を認めた場合にサービスを提供でき、介護報酬の対象になるとされています。
 「訪問看護の『被災地特例』」(2012.09.12更新)で紹介しましたが、提供地域を被災地に限定した基準該当サービスの訪問看護は「特例看護サービス」と呼ばれ、人員配置基準の緩和は「1人開業」とも言われます。
 東日本大震災直後の2011年4月13日、第72回分科会で、災害救助法が適用されている被災地(東京都を除く9県)における「特例看護サービス」は、人員配置基準を常勤換算2.5人から1人に緩和し、2012年2月末までの期間限定で提供することが認められました(第72回分科会資料1-8「東日本大震災に係る訪問看護サービスの柔軟な提供方法について」)。
 翌2012年2月28日、この期限が切れる日に開かれた第89回分科会では、対象地域を9県から3県(岩手県、宮城県、福島県)に減らし、半年後の9月30日まで延長することを決めました(第89回分科会資料1-1「東日本大震災に係る訪問看護サービスの特例措置について」)。
 さらに、再び期限が迫った9月7日の第92回分科会では、2013年3月31日まで再延長することにしました(第92回分科会資料1「東日本大震災に係る訪問看護 サービスの特例措置について」)。
 そして、今回の分科会(第93回)では、(1)宮城県石巻市と福島県南相馬市の「訪問看護の確保が著しく困難な地域」に再縮小し、期限を9月30日まで再々延長する、(2)4月1日段階で宮城県石巻市、福島県南相馬市、岩手県一関市で提供されている「特例看護サービス」は、9月30日までか、「利用者の他の介護サービスに移行させる日」のどちらか早い日までは「経過措置」の対象とすることが決められました(表1参照)。
 まとめてみると、この2年間で、「特例看護サービス」の対象地域は9県からサービス継続を希望する3市にまで狭められ、「指定訪問看護の確保が著しく困難な区域」に限られました。また、現在、「指定訪問看護の確保が著しく困難な区域を除いた区域」、つまり訪問看護事業所が十分にあるにも関わらず「特例看護サービス」が提供されているエリアは「経過措置」の扱いになりました。

2年間で4回の省令改定
 4回にわたる分科会の議論では、公益社団法人日本看護協会、社団法人日本医師会など医療系の委員を中心に「訪問看護師1人では24時間365日の安定的なサービス提供ができない」と訪問看護ステーションの人員基準の緩和に根強い反対意見が出され、また、「被災地の訪問看護ステーションは提供体制に余力がある」という主張もあって、短期間の延長と対象エリアの縮小が重ねられたという経緯があります(第93回分科会参考資料2「訪問看護サービスの人員基準等に係るご意見」より)。
 しかし、被災3県(岩手県、宮城県、福島県)の訪問看護をみると、1事業所あたりの利用者数は全国平均58人で、岩手県は54人と下回るものの、宮城県は91人、福島県は68人という数字になります。本当に「提供体制に余力がある」のでしょうか(表2参照)。
 一方、「特例看護サービス」はこの2年間に、4県で16事業所の申請があり、3県で7事業所が受理されて、3事業所が実際にサービスを提供しています(表3参照)。

「認定有効期間の1年延長」も3度目の縮小・延長
 分科会では、介護認定の有効期間を1年延長する「被災地特例」についても、2県10市町村に対象地域を限定して延長を認めることが報告されました(資料1「東日本大震災に対処するための要介護認定有効期間及び要支援認定有効期間の特例に関する省令の改正」)。
 介護認定の有効期間を1年延長は、災害救助法の対象地域に2012年3月末まで認められ、2012年4月には3県(岩手県、宮城県、福島県)に縮小して同年9月末まで半年延長され、同年10月には3県のうち13市町村に再縮小して再び半年延長され、今回は2県(岩手県、福島県)の10市町村に再々縮小して今年9月末までの再々延長となりました。
 「要介護の恐れ、高齢者の4割超 厚労省の被災者調査 宮城」(2013.02.09時事通信)など、被災地域の介護ニーズが増えることが報道されています。
 今回の延長措置が切れる半年後に、再び分科会で「特例看護サービス」や認定有効期間など「被災地特例」がテーマとなるのなら、相次ぐ省令改定で被災地の利用者、市区町村(保険者)をふりまわすのではなく、「被災者支援」、そして「利用者本位」の議論してもらいたいと思います。


表1 「特例看護サービス」をめぐる省令改定の変遷
介護給付費
分科会
第72回
(2011年4月23日)
第89回
(2012年2月28日)
第92回
(2012年9月7日)
第93回
(2013年3月8日)
特例終了日2012年2月28日2012年9月30日2013年3月31日2013年9月30日
対象被災地岩手県全域岩手県全域岩手県全域岩手県一関市※
宮城県全域宮城県全域宮城県全域宮城県石巻市
福島県全域福島県全域福島県全域福島県南相馬市
青森県全域
茨城県全域
栃木県全域
千葉県全域
新潟県全域
長野県全域
※岩手県一関市は4月1日現在の利用者のみ対象
表2 災害救助法が適用された県の訪問看護サービス
 訪問看護ステーション利用者[参考]
1事業所あたり利用者
岩手県57事業所3,100人54人
宮城県58事業所5,300人91人
福島県77事業所5,200人68人
青森県84事業所4,000人48人
茨城県87事業所5,000人57人
栃木県51事業所2,700人53人
千葉県171事業所9,600人56人
新潟県91事業所5,400人59人
長野県125事業所8,500人68人
全国5,212事業所30万1,800人58人
事業所数:厚生労働省大臣官房統計情報部「2011年介護サービス施設・事業所調査結果の概況」
利用者数:厚生労働省大臣官房統計情報部「介護給付費実態調査月報(2012年3月審査分)」
表3 「特例看護サービス」事業者の状況
特例
看護サービス
申請受理2013年3月現在
青森県1事業所  
岩手県1事業所1事業所1事業所
宮城県9事業所1事業所1事業所
福島県5事業所5事業所1事業所
合計16事業所7事業所3事業所
社会保障審議会介護給付費分科会第93回(2013.03.08)資料2「訪問看護サービスの人員基準について」


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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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