“企業”の介護保険料
1月23日更新の「2015年改定に向けた議論のスタート」で紹介したように、1月21日に開催された社会保障審議会介護保険部会(山崎泰彦・部会長)の第42回の冒頭あいさつで、厚生労働省の原勝則・老健局長は、「2015年に向けて、社会保障制度改革国民会議と調整しながら、議論をお願いしたい」と語りました。
社会保障制度改革国民会議(清家篤会長 以下、国民会議)では、「社会保障・税一体改革」にもとづき、社会保障制度(年金、医療、介護、子育て)をどう見直すのかを議論しています。
「社会保障・税一体改革」では、消費税5%(13.4兆円程度)引き上げのうち、4%(10.8兆円程度)を「社会保障の安定化」、残り1%(2.7兆円程度)を「社会保障の充実」に使うと約束しています。
国民会議は「社会保障の充実」をテーマに掲げ、2月19日に第4回、28日に第5回とヒアリングが行なわれ、経済3団体、労働1団体、地方公共3団体、財務省から、第2号被保険者(40~64歳、約4000万人)の介護保険料の計算方法について意見が出されました。
第2号介護保険料の「事業主負担」は2兆円
国民会議ではこれまでに、経団連(社団法人日本経済団体連合会)、経済同友会(公益社団法人経済同友会)、日本商工会議所、連合(日本労働組合総連合会)、「地方3団体」と呼ばれる全国知事会、全国市長会、全国町村会、そして財政制度等審議会財政制度分科会(財務省)の合計8団体のヒアリングが行なわれています。
経団連、経済同友会、日本商工会議所は経営者団体で、介護保険では第2号介護保険料(介護給付費・地域支援事業支援納付金)の事業主負担を担う立場です。
経団連の提出資料では、介護保険への「民間事業主拠出」(2009年度)は2兆円と報告しています。「民間事業主拠出」は、第2号介護保険料の事業主負担分(2分の1)で、自営業や無職の人の第2号介護保険料は国庫支出(2号保険料国庫負担金)で賄われています。
ちなみに、2013年度予算案の「老人保健福祉関係予算(案)の概要」では、国庫から支出される「安定的な介護保険制度の運営」の計上額は2兆5,540億円です。
第2号介護保険料の計算は人数か、所得か
高齢化が進むとともに、介護保険サービスの利用者は増え続けています。利用者が増えれば、サービスに払う費用(介護報酬)も増え、支払うお金(財源)も増やさなければなりません。
その財源は、利用料(利用者の1割負担)を除いた9割(介護給付費)について、税金(国が約25%、都道府県が約12.5%、市区町村が約12.5%)と介護保険料(第1号が21%、第2号が29%)で分担しているため、今後も増える費用負担の配分のあり方は大きな焦点のひとつになります。
第2号介護保険料の金額は現在、健康保険組合(協会けんぽ、健保組合、共済組合、国保など)の加入者数に応じて決められています。つまり、介護給付費の負担分29%を第2号被保険者数で割り算して決められているのです。
2010年、厚生労働省は社会保障審議会介護保険部会(以下、部会)に「第2号保険料の負担の応能性を高める」ために、加入者の人数ではなく、所得に応じた負担(総報酬割)にすることを提案していました。
これを受けて、部会は「介護保険制度の見直しに関する意見」(2010.11.30)をまとめましたが、「被用者保険間の負担の公平性を図る観点」から賛成するという意見と、「従来の保険料負担の基本的な考え方と仕組みを大きく変更するものであり、十分な議論なく、財源捻出の手段として導入しようと」しているという反対意見の“両論併記”にとどめました。
部会には、第5期(2009~2011年度)の第2号介護保険料に「総報酬割」を導入した場合、所得の高い加入者が多い健保組合(上位10健保組合)では1人当たりの負担額は1,759円増えるという厚生労働省の試算が報告されています。
「総報酬割」は高所得者の第2号保険料を引き上げる
2011年になると、今度は政府の「社会保障・税一体改革」にもとづいて「総報酬割の導入」が再び提案され、厚生労働省からは「完全実施」した場合、第2号介護保険料が1,600億円増えることが報告されました。
再度の検討を求められた部会は、「社会保障・税一体改革における介護分野の制度見直しに関するこれまでの議論の整理」(2011.11.30)でまた、“両論併記”のまとめを出しました。
負担が増える事業主は反対、財務省は賛成
今回の国民会議のヒアリングでは、経団連、経済同友会、日本商工会議所の経営3団体がそろって「総報酬割の導入」に反対しています。
一方、財務省が事務局を担当する財政制度等審議会財政制度分科会(吉川洋・分科会長)は、「公費負担への安易な依存を厳に慎む観点」から、「総報酬割の導入・拡大」を主張しています。
働く人の負担は誰のため?
第2号介護保険料は給与から天引き(源泉徴収)されていますが、年金保険料や医療保険料に比べて負担額が低いため、働く人たちにはあまり意識されていないようです。
しかし、2002から07年の5年間、「家族の介護・看護のため」に約57万人が離職(政府統計の総合窓口「2007年就業構造基本調査」より)しています。また、働く人たちには家族を介護するための「介護休業制度」が用意されていますが、「介護休業を取得した者がいた事業所」は2.5%、「常用労働者に占める介護休暇取得者の割合」は0.1%にしかなりません(厚生労働省雇用均等・児童家庭局「『2011年度雇用均等基本調査』の概況」より)。
一方で、介護保険サービスを利用する権利がある認定者552万人のうち、第2号被保険者は約16万人で約3%にしかなりません。また、在宅サービス利用者約339万人のうち第2号被保険者は約10万人(2.9%)、地域密着型サービス利用者約33万人のうち第2号被保険者は約0.4万人(1.1%)、施設サービス利用者約88万人のうち第2号被保険者は約1万人(1.1%)となっています(厚生労働省「介護保険事業状況報告(暫定)2012年11月分」より)。
10年前の2004年、部会は第2号被保険者の年齢を引き下げることで介護保険料の増収を検討しましたが、同時に障害者サービスを介護保険に組み込むこともテーマとなり、利用料負担が増えることを懸念する障害者団体の強い反対を受けて、保留状態となった経緯があります(「『被保険者・受給者の範囲』の拡大に関する意見」〈2004.12.10〉より)。
代わって登場したのが「総報酬割の導入」ですが、約4,000万人の第2号被保険者が払っている第2号介護保険料について、より広く情報を提供し、意見を求める必要があるのではないでしょうか。