2013年度の介護保険
3月15日、厚生労働省は全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議(2013.03.11)資料をホームページで公表しました。
全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議(以下、課長会議)は毎年2月頃に開催されています。
資料では、2013年度の「老人保健福祉関係予算(案)の概要」(以下、2013年度予算案)として2兆5,842億円の計上が報告されています。
2013年度予算案は開会中の第183回通常国会で審議されますが、介護報酬(介護保険サービスの値段)の国税による負担2兆4,916億円、地域支援事業の国税による負担分623億円の合計が2兆5,539億円で、全体の98.8%を占めています。
予算の96%はサービス費用
表1にまとめたように、2013年度予算案の「主要事項」では介護保険サービス(96.4%)と介護保険事業(2.4%)にほとんどが使われ、残りの302億円(1.2%)が「地域での介護基盤の整備」、「認知症を有する人の暮らしを守るための施策の推進」、「『生涯現役社会』の実現に向けた取組みの推進」、「その他主要事項」、「東日本大震災からの復興への支援」の5分野に配分される予定です。
認知症「5か年計画」初年度は34億円予算
2013年度予算案「主要事項」の1番目に、「認知症を有する人の暮らしを守るための施策の推進」(34億円)があります。
「認知症高齢者の日常生活自立度」II以上の人は2012年に305万人、2025年には470万人で1.5倍になるとの推計が公表されています。
認知症支援の具体策として、(1)認知症ケアパス(状態に応じた適切な医療や介護サービス提供の流れ)の作成・普及、(2)早期診断・早期対応の体制整備、(3)医療・介護サービスの構築及び日常生活・家族支援の強化、(4)地域ケア会議の活用推進の4項目が示されています(表2参照)。
課長会議の「高齢者支援課/認知症・高齢者虐待防止対策推進室関係」資料では「認知症施策推進5か年計画」(2013~2017年度)の“着実な実施”のための初年度予算としています。
(1)の「認知症ケアパス等作成・普及検討事業」は、市区町村がガイドライン「認知症ケアパス作成までの方法等に関する手引書(仮称)」(株式会社ニッセイ基礎研究所)をもとに実施予定で、詳しいことはまだわかりませんが、現行ケアマネジメントに加えるのか、置き換えになるのか気になるところです。
(2)では、2017年度までに、「かかりつけ医認知症対応力向上研修」受講者を5万人(認知症高齢者60人にかかりつけ医1人)に、「認知症サポート医養成研修」を4,000人(一般診療所25か所にサポート医1人)にという目標が設定されています。また、「認知症初期集中支援チーム」(地域包括支援センターに設置し、家庭訪問、アセスメント、家族支援などを行う)は全国10か所程度でモデル事業を実施する予定です。
(3)は8項目と盛りだくさんです。2017年度までに、「一般病院勤務の医師、看護師等の医療従事者向け認知症対応力向上研修」(認知症対策等総合支援事業)受講者を8万7,000人(1病院当たり医師2人、看護師8人が受講)、「認知症地域支援推進員の配置」は700人(最終目標は2,200人で、5つの中学校区に1人配置)、「市民後見人育成、活動支援」は80市区町村(最終目標は全市区町村)が目標です。また、「家族支援」のための“認知症カフェ”(認知症の人と家族、地域住民、専門職等のだれもが参加でき、集う場)は2012年度に調査・研究が行なわれていて、2013年度以降、普及を図るとされています。
なお、課長会議資料では「認知症高齢者グループホームの利用者負担の軽減を行う事業について」として、2012年度から「地域支援事業交付金」で認知症高齢者グループホームに入居を希望する低所得の利用者には負担軽減事業(任意事業)が実施できることを市区町村に周知するよう求めています。
認知症予算の「地域ケア会議」
(4)の「地域ケア会議」は、「振興課関係」資料1に、“高齢者個人に対する支援の充実”と“社会基盤整備”を同時にすすめるのに有効と説明があります。
また、「地域ケア会議活用推進事業」(2013年度予算案2.2億円)で市区町村事業として「地域ケア会議の立ち上げ支援」、都道府県事業として「地域ケア会議の後方支援」(広域支援員、専門職の派遣)が紹介されています。
なお、「地域ケア会議」については、「介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質向上と今後のあり方に関する検討会における議論の中間的な整理」(2013年1月7日)で「国は法制度的な位置付けも含め、その制度的位置付けについて強化すべき」と介護保険法改正が提案されています。
「介護基盤」は地域密着型サービス
2013年度予算案「主要事項」では、「地域での介護基盤の整備」に51億円が計上されています(表3参照)。
特別養護老人ホームの待機者42.1万人(厚生労働省老健局高齢者支援課「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」2009年1月15日)との公表後も、“施設基盤の整備”はなかなか進みません。
課長会議の「振興課関係」資料2には、2011年介護保険法改正で地域密着型サービスに新設された定期巡回・随時対応サービス、複合型サービスによる“地域包括ケアシステムの実現”のために、「地域介護・福祉空間整備推進交付金」(ソフト交付金)で事業所開設の備品購入費などの経費に財政支援を行うとしています。
また、「地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金」(ハード交付金)で、「都市型軽費老人ホーム」(要介護度は低いものの、見守り等が必要なため居宅において生活が困難な高齢者に対応する軽費老人ホーム)の整備、「地域支え合いセンター」(“企業を退職した高齢者など”が見守り・配食といった生活支援サービス、あるいは自らの社会参加などに資する非営利活動を行う拠点、各都道府県に1か所程度)の“モデル的整備”に財政支援を行うとしています。
“生活支援サービス”を提供するのは「生涯現役」高齢者
また、「『生涯現役社会』の実現に向けた取組みの推進」(32億円)という項目があります(表4参照)。
課長会議の「振興課関係」資料11では、「高齢者生きがい活動促進事業」と老人クラブ活動の促進が挙げられています。
「高齢者生きがい活動促進事業」では、「地域での介護基盤の整備」予算で“モデル的整備”に財政支援が予定される「地域支え合いセンター」に、必要な経費(初年度の備品・消耗品購入費、事務局人件費など)に“モデル的支援”を行なうとしています。
なお、2011年介護保険法改正では、介護予防事業の二次予防事業対象者(旧・特定高齢者)だけでなく要支援認定者も対象とする介護予防・日常生活支援総合事業(市区町村事業)が新設されました。2012年度は27市区町村が実施し、第5期(2012~2014年度)介護保険事業計画では約200市区町村が予定しています。同事業では介護保険外サービスとして予防サービス(訪問型、通所型)と生活支援サービスが提供され、実施市区町村の報告では“地域住民やボランティア”が担い手とされています(「振興課関係」資料3より)。なお、予防サービスを利用した場合、指定事業者が提供する介護予防サービス(予防給付)は利用できません。
1割の市区町村が「低所得者への配慮」をしていない
2013年度予算案の「その他主要事項」(86億円)には6項目が並んでいます(表5参照)。
そのなかに、「低所得者への配慮」(9億円)があります。低所得者の介護保険サービスの利用料(1割負担)の負担軽減策として、「社会福祉法人等による生計困難者等に対する介護保険サービスに係る利用者負担額軽減制度事業」があります。
「介護保険計画課関係」資料3では、同事業を実施しているのは1,450市区町村(1,724市区町村の84%)で、154市区町村(9%)が未実施と報告しています。しかし、「利用者負担減額・免除認定」を受けたのは、減額が422人、免除が4,825人で、合計しても1年間に全国5,247人足らずで、実施していても対象者がいない市区町村が相当数あると思われます(政府統計の総合窓口「2010年度介護保険事業状況報告(年報)」より)。
また、同事業は社会福祉法人が提供するサービスが対象ですが、利用者の多いホームヘルプ・サービスは24%、デイサービスは37%、福祉用具レンタルは3%しか参入がありません。
「将来の不安」がない制度を
2013年度予算案では、「2015年改定に向けた議論のスタート」(2013.01.23更新)で紹介したように、介護保険サービスの「重点化・効率化」の準備として、「認知症施策」や「『生涯現役社会』の推進」などが予算化されているのが見え隠れします。
課長会議資料には、「内閣府(共生社会政策担当)資料」として「高齢社会対策大綱」があり、「高齢者が将来の不安を払拭し、不安のための貯蓄から、生涯を楽しむための支出が行なえるように医療・介護サービスの基盤を強化する」と書かれています。
ぜひ、介護保険の被保険者が「将来の不安」に脅えなくてすむ制度運営を求めたいものです。
この連載は今回が最終回です。2年間のおつきあい、ありがとうございました。
総額 2兆5,842億円(100.0%) | ||
Ⅱ 介護保険制度の運営 2兆5,540億円(98.8%) | ||
介護保険制度 2兆4,916億円(96.4%) | ||
介護給付費負担金 1兆5,706億円 | ||
第2号介護保険料国庫負担金 4,835億円 | ||
調整交付金 4,375億円 | ||
地域支援事業 623億円(2.4%) | ||
Ⅲ 介護基盤の整備 51億円(0.2%) | ||
Ⅰ 認知症施策 34億円(0.1%) | ||
Ⅳ 「生涯現役社会」推進 32億円(0.1%) | ||
Ⅴ その他の主要事項 86億円(0.3%) | ||
低所得者への配慮 9億円 | ||
次期介護報酬改定にむけた取組 3.5億円 | ||
市町村介護予防強化推進事業 2.8億円 | ||
介護サービス情報の公表制度 2億円 | ||
介護支援専門員の資質向上 1.1億円 | ||
福祉用具・介護ロボット実用化支援 0.83億円 | ||
Ⅵ 東日本大震災復興支援 99億円(1.5%) |
Ⅰ.認知症を有する人の暮らしを守るための施策の推進 34億円 | ||
1.認知症ケアパスの作成・普及 | ||
住み慣れた地域で暮らし続けるため認知症ケアパスを作成・普及 | ||
2.認知症の早期診断・早期対応の体制整備 | ||
ア.かかりつけ医認知症対応力向上研修、認知症サポート医養成研修 | ||
イ.認知症初期集中支援チームの設置モデル事業 | ||
3.地域での生活を支える医療・介護サービスの構築及び日常生活・家族支援の強化 | ||
ア.一般病院医療従事者向け研修 | ||
イ.一般病院・介護保険施設職員の認知症対応力向上研修 | ||
ウ.認知症ケア多職種協働研修 | ||
エ.認知症高齢者グループホームなどでの在宅生活継続のための相談・支援の推進 | ||
オ.認知症地域支援推進員の配置 | ||
カ.高齢者虐待防止対応の推進 | ||
キ.市民後見人育成、活動支援 | ||
ク.「家族教室」、「認知症カフェ」の活用による家族支援 | ||
4.地域ケア会議の活用推進 | ||
高齢者の自立支援、認知症の人の地域支援を推進する「地域ケア会議」の普及・定着 |
Ⅲ.地域での介護基盤の整備 51億円 | |
1.定期巡回・随時対応サービス、複合型サービスの開設への財政支援 | |
2.都市型軽費老人ホームなどの整備への財政支援 | |
3.「地域支え合いセンター」のモデル的整備への財政支援 |
Ⅳ.「生涯現役社会」の実現に向けた取組みの推進 32億円 | |
1.企業退職高齢者などの有償ボランティア活動立ち上げ、老人クラブ活動の支援 | |
2.モデル的有償ボランティア活動の拠点「地域支え合いセンター」の整備支援 |
Ⅴ.その他の主要事項 86億円 | ||
1.低所得者への配慮 | 9.0億円 | |
2.次期介護報酬改定にむけた取組 | 3.5億円 | |
3.市町村介護予防強化推進事業 | 2.8億円 | |
4.介護サービス情報の公表制度 | 2.0億円 | |
5.介護支援専門員の資質向上 | 1.1億円 | |
6.福祉用具・介護ロボットの実用化支援 | 0.8億円 |