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どうなる? 介護保険

グループホームの夜

 2月8日、長崎市の認知症高齢者グループホーム「ベルハウス東山手」の火災で、利用者4人が死亡し、8人が搬送された事故が大きく報道されました。
 「2度指導も防火扉不備放置」(2013.02.10長崎新聞)、「設置『困難』、市に説明 スプリンクラーで運営会社」(2013.02.10時事通信)など防火体制の不備が指摘されるほか、「3階に無届け居室 定員超の可能性」(2013.02.09朝日新聞)と1ユニットの定員上限9人を超えていたとの指摘もあります。
 認知症高齢者グループホーム(以下、グループホーム)の火災では、2006年1月、同じ長崎県大村市の「やすらぎの里さくら館」(死亡7人、負傷3人)、2010年3月には北海道札幌市の「グループホームみらいとんでん」(死亡7人、負傷2人)と悲劇がありました。
 厚生労働省では2010年の火災を受けて、総務省消防庁、国土交通省との「3省庁緊急プロジェクト」を開催し、2010年6月15日、「認知症高齢者グループホームにおける防火安全体制に関する緊急調査に関する調査結果」(以下、調査)をまとめています。
 調査には「ユニット別平均自力避難困難者数」、つまり自分で逃げることができない利用者の推計があり、1ユニットで4.5人、2ユニットで8.9人になることが報告されています。

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防火体制ではスプリンクラー整備が低い
 2000年度に介護保険がスタートするとき、グループホームは「認知症ケアの切り札」とされ、1999年以前は178事業所だったのが、2010年には9,851事業所と55倍に増えました。特に2003~2006年にかけては年間1,000事業所を超える新設ラッシュでした。
 調査によると、ユニット数は1ユニット(定員5~9人)が約4割、2ユニットが5割強で、建物は単独型が約65%、併設型が約35%と報告されています(表1参照)。
 防火体制では消火器、自動火災報知設備、火災通報装置の設置は7割を超えますが、スプリンクラーの設置は約4割と低くなっています(表2参照)。また、スプリンクラーは275㎡以上に設置義務がありますが、調査時点で設置義務のある約8割のうち、実際に設置しているのは約48%で、半数以上が未設置の状況でした。なお、未設置の約6割が「2012年3月までに設置予定」と回答しています。
 スプリンクラーの設置には補助金(地域介護・福祉空間事業所整備交付金)が準備されましたが、調査では補助金を受けているのは1,967事業所に留まり、「補助制度があっても自己負担が重いことから二の足を踏む事業者もある」(2013.02.09毎日新聞)という指摘があります。

火災発生時刻は夜間
 また、「非常災害対策の実施状況」では、ほとんどの事業所が「消防計画の届け出」、「関係機関への通報・連携体制の構築」、「計画及び通報・連携体制についての従業者に対する周知」、「避難訓練」を行なっていますが、「夜間の避難に関する訓練の実施」は約6割と下がります(表3参照)。
 グループホームの火災発生時刻は、「やすらぎの里さくら館」(大村市)は午前2時30分、「グループホームみらいとんでん」(札幌市)は午前2時25分、今回の「ベルハウス東山手」は午後7時40分で、いずれも夜間です。
 そして、グループホームの夜勤体制は1ユニット1人ですが、利用者だけでなく夜勤職員も負傷しています。

職員1人で約5人を避難させる?
 調査では、グループホームの利用者約14万人のうち、「自力避難が困難と思われる者の数」は約7万4000人とほぼ半数になることを報告しています。利用者の認定ランクは要介護2以上が8割で、要介護4・5が4分の1を占め、年齢も85歳以上が約54%となっています(表4参照)。
 また、「ユニット別平均自力避難困難者数」は1ユニットが4.5人、2ユニットが8.9人で、夜勤職員は1ユニット1.0人、2ユニット1.9人なので、夜間に火災を含めて災害が起こった場合、通報はもちろんのこと、1ユニットでは職員1人で“自力避難”できない4.5人を、2ユニットでは職員1人で4.7人をカバーしなければならない、という非現実的な数字になります(表5参照)。

夜勤職員は1人でいいのか?
 現在、グループホームは全国1万2,504事業所、利用者17万1,700人(政府統計の総合窓口「介護給付費実態調査月報」2012年10月審査分より)です。
 厚生労働省は、2017年にはグループホームの利用者は、現在より8万人増えて25万人になると推計しています(「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」より。
 2012年6月18日にまとめられた「今後の認知症施策の方向性」(厚生労働省認知症施策検討プロジェクトチーム)では、「4.地域での生活を支える介護サービスの構築」として「地域の認知症ケアの拠点としての『グループホーム』の活用の推進」が語られています。
 「認知症ホーム、避難体制の点検指示 厚労省」(2013.02.09読売新聞)、「介護施設、防火扉なし 長崎市火災、70カ所緊急査察へ」(2013.02.09西日本新聞)など、今後、グループホームの防火体制の強化が図られると思われますが、「認知症ケアの拠点」を充実させるには、夜間勤務の複数体制の検討があわせて必要ではないでしょうか。


表1 グループホームのタイプ
ユニットタイプ建物形態建物構造建物の種類
1ユニット40.00%単独型64.60%平屋38.00%新築74.30%
2ユニット53.50%併設型35.40%平屋以外62.00%賃貸・購入25.70%
3ユニット以上6.40%
厚生労働省「認知症高齢者グループホームにおける防火安全体制に関する緊急調査に関する調査結果」(2010.06.15公表)より
表2 グループホームの防火体制
設置状況消火器自動火災
報知設備
火災通報装置スプリンクラー
あり99.50%85.90%73.00%39.50%
なし0.50%14.10%27.00%60.50%
厚生労働省「認知症高齢者グループホームにおける防火安全体制に関する緊急調査に関する調査結果」(2010.06.15公表)より
表3 グループホームの非常災害対策の実施状況
消防計画の
届け出
通報・連携
体制
従業者への
周知
避難訓練夜間
避難訓練
あり94.70%96.20%95.60%88.70%62.90%
なし5.20%3.80%4.40%11.30%37.10%
厚生労働省「認知症高齢者グループホームにおける防火安全体制に関する緊急調査に関する調査結果」(2010.06.15公表)より
表4 グループホームの利用者
利用者合計14万2,058人
自力避難困難者7万3,683人
性別-
男性19.50%
女性80.40%
認定ランク-
要支援20.60%
要介護118.70%
要介護226.30%
要介護329.00%
要介護416.90%
要介護58.40%
年齢-
65歳未満1.20%
65~74歳7.30%
75~84歳37.70%
85歳以上53.70%
厚生労働省「認知症高齢者グループホームにおける防火安全体制に関する緊急調査に関する調査結果」(2010.06.15公表)より
表5 避難困難者と職員数
平均利用者平均自力避難
困難者
平均常勤換算
職員
平均夜勤職員
1ユニット8.6人4.5人4.5人1.0人
2ユニット17.3人8.9人7.9人1.9人
厚生労働省「認知症高齢者グループホームにおける防火安全体制に関する緊急調査に関する調査結果」(2010.06.15公表)より


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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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