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どうなる? 介護保険

定期巡回・随時対応サービスの“障壁”はなにか?

 1月17日、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社は「アンケート結果からみる『定期巡回・随時対応サービス』」(2012年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金〈老人保健健康増進等事業分〉 以下、アンケート)を公表しました。
 定期巡回・随時対応サービス(定期巡回・随時対応型訪問介護看護)は、 「地域包括ケア」の“目玉サービス”として、2012年度から地域密着型サービスに新設され、厚生労働省老健局は2015年改定に向けてさらに「提供体制の充実」を目指すとしています(第42回社会保障審議会介護保険部会〈2013.01.21〉資料2「介護分野の課題」より)。
 アンケートの目的は、定期巡回・随時対応サービスに参入する事業所が少ない理由(障壁)を明らかにすることで、(1)“参入していない”訪問介護事業所のサービス・イメージにギャップがある、(2)看護職員、連携訪問看護ステーションの確保が困難、(3)ケアマネジャーへの周知や理解の低さ、(4)利用者、家族への周知や理解の低さ、が挙げられています。

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事業計画を大きく下回る定期巡回・随時対応サービス
 アンケートのデータは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が1月17・18・21日に東京・大阪・福岡の3ヵ所で開催したシンポジウム「実践から見えてきた定期巡回・随時対応サービスの姿」のために暫定集計した「速報値」で、確定データの報告書は4月に公開予定です。
 「2015年改定に向けた議論のスタート」(1月23日更新)でも紹介しましたが、同サービスは、第5期(2012~2014年度)介護保険事業計画(以下、計画)では、1年目の2012年度に全国の189保険者(市区町村)が事業所を指定し、利用者は6,000人と見込みました。
 しかし、2012年11月現在、75保険者(計画の40%)が125事業所を指定し、利用者は1,060人(計画の18%)と低調であることが報告されています(表1参照)。

要介護1・2の利用者が半数以上
 アンケートは2012年10~11月に実施され、ホームヘルプ・サービス事業所のなかで、サービスを提供している39事業所(回収率56%)の「実態」、提供していない4,532事業所(回収率28.4%)の「サービスのイメージ調査」などを報告しています。
 介護報酬上の区分は、ホームヘルプ・サービス事業所と訪問看護ステーションの「一体型」と「連携型」で、2012年9月時点では「一体型」が11事業所(21%)、「連携型」が42事業所(79%)です(厚生労働省大臣官房統計情報部「介護給付費実態調査月報(2012年9月審査分)」統計表より)。
 しかし、アンケートでは“便宜上の区分”として、「地域提供型」(32事業所)と「集合住宅型」(7事業所)の2タイプに分けられています。
 利用者数は5人未満が12事業所ともっとも多く、0人も4事業所あります。
 定期巡回・随時対応サービスは、在宅サービスを利用する“中重度者”向けに構想されたそうですが、アンケートの認定ランクをみると、要介護1・2が半数以上を占め、要介護4・5は「地域提供型」で約3割、「集合住宅型」で約2割です。

看護師のアセスメント訪問は「月1回」が約7割
 訪問回数をみると、全体では要介護1~5まで3回以上となっていますが(表2-1参照)、認定ランクが上がるにつれて訪問回数が増えるという傾向はみられません。特徴的なのは、「集合住宅型」(7事業所)の訪問回数は、要介護3を除くと、「地域提供型」(32事業所)に比べて約2倍以上多いことです(表2-2参照)。
 また、看護職員による「訪問(アセスメント目的)」は月1回が27事業所(69%)で、2回が1事業所(3%)、3回以上が4事業所(10%)です。
 定期巡回・随時対応サービスは「訪問介護と訪問看護の両方を提供」するとされていますが、アンケートではホームヘルパーと訪問看護師それぞれの訪問回数は報告されていません。

“随時対応”が多いのは「日中」
 定期巡回・随時対応サービスは、「日中・夜間を通じて」、「定期巡回と随時の対応を行う」ともされています。
 「コールの回数と対応」では、1カ月間に利用者がコールするのは「地域提供型」(利用者204人)が6.9回、「集合住宅型」(利用者184人)が15.9回で2倍以上の差があります。
 また、コールに応じた“随時訪問”の割合は、「地域提供型」が25%、「集合住宅型」が93%とこちらも極端に開きがあります。
 コールが多い時間帯は「日中」に集中し、「地域提供型」は約59%、「集合住宅型は約55%です(表3参照)。

提供していない事業所の“イメージ・ギャップ”
 「サービスのイメージ調査」では、「『夜間・深夜の対応が中心』と認識している」、「コール対応が中心のイメージが中心」、「軽度の利用者には不向き」など、定期巡回・随時対応サービスに参入していない事業所の“イメージ”が、参入している39事業所の“イメージ”と異なると指摘しています。
 定期巡回・随時対応サービスへの事業所参入が低いのは、サービスへの誤った“イメージ”があるからなのでしょうか?

利用者の“ニーズ”はどこに?
 要介護1・2の利用がなぜ多いのか、訪問看護師の訪問は月1回で十分なのか、「地域提供型」と「集合住宅型」でコール回数や対応に大きな開きがあるのはなぜかといった疑問については、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の「4月の報告書」を待たなければならないようです。
 ふりかえってみると、地域包括ケア研究会(田中滋・座長)がまとめた「地域包括ケア研究会報告書」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、2009年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金)は、「在宅サービスは重度者を支えきれていない」として「高齢者ニーズを的確に捉えた地域包括ケアシステム」を提唱し、ホームヘルプ・サービスは「滞在型中心から、24時間短時間巡回型(夜間対応も含む)」に転換すべきとしました。
 続いて、24時間地域巡回型訪問サービスのあり方検討会(堀田力・座長)は「24時間地域巡回型訪問サービスのあり方検討会報告書」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、2010年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金)で、「『単身・重度の要介護者』であっても、在宅を中心とする住み慣れた地域で生活を継続」するために、「必要な介護・看護サービスを包括的、かつ継続的に提供する」定期巡回・随時対応サービスの基本設計をしました。
 しかし、今回のアンケートが「さらなる普及に向けて、取り組むべき点」とするのは、ケアマネジャーの理解など関係者に対する周知が中心で、サービス内容そのものは吟味されていません。
 2015年改定に向けて、まず「高齢者ニーズを的確に捉える」調査を行い、在宅の要介護認定者をはじめ、保険者(事業所の指定権限を持つ市区町村)も含めた“障壁”の分析をしたうえで、「提供体制の充実」を検討するべきではないでしょうか。

表1 定期巡回・随時対応サービスの計画と実績
第5期介護保険事業計画実績
2012年度2013年度2014年度2012年11月2012年度計画比
指定市区町村189市区町村283市区町村329市区町村75市区町村40%
指定事業所125事業所
利用者6,000人12,000人17,000人1,060人18%
第42回社会保障審議会介護保険部会(2013.01.21)資料1「介護分野の最近の動向」より

表2-1 定期巡回・随時対応サービスの利用者と訪問回数(全体)

全体利用者訪問の状況
389人39事業所
要介護124.70%3.2回
要介護227.50%4.0回
要介護321.30%3.8回
要介護416.70%5.6回
要介護59.80%4.4回
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「アンケート結果からみる『定期巡回・随時対応サービス』」(2012年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金〈老人保健健康増進等事業分〉)より

表2-2 定期巡回・随時対応サービスの利用者と訪問回数(「地域提供型」と「集合住宅型」)

地域提供型集合住宅型
利用者訪問の状況利用者訪問の状況
207人32事業所182人7事業所
要介護120.80%2.3回29.10%6.3回
要介護222.70%2.8回33.00%7.7回
要介護324.20%3.5回18.10%4.8回
要介護419.80%4.4回13.20%10.5回
要介護512.60%3.2回6.60%11.3回
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「アンケート結果からみる『定期巡回・随時対応サービス』」(2012年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金〈老人保健健康増進等事業分〉)より
表3 定期巡回・随時対応サービスの随時対応割合
地域提供型(1人当たり/月)集合住宅型(1人当たり/月)
コール数訪問対応対応割合コール数訪問対応対応割合
全体6.9回1.7回24.50%15.9回14.8回93.40%
早朝0.9回0.2回24.70%1.1回0.8回77.30%
日中4.1回0.8回19.70%8.7回8.3回95.60%
夜間0.6回0.3回44.00%2.3回2.1回92.10%
深夜1.3回0.4回30.80%3.9回3.6回93.70%
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「アンケート結果からみる『定期巡回・随時対応サービス』」(2012年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金〈老人保健健康増進等事業分〉)より


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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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