社会保障制度改革国民会議と介護保険
11月30日、社会保障制度改革国民会議(清家篤・会長 以下、国民会議)の第1回が首相官邸で開かれました(内閣府大臣官房政府広報室の政府インターネットテレビ「社会保障制度改革国民会議(第1回)」も配信されています)。
国民会議は今年8月22 日に施行された社会保障制度改革推進法(以下、推進法)に基づき設置され、野田佳彦・内閣総理大臣が召集したもので、消費税の引き上げ分(2014年に8%、2015年に10%)を社会保障制度にどのように使うのかを議論し、来年8月をめどに結論をまとめることが予定されています。
しかし、「選挙公約にみる介護保険」(12月5日更新)で紹介したように、16日が投票日の衆議院議員選挙では、民主党・自民党・公明党の3党以外のほとんどの政党が消費税の引き上げそのものに反対する公約に掲げているため、「3党合意、選挙後に不安」(12月1日朝日新聞)、「衆院選の結果次第」(12月2日読売新聞)という報道もあります。
国民会議の委員はどんな人たちか?
国民会議の委員(第1回資料1)は15人で、大学教授が11人(うち学長2人)と圧倒的に多く、民間調査会社が2人、医療機関が1人、マスコミが1人という構成です。
2012年に限って表にまとめてみましたが、厚生労働省が事務局を担当する中央社会保険医療協議会、社会保障審議会、労働政策審議会、厚生科学審議会、各審議会の下に設置された部会や私的諮問機関(懇談会、研究会、検討会など)の委員が12人、財務省が担当する財政制度等審議会と関税・外国為替等審議会などの委員が3人、首相官邸に設置されている構造改革特別区域推進本部の専門委員が2人、該当しない1人は元大臣という構成です(数えた人数には重複があります)。
必要に応じてヒアリングを行なうことになっていますが、大学教授、審議会委員、男性が圧倒的に多い“国民会議”です。
女性委員の参加は1割未満
なお、「2020年までに男女いずれか一方の委員会の数が、委員総数の10分の4未満とならない状態を達成するよう努める」(内閣府男女共同参画推進本部「国の審議会等における女性委員の登用の促進について」2000年8月15日)という閣議決定があり、2010年度末までに女性委員を少なくとも3割にするという中間目標がありましたが、国民会議の女性委員は1割を切る2人で、“男女共同参画”は大きく後退しています。
議論の基本は4項目
今後、国民会議は推進法に示された4つの基本項目に沿って、議論を行なう予定です。
1. 家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じて、国民が自立した生活を営むことができるよう支援する
2. 負担の増大を抑制しつつ、持続可能な制度を実現するため、社会保障の機能の充実と給付の重点化及び制度の運営の効率化とを同時に行う
3. 社会保険制度(年金、医療及び介護)の国及び地方公共団体の負担は、社会保険料の国民負担の適正化に充てる
4. 社会保障給付で国及び地方公共団体が負担する費用の主要な財源に、消費税及び地方消費税の収入を充てる
3.にある年金・医療・介護の社会保険料の「国民負担の適正化」は課題を整理して、しっかり取り組んでもらいたいものですが、1.の「家族相互及び国民相互の助け合い」とはなにか、2.に挙げられた「機能の充実と給付の重点化及び制度の運営の効率化」の3点のバランスはどうなるのか、気になるところです。
国民会議と介護保険
介護保険制度については、「政府は、介護保険の保険給付の対象となる保健医療サービス及び福祉サービス(以下「介護サービス」という。)の範囲の適正化等による介護サービスの効率化及び重点化を図るとともに、低所得者をはじめとする国民の保険料に係る負担の増大を抑制しつつ必要な介護サービスを確保するものとする」(推進法第2章第7条)とあります。
12月7日には国民会議の第2回が開かれ、山崎泰彦委員から介護分野について「これまでの取組状況と今後の課題」という報告(資料4)が出されています。
低所得者の介護保険料負担を抑制しながら、「介護サービスの範囲の適正化等による介護サービスの効率化及び重点化」(事務局資料2)するために、委員からどのような意見が出てくるのか、注目したいと思います。
委員 | 所属 | 参加するおもな審議会、私的諮問機関など |
伊藤元重 | 東京大学大学院 経済学研究科教授 |
・関税・外国為替等審議会会長 ・関税・外国為替等審議会関税分科会会長 |
遠藤久夫 | 学習院大学 経済学部教授 |
・中央社会保険医療協議会会長 ・社会保障審議会委員 ・社会保障審議会医療保険部会部会長 ・社会保障審議会 短時間労働者への社会保険適用などに関する特別部会委員長 |
大島伸一 | 国立長寿医療研究センター 総長 |
・社会保障審議会介護給付費分科会委員 ・「統合医療」のあり方に関する検討会座長 |
大日向雅美 | 恵泉女学園大学大学院 平和学研究科教授 |
・社会保障審議会委員 ・社会保障審議会少子化対策特別部会部会長 ・社会保障審議会児童部会部会長 |
権丈善一 | 慶應義塾大学 商学部教授 |
・社会保障審議会年金部会委員 ・社会保障の教育推進に関する検討会座長 |
駒村康平 | 慶應義塾大学 経済学部教授 |
・社会保障審議会委員 ・社会保障審議会生活保護基準部会部会長 ・今後の介護人材養成の在り方に関する検討会座長 ・社会保障制度の低所得者対策の在り方に関する研究会座長 ・社会保障審議会 生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会委員 ・社会保障審議会年金数理部会委員 ・社会保障審議会年金部会委員 ・年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する 専門委員会委員 ・厚生年金基金制度に関する専門委員会委員 ・厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会委員 ・構造改革特別区域推進本部 評価・調査委員会専門部会専門委員 |
榊原智子 | 読売新聞東京本社編集局 社会保障部次長 |
・構造改革特別区域推進本部 評価・調査委員会専門部会専門委員 |
神野直彦 | 東京大学名誉教授 | ・社会保障審議会委員 ・社会保障審議会年金部会部会長 ・厚生年金基金制度に関する専門委員会委員長 |
清家篤 (会長) |
慶應義塾長 | ・労働政策審議会委員 ・労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会部会長 ・労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会部会長 ・労働政策審議会職業能力開発分科会若年労働者部会部会長 ・労働政策審議会雇用均等分科会点検評価部会部会長 |
永井良三 | 自治医科大学学長 | ・厚生科学審議会委員 ・厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会部会長 ・厚生科学審議会科学技術部会 再生医療の安全性確保と推進に関する専門委員会委員長 ・厚生科学審議会科学技術部会 ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに 関する専門委員会委員長 ・厚生科学審議会 科学技術部会ヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会委員長 ・厚生科学審議会ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理指針に 関する専門委員会委員長 ・厚生科学審議会疾病対策部会 臓器移植委員会臓器移植委員会委員長 ・厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会長 ・健診・保健指導の在り方に関する検討会座長 |
西沢和彦 | 株式会社日本総合研究所 調査部上席主任研究員 |
・年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に 関する専門委員会委員 ・社会保障審議会日本年金機構評価部会委員 |
増田寬也 | 株式会社野村総合研究所 顧問 |
元岩手県知事(1995~2007年) 元総務大臣(安倍改造内閣・福田内閣) |
宮武剛 | 目白大学大学院 生涯福祉研究科客員教授 |
・財政制度等審議会委員 ・財政制度等審議会国家公務員共済組合分科会長 ・社会保障審議会年金数理部会長代理 |
宮本太郎 | 北海道大学大学院 法学研究科教授 |
・社会保障審議会委員 ・社会保障審議会 生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会部会長 |
山崎泰彦 | 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 |
・社会保障審議会委員 ・社会保障審議会介護保険部会部会長 ・社会保障審議会年金数理部会部会長 ・財政制度等審議会国家公務員共済組合分科会長代理 |