「ケアマネジャーのあり方」は“保険者機能の強化”にある?
10月10日、厚生労働省老健局は「介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質向上と今後のあり方に関する検討会」(田中滋・座長 以下、検討会)の第6回を開きました。
今回は「ケアマネジャーのゆくえ(3)」(9月5日更新)で報告した第5回の「課題の整理(たたき台)」(資料1)でまとめた課題を解決するための具体案として「本検討会の議論を踏まえた主な課題と対応の方向性(案)」(資料1 以下、「方向性(案)」)が出され、自由意見の交換がおこなわれました。
なお、厚生労働省は翌11日から、パブリックコメント「介護支援専門員の資質向上と今後のあり方に関するご意見の募集」(以下、パブリックコメント)を開始しています(応募方法はメール、ファックス、郵送)。締め切りは10月31日で、参考資料は上記の第5回資料1、第6回資料2になります。
意見は8項目ですが、介護保険法の改正が必要と示された「地域包括支援センターに地域ケア会議を制度的に位置づける」と「居宅介護支援事業所の指定を都道府県から市区町村に委譲する」のふたつが注目されます。
意見募集は8項目
パブリックコメントの募集項目は以下になります。
(1)介護保険法における「自立支援」とそれに向けたケアマネジメントのあり方
(2)介護支援専門員の支援のための地域ケア会議の役割強化
(3)地域包括支援センターにおける介護予防支援業務(要支援者の介護予防サービス計画作成業務)
(4)主任介護支援専門員の役割
(5)居宅介護支援事業所の指定を市町村とすること
(6)ケアマネジメントにおける医療との連携
(7)介護支援専門員の専門性(知識・技能)の向上(実務研修受講試験、研修カリキュラム等)
(8)介護保険施設における介護支援専門員のあり方
具体的な方法は法改正など3タイプ
表にまとめましたが、「方向性(案)」には、パブリックコメント募集8項目のうち6項目について具体的な説明があります。
「方向性(案)」を具体化する方法には、「法制度上の見直し」(介護保険法改正)、「介護報酬の検討」(介護報酬改定)、「運用面・実践面での強化」(基準の見直し)の3タイプがあります。
ケアプランは誰のもの?
介護保険法の改正が必要な項目は、「地域包括支援センターに地域ケア会議を制度的に位置づける」と「居宅介護支援事業所の指定を都道府県から市区町村に委譲する」のふたつです。
「地域包括支援センターに地域ケア会議を制度的に位置づける」は、地域包括支援センターに地域ケア会議を義務づけ、「利用者の意向を踏まえつつ」、「利用者、家族の要望のみに基づいたケアマネジメントではなく、自立支援を前提としたケアマネジメントを行なう」と説明がつけられています。ちなみに、“自立支援”という抽象的な表現について、具体的な説明をした文章はありません。
地域包括支援センターは全国に4,224センター(市区町村直営が約3割、委託が約7割)で、ブランチ2,579カ所、サブセンター370カ所、従事者数約2万3,000人と報告されています(株式会社三菱総合研究所「地域包括支援センターにおける業務実態に関する調査研究事業報告書」〈2010年度厚生労働省老人保健健康増進等事業〉2012.05.08より)。
地域ケア会議は、保険者である市区町村または地域包括支援センターが主催し、「市町村・地域包括支援センター・介護支援専門員・事業者が一堂に会して、要介護・要支援および特定高齢者のケアプランおよび事業内容について、個別ケースごとに支援の方法・方向性を検討したり、事後に評価したりする」ことが目的とされています。
全国でみると、地域包括支援センターが開催している市区町村が52.5%、市区町村と地域包括支援センターの共催が13.9%、市区町村の開催が10.3%になります(厚生労働省老健局「第5期市町村介護保険事業計画の策定過程等に係るアンケート調査結果について」より)。
検討会では、利用者と家族はサービス担当者会議に出席しているので地域ケア会議に参加する必要はない、保険者である市区町村が「課題がもれているケアプラン担当者を呼んで補正する」といった発言が出ています。
昨年の通常国会では、要支援認定を受けた人を介護予防サービスから介護予防・日常生活支援事業(新設)に移行するのは、利用者の意向より市区町村の判断が優先するという介護保険法の改正がおこなわれました。今度は個別のケアプランの内容について利用者や家族の意向より、市区町村の“補正”が優先することになるのでしょうか。
検討会では「在宅医療を急速展開する必要に迫られるなか、福祉系が9割を占めるケアマネジャーが在宅医療拠点事業に参加しなければならない」という意見もあり、市区町村の判断で個別ケアプランを医療系サービスに誘導する目的も含まれるようにみえます。
居宅介護支援事業所は市区町村が指定する?
法改正が必要と提案されているもうひとつの項目は、「居宅介護支援事業所の指定を都道府県から市区町村に委譲する」です。基本的な考え方としては、「地域ケア会議での保険者機能の役割の強化を図っていく」ために指定権限を都道府県から市区町村に移すとしています。
現在、居宅介護支援事業所は全国に2万7,158事業所(政府統計の総合窓口「2010年介護サービス施設・事業所調査」より)で、民間会社が約4割、社会福祉法人が約3割を占めています。
介護保険の事業所は、措置制度の時代と異なり、「“市場競争”により良質の事業所が残る」と説明された記憶がありますが、市区町村に指定権限が移るとどのような影響が出てくるのでしょうか。
また、介護保険の運営主体である市区町村にはさまざまな業務がありますが、「方向性(案)」によれば市区町村に居宅介護支援事業所の指定業務、地域ケア会議の開催の義務化による事務負担などが新たに発生することになり、市区町村の反応も注目されます。
検討会の目的は?
検討会は「ケアマネジャーの資質向上と今後のあり方」という名称を掲げていますが、5回の議論を経て浮上した重要項目は「保険者機能の強化」です。
なお、「方向性(案)」にはないけれど、パブリックコメントで新たに意見を求めているのは、「3.地域包括支援センターにおける介護予防支援業務(要支援者の介護予防サービス計画作成業務)」と「4.主任介護支援専門員の役割」の2項目です。
パブリックコメントの締め切りは10月末までとあまり時間がありません。多くのみなさんが意見を提出し、検討会で集計結果について誠実な検討がおこなわれることを望みたいものです。
1.介護保険法における「自立支援」とそれに向けたケアマネジメントのあり方 | |
→ 地域ケア会議の強化 | |
利用者の意向を踏まえつつ、自立支援に資するケアマネジメントの推進を図る | |
利用者や家族の要望のみに基づいたケアマネジメントではなく、自立支援を前提としたケアマネジメント | |
第6回資料1-3-(1) | |
2.介護支援専門員の支援のための地域ケア会議の役割強化 | |
→ 介護保険法改正、介護報酬改定、基準の見直し | |
地域包括支援センターに地域ケア会議を制度的に位置づける | |
第6回資料1-3-(2) | |
3.地域包括支援センターにおける介護予防支援業務(要支援者の介護予防サービス計画作成業務) | |
4.主任介護支援専門員の役割 | |
5.居宅介護支援事業所の指定を市町村とすること | |
→ 介護保険法改正 | |
居宅介護支援事業所の指定を都道府県から市区町村に委譲する | |
第6回資料1-3-(3) | |
6.ケアマネジメントにおける医療との連携 | |
→ 基準の見直し | |
重度者、医療の必要性が高い利用者のため医療との連携強化を図る | |
急性期、回復期の入院から退院後の在宅への移行時などの適切な連携を促進する | |
第6回資料1-3-(4) | |
7.介護支援専門員の専門性(知識・技能)の向上 | |
→ 試験・研修制度の見直し、基準の見直し、調査・研究 | |
アセスメントからケアプラン作成に至る思考過程を明確にする共通の「課題抽出シート」の導入を検討する | |
「ケアマネジメント向上会議(仮称)」など公開の場でケアマネジメントの評価・検証を行なう | |
多職種協働により、自立支援に資するサービス提供に実効性のあるケアカンファレンスの開催を徹底する | |
ケアプランの評価・見直しに関する様式の導入を検討する | |
ケアマネジメントを評価するための調査・研究を進める | |
実務研修受講試験の受験要件の見直し、研修方法の見直し、研修指導者用ガイドラインの策定 | |
ケアマネジャーが従事するサービスの多様性を踏まえた実践的な専門研修とする | |
第6回資料1-3-(5) | |
8.介護保険施設における介護支援専門員のあり方 | |
→ 介護報酬の見直し、研修の見直し | |
施設と在宅、地域の連続性を確保するケアマネジメントのあり方を検討する | |
ケアマネジャーを施設のケアカンファレンスの調整役として位置付けることを検討する | |
介護保険施設の相談支援業務との関係の整理を検討する | |
第6回資料1-3-(6) |