生活保護のゆくえ
9月28日、社会保障審議会社会保障審議会生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会(宮本太郎・部会長 以下、特別部会)の第8回が開かれ、「『生活支援戦略』に関する主な論点(案)」(資料1)として、新たな生活困窮者支援体系と生活保護制度の見直しというふたつのテーマに論点が示されました。
「生活支援戦略」は社会保障・税一体改革大綱(2012年2月17日閣議決定)に盛り込まれ、(1)生活困窮者への安定的な支援のため法制化も含めて検討する、(2)生活保護制度の不正受給対策を徹底するため生活保護法改正も含めて検討するために、7年間の中期プラン(2013~2019年)を策定する予定です。(2012年7月5日、厚生労働省「『生活支援戦略』中間まとめ」より)。
特別部会は、「生活困窮者対策と生活保護制度の見直しについて一体的に検討する専門部会」(第1回資料5)と位置づけられ、2011年4月から議論が続いています。また、同時期に、生活保護基準の定期的な評価・検証をおこなう目的で、社会保障審議会生活保護基準部会(駒村康平・部会長)も設置され、10月5日には第10回が開かれる予定です。
「生活困窮者」とはだれか?
特別部会では「生活困窮者・孤立者」の資料として、非正規雇用者(パート835万人、アルバイト346万人、派遣職員92万人、契約社員・嘱託340万人、その他120万人)、ひとり暮らし高齢者(479万人)、母子家庭(76万世帯)、フリーター・ニート(フリーター176万人、ニート60万人)、ひきこもり(26万世帯)、多重債務者などを挙げています(第1回資料3-1「生活困窮者・孤立者の現状」より)。
論点(1)では、「生活困窮者」への支援としては、“稼働層”を対象に総合的な相談窓口を設置し、訪問型支援(アウトリーチ)、チームアプローチによる支援を展開し、「『官民協働』の支援態勢」により「『包括的』かつ『伴走型』の支援態勢」を築き、“生活困窮状態”からの脱却をはかるとしています。
新たな“相談支援”モデル事業に55億円
厚生労働省は「2013年度予算概算要求の概要」(要求額30兆266億円、2012年度比8,514億円増)で、すでに「生活困窮者支援モデル事業」(総合相談支援センター(仮称)の設置、多様な就労支援や生活支援事業など生活困窮者支援のモデル事業を実施)として55億円を計上しています。
現行制度でも、ひとり暮らし高齢者に対応する地域包括支援センターなど表1のように相談機関があり、専門職の配置が少ないなど課題も出されています。にもかかわらず、「生活困窮者支援体系」のために相談機関や相談職を新たに構想するのは、既存の相談機関との調整も含めてさらに支援体制が複雑になるのではないかという懸念もあります。
生活保護制度の見直し案
特別部会では生活保護制度の見直しについては、表2にまとめたように、「切れ目のない就労・自立支援とインセンティブの強化」、「健康・生活面等ライフスタイルの改善支援」、「医療扶助の適正化」、「不正・不適正受給対策の強化等」、「地方自治体の負担軽減」の5項目について、細かい案が出されています。
新聞報道は、「生活保護の不正厳罰化 厚労省が見直し案」(2012.09.28共同通信)、「生活保護 『アメとムチ』 厚労省案、安全網後退の懸念も」(2012.09.28毎日新聞)、「生活保護 扶養できぬ理由、説明義務 厚労省が見直し案」(2012.09.29朝日新聞)、「生活保護受給者の就活支援…厚労省が対策案」(2012.09.29読売新聞)など、ポイントのおさえ方がまちまちです。
「生活困窮者支援モデル事業」は“稼働層”が対象のようで、働けるのに生活保護を利用するしかない状況にある人への支援が本格化するのは歓迎すべきことです。しかし、同時並行で検討されている生活保護制度の大幅な見直し案では、対象は限定されていません。
案のなかには、福祉事務所が領収書や家計簿の提出を求めることができる、健康診査結果を入手することができるといったプライバシーに抵触するのではないかと思われる項目があります。
また、受給者211万5,477人のうち医療扶助を受けているのは169万9,573人になりますが、「受給者自らが健康管理を行う責務を明記する」とあるのは妥当な考え方でしょうか(厚生労働省社会・援護局「被保護者調査月別概要2012年6月分概数」より)。
また、「扶養できない」と回答した “扶養義務者”は福祉事務所への説明が責務となり、福祉事務所と“扶養義務者”の協議が不調なときは家庭裁判所への調停の申し立てを積極的に活用するとあります。
「生活支援戦略」がめざす不正受給防止案の数々が受給者の個人生活に深く介入するのを読んでいると、単なる“受給防止案”にもみえてしまいます。
特別部会、生活保護基準部会の今後の議論に注目したいと思います。
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難病相談・支援センター |
1.切れ目のない就労・自立支援とインセンティブの強化 | ||
生活保護基準体系の見直し(就労支援の上乗せ給付など) | ||
保護開始6カ月で自立計画を策定 | ||
就労活動3~6カ月で、職種・就労場所の拡大に柔軟対応 | ||
「低額・短時間であってもまず就労する」(月額5万円程度)方針の明確化 | ||
勤労控除の水準や控除率の見直し(特別控除の廃止を含む) | ||
「就労収入積立制度(仮称)」の新設 (受給中に一定額を仮想的に積み立て、保護廃止時に支給) | ||
保護脱却後は「生活困窮者対策の総合相談体制」でフォローアップ支援 | ||
車の処分を保留する期間の延長を検討 | ||
保護脱却が見込める場合の敷金、移送費などを負担 | ||
身元保証制度の創設、就労受入協力事業所の開拓推進 | ||
2.健康・生活面等ライフスタイルの改善支援 | ||
健康管理 | ||
「3.医療扶助の適正化」参照 | ||
家計管理 | ||
福祉事務所が受給者の領収書や家計簿作成を求めるなど事後把握の取組み | ||
住宅扶助 | ||
「4.不正・不適正受給対策の強化等」参照 | ||
居住支援 | ||
民間住宅への受入促進 | ||
居住支援を民間団体に委託(高齢・独居者の孤独防止、地域生活継続も可能) | ||
3.医療扶助の適正化 | ||
健康管理の徹底 | ||
受給者自らが健康管理を行う責務を明記し、健康面に着目した支援を強化 | ||
健康診査結果を福祉事務所が入手可能にする | ||
受給支援体制の整備 | ||
福祉事務所の保健指導、疾病の早期発見、重症化予防、 医療機関との連携、医療扶助の相談・助言体制などの強化 | ||
セカンド・オピニオン(検診命令)の活用 | ||
福祉事務所の嘱託医などによる指示の徹底 | ||
指定医療機関の体制強化・負担軽減 | ||
4.不正・不適正受給対策の強化等 | ||
調査・指導権限の強化 | ||
福祉事務所の調査対象に「過去に保護を受給していたもの及びその扶養義務者」を追加・明確化 | ||
官公署(税務署)などに回答義務を創設 | ||
福祉事務所に保護の決定及び実施などに必要な説明を求めることができる権限を設ける | ||
不正受給に係わる返還金と保護費との調整 | ||
不正受給返還金について保護費との調整を検討 | ||
第三者求償権の創設 | ||
福祉事務所が保護受給者の交通事故などによる損害保険などの請求ができる「第三者求償権」を創設 | ||
滞納返還金に対する税の滞納処分例(財産の差し押さえ)による処分の創設 | ||
稼働能力があるにもかかわらず就労意思のない者への審査の厳格化 | ||
制裁措置の強化 | ||
「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金」の引き上げを検討 | ||
不正受給の場合は返還金に加算することを検討 | ||
適正支給の確保 | ||
住宅扶助費の代理納付の推進 | ||
扶養困難と回答した扶養義務者の福祉事務所への説明責務 | ||
福祉事務所と扶養義務者の協議不調の場合、家庭裁判所への調停申立を積極活用 |