介護に関する“国民意識”
8月に「国民生活に関する世論調査(2012年6月)」(内閣府大臣官房政府広報室 以下、世論調査)が公表されたことは、「介護と仕事の“両立”」(8月29日更新)で紹介しました。
世論調査(有効回答6,351人)では「日常生活での悩みが不安」がある人が約7割にもなります。具体的内容では「老後の生活設計について」がトップ(55.3%)で、1981年には20.3%だったのが1991年に40.5%と倍増し、2003年に過半数を超えました。
また、「家庭の役割」では「家族の団らんの場」(64.4%)と「休息・安らぎの場」(62.2%)が上位で、「親の世話をする場」は14.1%と低いものの、1999年の3.3%と比べると4倍以上に増えています。2000年にはじまった介護保険制度は“介護の社会化”を語りましたが、国民意識では“介護の家族化”がすすんでいるのでしょうか。
85歳を超えて子どもと「再同居」
国立社会保障・人口問題研究所が5年ごとに実施している「世帯動態調査」(以下、動態調査)の第6回結果の概要(2009年、有効回答11,355世帯)では、高齢者(65歳以上)のうち子ども(18歳以上)がいるのは93.4%になるが、子どもと同居するのは48.9%とほぼ半減し、60歳代後半から70歳代前半が同居割合がもっとも低くなる“エンプティ・ネスト(空の巣)期”と報告しています。
ただし、子どもとの同居は70歳代後半から再び上昇し、85歳以上では男性の54.5%、女性の70.4%になります。動態調査では、「健康状態の変化を理由として、別居していた親子が再び同居する傾向がある」と分析しています。介護保険サービス利用者の平均年齢が82.5歳で、在宅での利用が約8割になるのと一致していると思われます。
高齢者の7人にひとりは超高齢者と同居
しかし、5年前の第5回動態調査(2004年)に比べると同居割合は低下傾向にあり、「65歳以上のほぼ7人に1人は、自分よりさらに高齢の親が生存している」という“老老介護”の分析も示しています。
介護者の相反する“意識”
8月23日、株式会社明治安田生活福祉研究所は「2012年介護生活の実態と意識に関する調査結果概要」(インターネット有効回答1,032人)を公表しました。
こちらは実際に介護している人が対象で、回答者の7割が介護保険サービスを利用し、デイサービス(62.6%)、ホームヘルプ・サービス(39.7%)、ショートステイ(34.2%)と在宅サービスが上位を占めています。
1割負担の利用限度額の“消化状況”では、5割以下が33.7%になり、その理由は「限度額まで利用しなくても十分」、「できるだけ身内で介護したい」がそれぞれ3割を超えています。しかし、3人に2人は「介護にもっとお金をかけることが可能であれば利用したい」とも回答し、ホームヘルプ・サービス(24.9%)、ショートステイ(24.6%)がほぼ並び、有料老人ホーム(22.3%)、デイサービス(21.6%)と続きます。
介護保険サービスはそれほど必要ではないが、もっとお金があるなら利用したい、という相反する介護者の回答についての分析はありませんが、「介護をしていて苦労を感じることがある」のは男性が89.3%、女性が93.8%と高く、なかでも「精神的な負担」が男女ともに7割を超えています。
福祉と負担の「意識調査」
介護疲労を解消するにはお金が必要ということになりそうですが、株式会社三菱総合研究所がまとめた「2011年度国民意識調査報告書」(インターネット有効回答3,144人)では、「日本の社会観」について「お金があればたいていのことがかなう社会」と考える人が84.1%(そう思う28.2%+どちらかといえばそう思う55.9%)と高い割合を示しています。
また、「福祉を充実させるため、われわれの負担が重くなってもやむをえない」と考える人は49.8%(やむをえないに近い5.1%+どちらかといえばやむをえないに近い44.7%)とほぼ半数です。
現実と負担の“距離”を縮めるには?
100歳以上の“百寿者”が5万人を超えた(厚生労働省「今年度中に百歳になられる高齢者」より)そうですが、日常生活が自立しているのは19.3%、要支援30.3%、寝たきりが50.4%で、8割は介護が必要な状態とのことです(佐藤眞一・大阪大学大学院教授、ハスカップ・セミナー2012-No.04「ご老人は謎だらけ ~自立から自律へ~」より)。
高齢者3,000万人時代を迎え、「老後の生活設計」に不安を抱え、高齢の親との「再同居」を迫られる現実のなか、社会保障制度の負担増には足踏み状態という“国民意識”がみてとれます。