低所得者のサービス利用
「不正受給」がなにかと話題になる生活保護ですが、制度については毎年、「福祉行政報告例」(厚生労働省大臣官房統計情報部)が公表されています。
最新の「2010年度福祉行政報告例の概況」では、生活保護を利用するのが141万49世帯と過去最高になり、「高齢者世帯」が60万3,540世帯(42.8%)でもっとも多いと報告しています。
生活保護の利用が多いのは「高齢者世帯」と「傷病・障害者世帯」で、1970年代から「傷病・障害者世帯」が4割と最多でしたが、2000年代になって「高齢者世帯」が4割を超え、順位が入れ替わりました。
生活保護は住宅、医療、教育など「扶助」が分かれていますが、「介護扶助」(自己負担部分)の利用者は22万8,235人になります。
しかし、生活保護の対象となる人は介護保険サービスの利用料をカバーしてもらえるけれど、生活保護にまで至らない低所得の高齢者にとって1割負担が苦しくて利用できないという話もよく聞きます。
「社会保障制度の低所得者対策」
厚生労働省政策統括官付社会保障担当参事官室は5月、社会保障制度の低所得者対策の在り方に関する研究会(駒村康平・座長 以下、研究会)をスタートさせました。
「社会保障・税の一体改革」では消費税の引き上げとともに、「低所得者の負担軽減により所得再分配機能を強化する」ため、医療・介護・保育等に関する自己負担の合計額に上限を設定する「総合合算制度」の創設が提案されています。研究会は「社会保障制度の低所得者対策のあり方について学術的な見地から総合的に議論する場」と位置づけられています。
5月28日に開かれた第1回では、「社会保障制度の低所得者対策」(関連資料)として年金保険、医療保険、介護保険、障害者自立支援制度、保育サービスそれぞれの現状が示されました。
第1号介護保険料の負担軽減対象は914万人
また、7月31日に開かれた第2回では、介護保険料の負担段階別第1号被保険者数が示されました(表参照)。
65歳以上の第1号被保険者は2,910万7,649人(2010年度末、福島県5町1村を除く)で、市区町村ごとに設定された第1号保険料の基準額(第4段階)以上払っている人は1,996万7,520人(68.6%)、第1~3段階で負担軽減の対象となるのは914万129人(31.4%)です。介護保険という公的保険制度に加入している約1/3の人が、低所得者として負担軽減の対象になっているわけです。
2010年度の年間平均の認定者は506万人(国民健康保険中央会「認定者・受給者の状況」2010年度年間分より)ですが、介護保険料の低所得者対策の対象になる31.4%を単純計算でかけると約159万人になります。そのうち約23万人が生活保護の「介護扶助」の対象で自己負担が免除されていると考えた場合、残りの136万人が生活保護の対象にならない低所得者になります。年間平均の未利用者95万人を41万人もうわっていることになります。
また、2010年度にサービスを一度でも利用したのは492万8,200人(年間実受給者)ですが、利用が1年に満たなかった人は196万2,800人(厚生労働省大臣官房統計情報部「2010年度介護給付費実態調査の概況」より)になります。
「『認定者』と『利用者』」(7月4日更新)、「『利用者』の数え方」(8月1日更新)としつこく書いていますが、なぜ通年利用しなかったのか全国的な調査がありません。低所得の認定者のサービス利用の実態を明らかにすることも、今後の「社会保障制度の低所得者対策」を考えるときに重要なポイントではないかと思われます。
負担段階 | 保険料 | 対象者の条件 | 対象者数 | |
---|---|---|---|---|
第6段階 | 基準額×1.5 | 住民税本人課税で、 合計所得金額200万円以上 | 4,889,005人 | 16.80% |
第5段階 | 基準額×1.25 | 住民税本人課税で、 合計所得金額200万円未満 | 6,166,235人 | 21.18% |
第4段階 | 基準額×1.0 | 住民税世帯課税、 本人非課税 | 8,912,280人 | 30.62% |
第3段階 | 基準額×0.75 | 住民税世帯非課税で、 第1・2段階に該当しない者 | 3,601,737人 | 12.37% |
第2段階 | 基準額×0.5 | 住民税世帯非課税で、 合計所得金額+公的年金等収入金額が年80万円以下 | 4,759,189人 | 16.35% |
第1段階 | 基準額×0.5 | 住民税世帯非課税の 老齢福祉年金受給者 | 779,203人 | 2.68% |
生活保護受給者 | ||||
合計 | 29,107,649人 | 100.00% |