外国人候補者と介護福祉士試験
7月6日、厚生労働省社会・援護局は来年の介護福祉士国家試験(第25回 以下、国家試験)を来年1月27日(筆記試験)と3月3日(実技試験)に実施することを公表しました。1987年に成立した社会福祉士及び介護福祉士法にもとづき1989年から実施されている試験はこれまでに約160万人が受験して半数の約80万人が合格しています(表参照)。合格者のうち632,566人と養成学校卒業者265,863人のあわせて約90万人(2010年現在)が介護福祉士に登録しています。
一方、日本がインドネシア、フィリピンと結んでいる経済連携協定(EPA)により、2009年度から外国人看護師・介護福祉士候補者が来日し、看護師候補者は3年、介護福祉士候補者は4年の滞在期間に研修、就労することになっています。介護福祉士候補者(以下、候補者)はフィリピンから360人(2009~2011年度累計)、インドネシアから428人(2008~2011年度累計)が来日しています。昨年は95人が介護福祉士国家試験に挑戦して36人が合格しましたが、合格率は37.9%で、全体の合格率63.9%に比べて低い結果となっています。
介護福祉士候補者への支援の充実
厚生労働省社会・援護局は今年3月、「経済連携協定(EPA)介護福祉士候補者に配慮した国家試験のあり方に関する検討会」(潮谷義子・座長)を設置し、「主な論点」と「検討会報告(案)」をまとめ、4月20日から5月30日までパブリックコメントの募集が行われました。6月5日には「検討会報告書」と「概要」が公表され、来年実施される介護福祉士国家試験では(1)わかりやすい日本語への改善、(2)漢字へのふりがな付記、(3)試験時間を一般受験生の1.5倍に延長などの改善策が示されました。また、候補者には(1)来日前の日本語研修、(2)来日後の日本語研修(6カ月)、介護導入研修(10日)、(3)受け入れ施設での就労・研修など、国家試験受験前に「学習支援策」がとられていましたが、さらに充実させることが予定されています。
介護職員の5割を介護福祉士にするのが目標
一方、厚生労働省の「今後の介護人材養成の在り方に関する検討会」(駒村康平・座長)が昨年1月にまとめた報告書では、介護分野で働く人のうち介護福祉士は約3割で、「質の高いサービスの提供と、介護人材の確保という二つの目的を両立させていくという観点からは、介護福祉士割合については、当面5割以上を目安とする」として、「初任者研修」(ホームヘルパー2級研修相当)から「実務者研修」を経て介護福祉士となり、認定介護福祉士(仮称)という“段階的なキャリアアップ”を提案しました。また、高齢社会の進行のなかで、「中長期的には、必要となる介護職員は増加していく一方で労働力人口は減少していくことから、人材難の状況が続く」ともしています。
EPAは労働力不足に対応するものではない?
候補者に限らず外国人労働者の雇用について、厚生労働省職業安定局は「6月は『外国人労働者問題啓発月間』です 『We are the one ~ 共に働ける社会へ ~』」というキャンペーンを張りました。
しかし、候補者に対する厚生労働省の考え方として、「この受入れは、相手国からの強い要望に基づき交渉した結果、協定に規定されたものであり、介護分野の労働力不足への対応としてではなく、経済活動の連携の強化の観点から行っているものです」(「随時報告に対する厚生労働省の考え方」より)というコメントも示されています。
「人材難の状況が続く」とされるなか、2025年にはいまより100万人多い249万人の介護職員が必要とされ、その5割が介護福祉士であることを目標にするなら約125万人になります。ところが、介護職員128万人(2008年)のうち介護福祉士は約41万人で、登録者の半数しか介護分野で働いていないことになります。そうしたなかで、単純計算では、今後13年間で84万人も介護福祉士を増やさなければなりません。候補者の受け入れが「労働力不足への対応ではない」のだとしても、国内の人材だけで目標の何割が実現可能なのか大いに疑問が残ります。
介護福祉士試験 | 受験者 | 合格者 | 合格率 | |
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1989年 | 第1回 | 11,973人 | 2,782人 | 23.20% |
1990年 | 第2回 | 9,868人 | 3,664人 | 37.10% |
1991年 | 第3回 | 9,516人 | 4,498人 | 47.30% |
1992年 | 第4回 | 9,987人 | 5,379人 | 53.90% |
1993年 | 第5回 | 11,628人 | 6,402人 | 55.10% |
1994年 | 第6回 | 13,402人 | 7,041人 | 52.50% |
1995年 | 第7回 | 14,982人 | 7,845人 | 52.40% |
1996年 | 第8回 | 18,544人 | 9,450人 | 51.00% |
1997年 | 第9回 | 23,977人 | 12,163人 | 50.70% |
1998年 | 第10回 | 31,567人 | 15,819人 | 50.10% |
1999年 | 第11回 | 41,325人 | 20,758人 | 50.20% |
2000年 | 第12回 | 55,853人 | 26,973人 | 48.30% |
2001年 | 第13回 | 58,517人 | 26,862人 | 45.90% |
2002年 | 第14回 | 59,943人 | 24,845人 | 41.40% |
2003年 | 第15回 | 67,363人 | 32,319人 | 48.00% |
2004年 | 第16回 | 81,008人 | 39,938人 | 49.30% |
2005年 | 第17回 | 90,602人 | 38,576人 | 42.60% |
2006年 | 第18回 | 130,034人 | 60,910人 | 46.80% |
2007年 | 第19回 | 145,946人 | 73,606人 | 50.40% |
2008年 | 第20回 | 142,765人 | 73,302人 | 51.30% |
2009年 | 第21回 | 130,830人 | 67,993人 | 52.00% |
2010年 | 第22回 | 153,811人 | 77,251人 | 50.20% |
2011年 | 第23回 | 154,223人 | 74,432人 | 48.30% |
2012年 | 第24回 | 137,961人 | 88,190人 | 63.90% |
累計 | 1,605,625人 | 800,998人 |