「健康寿命」と「介護予防」
介護保険制度には被保険者が認定を受けて利用するサービス(給付)のほか、2005年の法律改正で登場した地域支援事業があります。
地域支援事業のメニューのひとつである「介護予防事業」では、まだ認定(要支援・要介護認定)を受けていない高齢者を対象に一次予防施策(旧・一般高齢者施策)と二次予防施策(旧・特定高齢者施策)が実施されてきました。
2010年の2回目の大きな法律改正では、地域支援事業に「介護予防・日常生活支援総合事業」が新設され、要支援1・2の要支援認定を受けた高齢者も対象とすることになりました。
「介護予防」に熱心に取り組む介護保険ですが、6月1日、厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会(永井良三・部会長 以下、部会)の第34回に提出された「次期国民健康づくり運動プラン策定専門委員会報告」(資料1)では、健康寿命と平均寿命の差、つまり“健康ではない期間”が男性9.22年、女性12.77年であることが示され、健康寿命をさらに延ばすことを目標にしています。
「平均寿命」と「健康寿命」
厚生労働省が5月31日に公表した「第21回生命表(完全生命表)の概況」では、2010年に生まれた赤ちゃんの平均余命は男性79.55歳、女性86.30歳とされています(表1参照)。65歳の人は男性18.74年、女性23.8年、75歳の人は男性11.45歳、女性15.27年の平均余命があることになります。
人生が長くなる一方の日本ですが、健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義され、2012年段階で男性70.42歳、女性73.62歳とされています(表2参照)。つまり、「日常生活が制限される期間」を短くすることが「国民健康づくり運動」の目標となっています。
完全生命表における平均余命の年次推移(2010年) | ||
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年齢 | 男 | 女 |
0歳 | 79.55歳 | 86.30歳 |
20歳 | 59.99歳 | 66.67歳 |
40歳 | 40.73歳 | 47.08歳 |
65歳 | 18.74歳 | 23.80歳 |
75歳 | 11.45歳 | 15.27歳 |
90歳 | 4.19歳 | 5.53歳 |
平均寿命と健康寿命の差(2012年) | |||
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平均寿命 |
健康寿命 |
平均寿命と 健康寿命の差 |
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男性 | 79.64歳 | 70.42歳 | 9.22年 |
女性 | 86.39歳 | 73.62歳 | 12.77年 |
介護保険サービス利用者の「平均年齢」
表3にあるように介護保険サービスを利用する人たちの平均年齢は82.5歳ですから、単純にみれば男性は健康寿命の12年後、女性は9年後に“要支援・要介護状態”になるわけです(表3参照)。
介護保険制度の地域支援事業では、(1)被保険者が要介護状態又は要支援状態になることを予防する、(2)要介護状態等となった場合も可能な限り地域で自立した日常生活を営むことができるよう支援する、という目標が掲げられています。厚生労働省老健局は4月6日、「『地域支援事業の実施について』の一部改正について」(『介護保険最新情報』vol.281)を都道府県宛てに通知し、地域支援事業実施要綱の新旧対照表を掲載しています。
要支援認定 | |||||
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81.3歳 | 要支援1 | 要支援2 | |||
81.4歳 | 81.2歳 | ||||
要介護認定 | |||||
82.9歳 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 |
82.3歳 | 82.1歳 | 83.1歳 | 84.0歳 | 83.8歳 |
「健康」でなければいけないのか?
超高齢社会の日本では「日常生活が制限される期間」を短くすることが求められ、要支援状態になるとさらに「介護予防」することを勧められているわけですが、「健康」や「予防」を重視する政策に不安も抱きます。
3月9日に公表された「2011年中における自殺の状況」(内閣府自殺対策推進室/警察庁生活安全局生活安全企画課)では自殺者総数3万651人のうち、60歳以上は1万1,661人で約4割を占めています。そして、全世代を通じて自殺の「原因・動機」のトップは「健康問題」(1万4,621人)で、「経済・生活問題」(6,406人)や「家庭問題」(4,547人)を大きく引き離しています。
病気や障害があっても「日常生活」を支えるのが、介護保険制度をはじめとする社会保障制度の大きな目的ではないでしょうか。