東日本大震災と介護労働
6月17日、青森県八戸市で開かれた第5回介護従事者のための公開講座in八戸大学(八戸大学・八戸短期大学総合研究所主催)に参加しました。公開講座は「原点回帰 あなたの“介護の原点”は何ですか?」をメインテーマに、東北各県を中心に施設職員、ホームヘルパー、ケアマネジャーなど約400人が集まりました。
当日は10分科会が開かれ、人気介護マンガ『ヘルプマン!』作者のくさか里樹さんが参加者にエールを送るほか、被災地復興支援を続けるデュオ・エアリアルのミニコンサートが開かれるなどバラエティに富む内容となりました。
なかでも第4分科会「被災地を支え続ける介護職の叫び ~ゆっくりがんばりましょうと叫ぶまで~」では、岩手県釜石市のケアマネジャー・鳩岡貴士さんと老人保健施設職員・菊池博昭さんが、東日本大震災発生直後からの対応について臨場感あふれる報告をしました。
ケアマネジャーの3.11
鳩岡貴士さんは2011年3月11日、震災当日、津波被害地域の利用者宅に安否確認に出かけたこと、事業所(ケアマネジャー6人)の確認事項として長期戦を覚悟し休養をとった判断が後日、大きな効果をあげたこと、早期に「東日本大震災介護福祉機関緊急合同会議」を開催し、市、医療機関、介護支援専門員連絡協議会、在宅介護支援センターなどで情報を共有しながら対策を講じたことなどを報告しました。
自身の家も基礎から根こそぎ津波に流されるなか、ミクシィで発信した日記や写真をまじえて避難所や仮設住宅での支援の様子を紹介しつつ、「人間は負けたら終わりなのではなく、やめたら終わりなのだ」と自ら言い聞かせていると語りました。
鳩岡さんは「みなさんへのお願い」として、(1)少しでもいいから被災地を見てほしい、(2)被災者は話を聞いてほしい時と話したくない時がある。本音は聞いてほしいのだから、ストレートに「話したいですか、話したくないですか」と聞いてほしい、と訴えました。
なお、釜石市のケアマネジャーたちの取り組みは「釜石広域ケアマネ支援ネット」でブログを閲覧することができます。
施設職員の3.11
菊池博昭さんは老人保健施設(入所定員100人、通所定員30人)の支援相談員とケアマネジャーを兼務し、震災当日は利用者全員を戸外に避難させたが寒さが厳しく、車の中で暖をとったこと、病院から患者が避難してくる混乱があったこと、ベッドをすべてホールに集め停電のなか泊り込み体制をとったことなどが報告されました。翌日は利用者の「臥床対応」をしたが、「震災は乗り越えたが『寝たきりになりました』では介護のプロとしてどうなのか」と反省し、過剰な介護を避ける取り組みをはじめたとのこと。最大の課題は食糧のストックがなかったことで、スーパーなどに協力を求めるなど対応に追われたそうです。利用者のなかには昭和三陸地震の津波経験者がいて、職員のほうが励まされたこと、職員が連れてきた子どもたちにつきあってくれるなど、利用者と職員がお互いに支えあったことも報告されました。
菊池氏は2004年の新潟県中越地震から何も学んでいなかったことを反省するとともに、できる限りのことをしたつもりだが自問自答が続いている心情を伝えるとともに、「来てもらえると励みになります」と結びました。
介護保険制度の被災地支援
宮城県、福島県、岩手県が「被災3県」と呼ばれますが、5月30日に厚生労働省社会・援護局が公表した「東日本大震災に伴う被災者からの保護の相談等の状況把握について(2012年4月及び累計)」では、生活保護に関する相談を寄せてきた被災者(福島原発事故の自主避難者を含む)の居住地だけでも12都県(岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、茨城県、埼玉県、東京都、京都府、兵庫県)に広がります。
被災者に対する介護保険制度の対応として、厚生労働省は「東日本大震災により被災した被保険者の利用者負担等の減免措置に対する財政支援の延長等について」(2月9日老健局介護保険計画課事務連絡)として、(1)介護保険料の減免措置を2013年3月まで延長、(2)介護保険サービスの利用者負担の軽減・減免措置を2013年2月まで延長すること、「東日本大震災に対処するための要介護認定有効期間及び要支援認定有効期間の特例に関する省令の一部を改正する省令の施行について」(3月29日老健局長通知)で(3)介護認定(要支援・要介護認定)有効期間を2013年3月まで延長、などの対策を講じています。
しかし、「介護施設6割が未復旧、東北3県 用地や資金不足」(3月8日共同通信)など介護保険サービスの確保は困難を極めており、特に原発事故の影響が大きい福島県からは「介護職員が226人減 震災後の県内高齢者施設」(6月1日福島民友ニュース)などマンパワーの絶対的な不足が指摘されています。
厚生労働省は全国の自治体に介護職員の派遣要請を行い、「福島・介護職不足 応援第1陣の4人着任」(6月5日河北新報)という報道もありますが、被災地でなくても介護職員不足が指摘され、2025年までに最低100万人増やす必要があると言われるなか、介護職員の労働環境を抜本的に見直す必要に迫られているのではないでしょうか。