ケアマネジャーのゆくえ
社会保障審議会介護給付費分科会(大森彌・分科会長 事務局・厚生労働省老健局 以下、分科会)は2012年度介護報酬改定にあたり、「今後の主な検討課題」を示しました。
ケアマネジメントについては、(1)「保険者によるケアプランチェック、ケアプランやケアマネジメントについての評価・検証の手法について検討し、ケアプラン様式の見直しなど、その成果の活用・普及を図る」、(2)「ケアマネジャーの養成・研修過程や資格の在り方に関する検討会を設置し、議論を進める」としました(「2012年度介護報酬改定に関する審議報告」より)。
これを受けて3月28日、厚生労働省老健局(以下、老健局)は「介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質向上と今後のあり方に関する検討会」(田中滋・座長 以下、検討会)の第1回を開きました。
検討会では今秋までに「中間的な議論の整理」を行う予定で、5月には2回にわたって検討会が開催され、構成員からの「プレゼンテーション」が行われました。
ケアマネジャーの課題と「検討の視点」
第1回では老健局から「介護支援専門員(ケアマネジャー)をめぐる現状と課題」(資料2)が出され、課題を検討する視点として(1)自立支援型ケアマネジメントの推進、(2)ケアマネジメントの公平性・中立性、(3)地域のネットワークづくりと医療等との連携の3分野が挙げられました。
表1にあるように課題としては、ケアマネジメントの役割、技術から市区町村(保険者)、利用者・家族まで16項目の「課題」があがり、課題に対応するための「検討の視点」として、表2のように介護報酬上の「対応」や「評価」から「確立」「強化」「明確化」「推進」「支援」「検討」「提示」「普及」「活用」まで19項目が並べられ、具体的なイメージはまだできない状態です。
Ⅰ.自立支援型ケアマネジメントの推進 | |||
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在宅ケアマネジャー | |||
アセスメント | |||
1.適切なアセスメントができていない | |||
2.医療、看護、リハビリに関する知識が不足 | |||
ケアプラン | |||
3.状態像に応じたケアプランが標準化されていない | |||
モニタリング | |||
4.サービス導入後の評価が不十分 | |||
施設ケアマネジャー | |||
5.役割が不明確 | |||
利用者・家族 | |||
6.自立支援等に対する意識不足 | |||
Ⅱ.ケアマネジメントの公平性・中立性 | |||
併設型事業所 | |||
7.同一法人、併設事業所のサービスに偏重 | |||
8.地域包括支援センターから紹介される居宅介護支援事業所が同一法人等に偏重 | |||
保険者 | |||
9.ケアプランをチェックする機能を果たすべき | |||
Ⅲ.地域のネットワークづくりと医療等との連携 | |||
サービス担当者会議 | |||
10.多職種協働がうまく機能していない | |||
関係機関職種との連携 | |||
11.医療関係職種(医師、看護師、ОT・PT)との連携が不十分 | |||
12.訪問看護やリハビリ等のサービスが十分活用されていない | |||
13.退院後の介護サービスが円滑に導入されていない | |||
地域包括支援センター | |||
14.包括的・継続的支援がうまく機能していない | |||
15.主任ケアマネジャーの役割・機能が不十分 | |||
16.インフォーマルサービスの評価が出来ていない |
資料2より
Ⅰ.自立支援型ケアマネジメントの推進 | ||
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在宅ケアマネジャー | ||
1.自立支援型アセスメントの普及 | ||
2.ケアプラン様式の見直し、参考(標準)プランの提示 | ||
3.ケアプランの評価・検証手法の確立 | ||
4.ケアマネジャーの養成、研修課程のあり方 | ||
5.ケアマネジャーの資格のあり方 | ||
施設ケアマネジャー | ||
6.ケアマネジャーと生活相談員、支援相談員との役割の明確化 | ||
7.小規模多機能型居宅介護、グループホームにおける役割の明確化 | ||
利用者・家族 | ||
8.セルフケアプランの利用支援 | ||
9.利用者負担導入の検討 | ||
Ⅱ.ケアマネジメントの公平性・中立性 | ||
併設型事業所 | ||
10.介護報酬上の対応 | ||
11.地域包括支援センターの役割の強化 | ||
12.市町村の役割の明確化 | ||
保険者 | ||
13.保険者によるケアプラン点検のあり方 | ||
Ⅲ.地域のネットワークづくりと医療等との連携 | ||
サービス担当者会議 | ||
14.「地域ケア会議」の活用等による多職種協働の推進 | ||
15.医療関係職種との連携に関する介護報酬上の評価 | ||
関係機関職種との連携 | ||
16.入院・入所及び退院・退所時の介護報酬上の評価 | ||
地域包括支援センター | ||
17.機能強化 | ||
18.主任ケアマネジャーのあり方 | ||
19.介護予防・日常生活支援総合事業におけるケアマネジメントの活用 |
資料2より
構成員の「プレゼンテーション」
検討会では5月9日の第2回、31日の第3回と続けて構成員から「プレゼンテーション」が行われ、7月の第4回にも予定されています。
「プレゼンテーション」した構成員の提出資料とおもなテーマは下記のようになります(発言順)。
○加藤昌之・公益財団法人さわやか福祉財団政策提言プロジェクトリーダー
インフォーマルサービス:第2回加藤構成員提出資料
○筒井孝子・国立保険医療科学院統括研究官
ケアマネジメントの評価:第2回筒井構成員提出資料
○東内京一・和光市保健福祉部次長兼務長寿あんしん課長
保険者のケアマネジャー支援:第2回東内構成員提出資料
○野中猛・日本福祉大学研究フェロー
ケアマネジメント論(技術的側面と制度的側面):第2回野中構成員提出資料
○藤井賢一郎・日本社会事業大学専門職大学院准教授
ケアマネジャー養成:第2回藤井構成員提出資料
○橋本泰子・大正大学名誉教授
認定ケアマネジャー制度:第3回橋本構成員提出資料
○堀田聰子・労働政策研究・研修機構研究員
オランダのケースマネジメント:第3回堀田構成員提出資料
○木村隆次・一般社団法人日本介護支援専門員協会会長
ケアマネジャー国家資格化:第3回木村構成員提出資料
調査研究報告書の提言
第2回検討会では資料として「介護支援専門員の資質向上と今後のあり方に関する調査研究」(株式会社日本総合研究所、2011年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金)のポイント(資料1)、報告書(資料2)、ケアプラン詳細分析結果報告書(資料3その1、資料3その2)が提出されました。
ポイントでは「課題解決に向けた提言」として、(1)研修等によるケアプランの記載方法の定着促進、(2)ケアプランの様式の見直し、(3)ケアプランの運用方法の見直し、(4)情報収集とアセスメントをより確実にするためのルール化、(5)ケアプラン点検の拡充、(6)ケアプランと個別サービス計画との連携強化が列挙されています。
「1人事業所」の状況
また、第2回検討会では構成員「プレゼンテーション」のなかで、「1人事業所」(ケアマネジャーが1人の居宅介護支援事業所)の問題点が指摘され、第3回検討会では老健局から「1人の居宅介護支援事業所の状況等」(資料1)として、以下のような特徴が報告されました。
○ | 5割以上が株式会社や有限会社といった会社法人 |
○ | 訪問介護や通所介護といった在宅ケアサービスとの併設が多い |
○ | 40代以上の者が8割を超えている |
○ | 介護福祉士のみの資格保有者が約5割であるが、医療系のみの資格保有者も3割弱 |
○ | 介護保険制度施行時に資格を取得している者が多い |
○ | 業務経験年数は約6割が5年以上となっている |
○ | 担当利用者数は19人以下が最も多く、介護支援専門員が2人以上いる事業所に比べ少ない |
○ | 法定外の研修へは積極的に参加している者が多い |
○ | サービス担当者会議の開催頻度は、月に2~3回が最も多い |
○ | ケアマネジメントを実践するうえでの課題では、「支給限度基準額が低い」と回答している割合が高い |
3回の検討会の内容をみていると、ケアマネジメント論からケアマネジャーの役割、技術まで多様な課題が提出されるとともに、「自立支援型ケアマネジメント」の定義もはっきりしないなか、保険者の役割や利用者・家族の「自立支援」への意識の低さまで指摘され、秋の中間報告までにどのような集約作業をするのか、注目したいと思います。