特別養護老人ホーム待機者のゆくえ
5月17日、介護報酬の見直しについて議論する社会保障審議会介護給付費分科会(大森彌・分科会長 事務局・厚生労働省老健局 以下、分科会)の第90回が開かれました。
おもな内容は、(1)第6期(2015~2017年度)介護報酬の見直しに向けて分科会のもとに設置された委員会や厚生労働省老健局長の私的懇談会の報告、(2)2011年度の厚生労働省の研究補助事業の報告、(3)市区町村が策定した第5期(2012~2014年度)介護保険事業計画の集計報告(東日本大震災被災14保険者をのぞく1566保険者)です。
介護職員処遇改善加算の検証は来年の夏
(1)は「介護報酬改定検証・研究委員会」(大島伸一・委員長 4月26日に第1回開催)、「介護事業経営調査委員会」(「調査実施委員会」〈田中滋・座長〉を改称、資料2)、「介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質向上と今後のあり方に関する検討会」(田中滋・座長 3月28日に第1回、5月9日に第2回開催)の報告がありました。
「介護事業経営調査委員会」は、「調査実施委員会」委員(分科会の学識経験者等6人)がそのまま移行し、介護報酬改定の基礎資料になる介護事業経営実態調査などの設計、集計、分析方法などを検討します。「調査実施委員会」では介護事業実態調査(介護事業経営概況調査、介護事業経営実態調査)と介護従事者処遇状況等調査の手法などが検討されてきましたが、「介護事業経営調査委員会」では新たに介護事業経営分析等調査(事業所規模別の経営状況の分析など)が加えられます。
なお、第5期介護報酬の大きなポイントである介護職員処遇改善加算の新設については、2013年7月をめどに介護保険事業計画実施中間報告を厚生労働省で分析する予定と報告がありました。また、介護職員によるたんの吸引などの医行為の実施については、「障害児・者も含まれるので、老健局以外の局と合同で検討予定」(宇都宮啓・老健局老人保健課長)とのことです。
特別養護老人ホームの待機者問題
厚生労働省は「高齢者の介護、介護予防、生活支援、老人保健及び健康増進等に関わる先駆的、試行的な事業等」に対して毎年度、老人保健健康増進等事業(老人保健事業推進費等補助金)を行っています。厚生労働省の「2011年行政事業レビューシート」によると、2011年度は予算23億1200万円、調査研究事業162件、1事業あたり平均1,430万円の補助金が支出されています(補助金の対象となった調査研究事業の一覧は「平成23年度に行う老人保健健康増進等事業について」で確認できます)。
このなかで、分科会には「被災時から復興期における高齢者への段階的支援とその体制のあり方の調査研究事業」の概要(株式会社富士通総研 資料6)、「特別養護老人ホームにおける待機者の実態に関する調査研究事業~待機者のニーズと入所決定のあり方等に関する研究」説明資料(医療経済研究機構 資料7)が配布されました。
「特別養護老人ホームにおける待機者の実態に関する調査研究事業」は2010年度、2011年度と行われていて、分科会には栃本一三郎・上智大学教授が報告者として出席しました。同教授は2011年8月10日、第78回分科会で、特別養護老人ホーム(以下、特養)待機者のうち「『真に入所が必要な人』は1割強」(2010年度調査研究事業)と報告しています(参考人資料1、参考人資料2)。今回は、「『今すぐに入所する必要はないが、将来のために施設に申し込む人』が半数弱程度存在する」、「検討の初期の段階で、施設入所に関する幅広い選択肢が提示されていない場合が多いのではないか」などの報告が行われました。
特別養護老人ホーム(以下、特養)の待機者については2009年12月22日、厚生労働省が約42.1万人にのぼることを公表しましたが(「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」より)、2010年3月には「特別養護老人ホームにおける入所申込者に関する調査研究報告書」(株式会社野村総合研究所、2009年度老人保健健康増進等事業)がまとめられ、「『入所申込者』のすべてが『入所必要性の高い申込者』ではないことが明らかになった」としています。補助金による調査研究事業が3年間行われているわけですが、特養を希望する人たちにとって、「必要性は低い」と繰り返される研究結果はなにをもたらすのでしょうか。
介護保険事業計画は「まずまずの傾向」
分科会では第5期介護保険事業計画にもとづく「2014年度サービス量見込み(確定値)」で、在宅サービス利用者348万人(2011年度実績比11%増)、居住系サービス利用者41万人(同28%増)、施設サービス利用者99万人(同11%増)で、「施設の伸びをコントロールし、在宅・居住系でカバーするまずまずの傾向」(度山徹・老健局介護保険計画課長)という報告がありました(資料3)。
特別養護老人ホームの利用者をみると、2011年度(実績)47万人から2014年度(見込み)は9万人(19%)増えて56万人になるとあります。厚生労働省は2010年以降、「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」を集計していませんが、待機者42.1万人に対し今後3年間に特養利用者9万人増というペースのなか、「在宅・居住系」で対応できるのか懸念されます。