第5期の第1号保険料は2割アップ
介護保険サービスの費用(事業者からみれば売上)となる介護報酬は、その1割が利用する人の自己負担となり、残りの9割(給付費)を40歳以上の人が払う介護保険料、国・都道府県・市区町村が負担する税金でまかなっています。つまり、介護報酬が上がれば利用料、介護保険料、税金すべての負担が増えるという基本設計です。
3月30日に厚生労働省老健局介護保険計画課が報道発表した「第5期計画期間における介護保険の第1号保険料について」(2012年3月末時点で額が決定している保険者の集計値)では、第5期(2012~2014年度)の第1号保険料(基準額)の全国平均月額は4,972円で、第4期(2009~2011年度)の4,160円に比べて19.5%増、約2割上昇したことが報告されています。
第1号保険料は2,800円から6,680円まで
介護報酬の45%を支える介護保険料は、40~64歳までの第2号被保険者、65歳以上の第1号被保険者の約7,000万人、全人口の約6割で負担しています。現在、第1号保険料と第2号保険料の負担割合は2対3ですが、この割合は人口比率で決められ、介護報酬の引き上げだけでなく、高齢者人口増によっても負担は比例的に増える構図です。
介護保険制度全般を議論する社会保障審議会介護保険部会では、制度運営に責任を持つ保険者(以下、市区町村 現在、1,566保険者)代表委員(全国市長会、全国町村会)から、年金からの天引き(特別徴収)がほとんどの第1号保険料について「月5,000円以上にはできない」という発言が繰り返されてきました。
平均月額が高いのは沖縄県、低いのは栃木県
報道発表は全国の保険者の第5期介護保険事業計画を仮集計したものですが、引き上げた市区町村は93%にのぼり、一番低い月額2,800円(北海道奥尻町・北海道津別町・鹿児島県三島村)からもっとも高い月額6,680円(新潟県関川村)まで3,880円の開きがあります。
都道府県別には沖縄県(5,880円)がトップで、最低は栃木県(4,409円)です。また、第4期に比べて大分県28.8%(引き上げ額1,196円)、三重県26.9%(同1,125円)、福島県26.6%(同988円)、新潟県26.6%(同1,184円)、島根県25.0%(同1,069円)が4分の1を超える上昇率となっています。引き上げ額でみると、1,000円を超えるのは大分県(1,196円)、新潟県(1,184円)、三重県(1,125円)、島根県(1,069円)、福井県(1,013円)になります(表1参照)。
市区町村、世帯所得で異なる第1号保険料
65歳以上の第1号保険料の市区町村格差は高齢化率や介護保険サービスの整備状況とも関連するため、高いことが一概に問題とはいえません。また、市区町村ごとに世帯所得に応じた負担段階(標準6段階、市区町村ごとに段階設定数、負担割合は異なる)が定められ、年金収入に応じて負担軽減が行われています。しかし、第1号保険料は年金収入が月1万5,000円以上ある場合は、年金から自動的に天引きされるため、65歳以上の人たちの負担感は大きいものがあります。
高齢者の年金収入(月額)は国民年金が5.5万円、厚生年金は15.3万円、共済組合が16.6万円と開きがあります(厚生労働省年金局「2010年度厚生年金保険・国民年金事業年報」より)。また、生活保護を利用している人は約160万人で、高齢者世帯が半数近くなります。生活保護は住宅や医療、教育など支給メニューが分かれていますが、「介護扶助」として第1号保険料の負担から除外されているのは約20万人です(厚生労働省大臣官房統計情報部「2008年福祉行政報告例の概況」より)。
「高齢者には年金だけでなく貯蓄がある」という声もよく聞きます。60歳以上世帯の平均貯蓄額は2,286万円と報告されていますが、3,000万円を超える層が25.5%もいる一方、1,000万円未満も37.2%と4割近く、特に400万円未満の層は17.6%になります(総務省統計局「2010年家計調査年報」貯蓄・負債編より)。
未利用者、低所得被保険者の実態把握はない
高齢層は年金収入、貯蓄ともに所得格差がもっとも大きく、介護保険料や医療保険料は「社会連帯」の制度といわれているものの、「2000年くらいから社会保険料負担の総額は、国税収入を超えている。日本で重いのは、税金ではなく社会保険料負担」(大沢真理・東京大学教授、幻冬舎新書『弱者99%社会』宮本太郎編より)という指摘もあり、所得の低い人の社会保険料負担が大きい“逆進性”が大きな課題とされています。
介護保険サービスの利用条件は介護保険料を払っていること、介護認定(要支援認定・要介護認定)を受けていることのふたつです。2010年度の認定者は506万人、利用者は411万人で、「介護の手間がかかる」と認定されたにもかかわらずサービスを利用していない人が95万人もいることになります(すべて年間平均人数、国民健康保険中央会「介護費等の動向」2010年度年間分より)が、なぜ利用していないのか、全国調査が行われたことはありません。
電話相談「介護保険ホットライン」では、「認定を受けても1割負担の利用料が払えない」「介護保険料を払っていてもサービスが利用できない」という声が毎年届きます。貯蓄や不動産などの資産を補足することは難しいと長く言われ続けていますが、介護保険サービスを利用していない人の実態把握と低所得未利用者への支援の検討が必要ではないでしょうか。
保険料額(月額) | 増加額 | 前期比 上昇率 | ||
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第4期 | 第5期 | |||
沖縄県 | 4,882円 | 5,880円 | 998円 | +20.4% |
新潟県 | 4,450円 | 5,634円 | 1,184円 | +26.6% |
石川県 | 4,635円 | 5,546円 | 911円 | +19.7% |
富山県 | 4,574円 | 5,513円 | 939円 | +20.5% |
和歌山県 | 4,625円 | 5,501円 | 876円 | +18.9% |
青森県 | 4,999円 | 5,491円 | 492円 | +9.8% |
長崎県 | 4,721円 | 5,421円 | 700円 | +14.8% |
鳥取県 | 4,488円 | 5,420円 | 932円 | +20.8% |
広島県 | 4,462円 | 5,411円 | 949円 | +21.3% |
愛媛県 | 4,626円 | 5,379円 | 753円 | +16.3% |
大分県 | 4,155円 | 5,351円 | 1,196円 | +28.8% |
島根県 | 4,274円 | 5,343円 | 1,069円 | +25.0% |
秋田県 | 4,375円 | 5,338円 | 963円 | +22.0% |
三重県 | 4,189円 | 5,314円 | 1,125円 | +26.9% |
大阪府 | 4,588円 | 5,306円 | 718円 | +15.6% |
徳島県 | 4,854円 | 5,282円 | 428円 | +8.8% |
京都府 | 4,332円 | 5,280円 | 948円 | +21.9% |
福井県 | 4,253円 | 5,266円 | 1,013円 | +23.8% |
岡山県 | 4,469円 | 5,224円 | 755円 | +16.9% |
香川県 | 4,198円 | 5,195円 | 997円 | +23.7% |
福岡県 | 4,467円 | 5,165円 | 698円 | +15.6% |
宮崎県 | 4,150円 | 5,142円 | 992円 | +23.9% |
熊本県 | 4,357円 | 5,138円 | 781円 | +17.9% |
佐賀県 | 4,338円 | 5,129円 | 791円 | +18.2% |
高知県 | 4,388円 | 5,021円 | 633円 | +14.4% |
東京都 | 4,045円 | 4,992円 | 947円 | +23.4% |
兵庫県 | 4,312円 | 4,982円 | 670円 | +15.5% |
山口県 | 3,996円 | 4,978円 | 982円 | +24.6% |
全国平均 | 4,160円 | 4,972円 | 812円 | +19.5% |
鹿児島県 | 4,172円 | 4,946円 | 774円 | +18.6% |
長野県 | 4,039円 | 4,920円 | 881円 | +21.8% |
山梨県 | 3,948円 | 4,910円 | 962円 | +24.4% |
宮城県 | 3,999円 | 4,896円 | 897円 | +22.4% |
群馬県 | 3,997円 | 4,893円 | 896円 | +22.4% |
岩手県 | 3,990円 | 4,851円 | 861円 | +21.6% |
滋賀県 | 3,971円 | 4,796円 | 825円 | +20.8% |
神奈川県 | 4,106円 | 4,787円 | 681円 | +16.6% |
山形県 | 3,902円 | 4,784円 | 882円 | +22.6% |
愛知県 | 3,941円 | 4,768円 | 827円 | +21.0% |
岐阜県 | 3,937円 | 4,749円 | 812円 | +20.6% |
静岡県 | 3,975円 | 4,714円 | 739円 | +18.6% |
福島県 | 3,717円 | 4,705円 | 988円 | +26.6% |
北海道 | 3,984円 | 4,631円 | 647円 | +16.2% |
奈良県 | 4,017円 | 4,592円 | 575円 | +14.3% |
茨城県 | 3,717円 | 4,528円 | 811円 | +21.8% |
埼玉県 | 3,722円 | 4,506円 | 784円 | +21.1% |
千葉県 | 3,696円 | 4,423円 | 727円 | +19.7% |
栃木県 | 3,730円 | 4,409円 | 679円 | +18.2% |