介護報酬改定(8)特別養護老人ホームの改定
本連載では、今年4月からの改定介護報酬について、第88回社会保障審議会介護給付費分科会(以下、分科会)に出された「平成24年度介護報酬改定の概要」(資料1-2。以下、概要)をもとに各サービスをみてきましたが、今回は特別養護老人ホームを取り上げます。
一般的に「施設」という場合、認知症高齢者グループホームや有料老人ホームも含めて考える人が多いのですが、これらは「居住系サービス」とも呼ばれ、在宅(居宅)サービスに位置づけられています。介護報酬で「施設」(介護保険施設)になるのは、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設。以下、特養)、老人保健施設(介護老人保健施設。以下、老健)、介護療養病床(介護療養型老人保健施設・介護療養型医療施設)の3サービスです。
2010年度の利用者(要介護1~5の要介護認定者)は約117万人と全体の約2割ですが、費用は約4割を占めています。また、利用者1人当たり平均介護費は約33万円で、在宅サービス(約11万円)の3倍です(国民健康保険中央会「介護費等の動向」(2010年度分)より)。
施設サービスでもっとも利用者が多いのは特養で、地域密着型サービスを含めて約55万人が利用しています。介護職員は約21万人で、女性が約7割を占め、平均年齢は38.1歳と、在宅サービスに比べると比較的若い人たちが働いています。(厚生労働省老健局「2010年度介護従事者処遇状況等調査」より)。
特相部屋の値下げと低所得者の個室利用促進
概要では、特養の介護報酬の見直しについて「ユニット型個室、従来型個室、多床室の順となるように報酬水準を適正化する」とし、表2のように相部屋の基本報酬の引き下げ率が高くなっています。
また、介護保険施設は2006年度の介護報酬改定で居住費と食費が利用者の自己負担となり、低所得の利用者のために補足給付(特定入所者介護サービス費)が設けられ、年間2530億9500万円(厚生労働省老健局「2009年度介護保険事業状況報告(年報)」より)、介護給付費の4%が支出されています。
今回の改定では、特養だけでなく介護保険3施設を対象に「ユニット型個室の第3段階の利用者負担を軽減」(居住費の負担限度額を1日1640円から1310円に、月額1万円程度軽減)することで、ユニット型個室の整備促進を図るとしています。なお特養は、2014年度までに70%をユニット型個室にするという目標が掲げられていますが、整備状況は表4のように44.6%です。
入所が必要なのは4万人?
しかし、特養の入居待機者が全国約42.1万人(2009年12月22日、厚生労働省老健局高齢者支援課「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」)と報告され、施設整備が求められるなか、第78回分科会に参考人として呼ばれた栃本一三郎・上智大学教授は、「特別養護老人ホームにおける入所申込の実態に関する調査研究」(医療経済研究機構、2010年度厚生労働省老人保健健康増進等事業)の結果として、「施設からみて『真に入所が必要』と考えられる入所申込者は1割強」と報告しました(参考人資料1-1、参考人資料1-2)。
調査報告をよくみると、施設が「優先して入居させるべき」と考える人は11.3%なので、入所申込者約42.1万人にあわせて考えれば4万人だという推計です。また、入所の必要はあるけれど「最大1年程度現在の生活維持可能」が28.2%、「1年以上、現在の生活継続可能」が34.5%とされています。調査研究が行われたのは2009年2月ですから、「1年程度」あるいは「1年以上」の生活維持可能とされた62.7%、調査研究の推計でいけば、すでに1年以上が過ぎて、「真に入所が必要」になってしまった26万人はどうなったのでしょうか。
緊急整備は6万6000人分
厚生労働省は「介護基盤の緊急整備」として、2009年度から3年間で「介護基盤緊急整備等臨時特例基金」により、特養、老健、認知症高齢者グループホームあわせて16万人分を整備することを目標にしています。しかし、「面積基準の緩和によるコスト減」のため、第66回分科会(2010年7月29日)では個室面積が13.2平方メートル(約8畳)から10.65平方メートル(約6畳)に狭くしてもいいことになりました(資料1)。昨年9月30日、厚生労働省は「『介護基盤の緊急整備』実施状況について」を公表し、見込みをあわせた3年間の整備状況は14万人分で、目標値に2万人分足りないことを明らかにしました。14万人分のうち特養の整備見込みは6万6000人と報告されています。
サービスの種類 | 事業所数 | 利用者数 |
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地域密着型サービス | ||
地域密着型介護老人福祉施設 | 322事業所 | 1万2500人 |
介護サービス | ||
介護福祉施設 | 6214事業所 | 53万8700人 |
特養 | 2009~11年度 | 2012~14年度 | 増減(単純差引計) |
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相部屋の場合 | 2012年4月1日以前に整備 | ||
要介護1 | 651単位/日 | 630単位/日 | -21単位/日(-3.23%) |
要介護2 | 722単位/日 | 699単位/日 | -23単位/日(-3.19%) |
要介護3 | 792単位/日 | 770単位/日 | -22単位/日(-2.78%) |
要介護4 | 863単位/日 | 839単位/日 | -24単位/日(-2.78%) |
要介護5 | 933単位/日 | 907単位/日 | -26単位/日(-2.79%) |
相部屋の場合 | 2012年4月1日以降に新設 | ||
要介護1 | 623単位/日 | -28単位/日(-4.30%) | |
要介護2 | 691単位/日 | -31単位/日(-4.29%) | |
要介護3 | 762単位/日 | -30単位/日(-3.79%) | |
要介護4 | 831単位/日 | -32単位/日(-3.71%) | |
要介護5 | 898単位/日 | -35単位/日(-3.75%) | |
従来型個室の場合 | |||
要介護1 | 589単位/日 | 577単位/日 | -12単位/日(-2.04%) |
要介護2 | 660単位/日 | 647単位/日 | -13単位/日(-1.97%) |
要介護3 | 730単位/日 | 719単位/日 | -11単位/日(-1.51%) |
要介護4 | 801単位/日 | 789単位/日 | -12単位/日(-1.50%) |
要介護5 | 871単位/日 | 858単位/日 | -13単位/日(-1.49%) |
ユニット型個室の場合 | |||
要介護1 | 669単位/日 | 659単位/日 | -10単位/日(-1.49%) |
要介護2 | 740単位/日 | 729単位/日 | -11単位/日(-1.49%) |
要介護3 | 810単位/日 | 802単位/日 | -8単位/日(-0.99%) |
要介護4 | 881単位/日 | 872単位/日 | -9単位/日(-1.02%) |
要介護5 | 941単位/日 | 941単位/日 | - |
特別養護老人ホームの主な加算報酬 | |
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初期加算 | 30単位/日 |
退所前相談援助加算 | 460単位/回 |
退所後訪問相談援助加算 | 460単位/回 |
退所時相談援助加算 | 400単位/回 |
退所前連携加算 | 500単位/回 |
日常生活継続支援加算 | 23単位/日 |
看護体制加算 | 4~13単位/日 |
夜勤職員配置加算 | 13~23単位/日 |
個別機能訓練体制加算 | 12単位/日 |
若年性認知症利用者受入加算 | 120単位/日 |
常勤専従医師配置加算 | 25単位/日 |
精神科医師定期的療養指導加算 | 5単位/日 |
障害者生活支援体制加算 | 26単位/日 |
栄養マネジメント体制加算 | 14単位/日 |
経口移行加算 | 28単位/日 |
経口維持加算 | 28単位/日 |
口腔機能維持管理体制加算 | 30単位/月 |
口腔機能維持管理加算 | 110単位/月 |
療養食加算 | 23単位/日 |
看取り介護体制加算 | 680~1,280単位/日 |
在宅復帰支援加算 | 10単位/日 |
在宅・入所相互利用体制加算 | 30単位/日 |
認知症専門ケア加算 | 3~4単位/日 |
認知症行動・心理症状緊急対応加算[新設] | 200単位/日 |
サービス提供体制強化加算 | 6~12単位/日 |
介護職員処遇改善加算[新設] | 所定単位×2.5%/月 |
施設別の部屋のタイプ | 特養 | 老健 | 介護療養病床 | |
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個室 | 63.1% | 41.9% | 19.9% | |
ユニット型個室 | 44.8% | 11.7% | 0.2% | |
その他の個室 | 18.4% | 30.3% | 19.7% | |
2人部屋 | 10.6% | 13.2% | 18.1% | |
ユニット型2人部屋 | 0.1% | 0.0% | ||
その他の2人部屋 | 10.5% | 13.2% | 18.1% | |
3人部屋 | 1.0% | 2.0% | 10.3% | |
4人部屋 | 24.9% | 42.9% | 51.7% | |
5人以上部屋 | 0.4% | 0.1% |
出典:厚生労働省大臣官房統計情報部「2010年介護サービス施設・事業所調査結果の概況」