介護報酬改定(6)訪問看護の改定
今回は、訪問看護の介護報酬改定について社会保障審議会介護給付費分科会(以下、分科会)の第88回に出された「平成24年度介護報酬改定の概要」(資料1-2)をみていきます。
その前に、2月28日に開催された第89回分科会で、「東日本対震災に係る訪問看護サービスの特例措置について」(資料1-1)をテーマに厚生労働大臣からの諮問(「これでいいですか」という質問)が行われたことを紹介します。
東日本大震災からまもなく1年を迎えますが、特例措置は昨年4月13日、第72回分科会に、被災地(東京都を除く災害救助法適用区域)の市区町村が基準該当サービスとして指定する訪問看護ステーションは、今年2月末まで人員配置を常勤換算2.5人から1人に緩和してはどうかという諮問が出され、分科会は了承する報告をまとめ(資料1-8、報告)、社会保障審議会は答申(「いいですよ」という回答)を出しました。
しかし、11か月という期間限定のために指定する市区町村が現われず、今年2月1日になって福島市が初めて、NPO法人まごころサービス福島センターに特例措置を適用しました(2月27日付毎日新聞「訪問看護『医療過疎地』支え」より)。しかし、特例措置は2月中に終了してしまうため、分科会で今年9月30日まで延長することが認められました。
同日、厚生労働省はパブリックコメント「東日本大震災に対処するための基準該当訪問看護の事業の人員、設備及び運営に関する基準の一部を改正する省令案に関する意見募集」を開始しました。締め切りは3月28日です。
医療系委員は被災地支援でも「1人開業」に反対
2度にわたる訪問看護ステーションの基準緩和措置ですが、9月30日までという期限は被災地への支援策としては短く、対象区域も岩手県、宮城県、福島県の3県に狭められました。
しかし、分科会では「被災地の既存の訪問看護ステーションはいつでもサービスを提供できるが、利用者がいない」(齊藤訓子委員、日本看護協会常任理事)、「1人開業では24時間365日が保障されない」(三上裕司委員、日本医師会常任理事)、「ケアプランで訪問介護を優先するため、必要なニーズが出てきていないから訪問看護が激減している」(武久洋三委員、日本慢性期医療協会会長)など、延長への反対意見が相次ぎました。
介護保険がはじまるときは「1人開業」が主張されていた
基準該当サービスとしての訪問看護、つまり訪問看護ステーションの1人開業については、介護保険制度がスタートする前年の1999年、医療保険福祉審議会老人保健福祉部会・介護給付費部会合同部会で、「訪問看護の指定サービス事業の人員基準は2.5人だが、訪問看護ステーションの設置がない市町村について、基準該当サービスとして1人で行うことを認めてほしい」(見藤隆子委員、日本看護協会会長)という意見が出され(第5回議事要旨より)、日本医師会などの委員から反対する意見が出ています(第7回議事要旨より)。
日本看護協会は1999年当時は基準該当サービスの訪問看護について1人開業を認めるよう主張しましたが、2011年には「1人で責任を持って対応できるのか。(中略)訪問看護ステーションのサテライトの活用を図ることの方が有効」(井部俊子委員、日本看護協会副会長)と意見を変えています(第72回議事録より)。
訪問看護の利用者は約42万人
賛否いずれの意見を聞いても課題と思われるのは、被災地に限らず訪問看護ステーション、訪問看護師の充足状況、介護保険サービス利用者の需要が把握できていないことです。
現在、在宅で訪問看護を利用しているのは約46万人、全国5903事業所で、主な経営主体は医療法人が約4割、営利法人が約2.5割、社団・財団法人が1.5割という構成です。ホームヘルプ・サービス(訪問介護)と比べると利用者は3分の1、事業所数は5分の1になります。
サービスの種類 | 事業所数 | 利用者数 |
---|---|---|
介護予防サービス | ||
介護予防訪問看護 | 5745事業所 | 4万6400人 |
介護サービス | ||
訪問看護 | 5903事業所 | 41万1900人 |
短時間サービスは値上げ
今回の介護報酬改定では、(1)短時間かつ頻回な訪問看護のニーズに対応したサービスの提供の強化、(2)在宅での看取りの対応の強化を目的に、ホームヘルプ・サービスやデイサービス(通所介護)をはじめ施設サービスでも基本報酬が軒並み引き下げられるなか、30分未満の訪問看護は1割を超える引き上げとなりました。
加算では、(2)のために退院時共同指導加算が新設され、ターミナルケア加算の見直しが行われました。また、介護職員によるたんの吸引などではホームヘルプ・サービス事業所と連携し、「利用者に係る計画の作成の支援等」を行うため看護・介護職員連携加算(月250単位)が新設されました(ちなみに、たんの吸引などを実施するホームヘルプ・サービス事業所には“連携加算”はなく、「特定事業所について、要件の見直しを行う」とされています)。さらに、介護報酬の単価にかける地域区分では、人件費割合が訪問看護のみ55%から70%に引き上げられました。
介護報酬改定のなかでも際立つ訪問看護の優遇ですが、利用者にとって来年度以降、利用料は値上がりし、訪問看護師の滞在時間は短くなることになります。
介護予防訪問看護・訪問看護 | 2009~11年度 | 2012~14年度 | 増減(単純差引計) |
訪問看護ステーションの場合 | |||
20分未満 | 285単位/回 | 316単位/回 | +31単位/回(+10.88%) |
30分未満 | 425単位/回 | 472単位/回 | +47単位/回(+11.06%) |
30分以上 60分未満 | 830単位/回 | 830単位/回 | - |
60分以上 90分未満 | 1198単位/回 | 1138単位/回 | -60単位/回(-5.01%) |
理学療法士等が訪問した場合 | |||
30分未満 | 425単位/回 | 1回(20分あたり) 316単位/回 | |
30分以上 60分未満 | 830単位/回 | ||
病院又は診療所の場合 | |||
20分未満 | 230単位/回 | 255単位/回 | +25単位/回(+10.87%) |
30分未満 | 343単位/回 | 381単位/回 | +38単位/回(+11.08%) |
30分以上 60分未満 | 550単位/回 | 550単位/回 | - |
60分以上 90分未満 | 845単位/回 | 811単位/回 | -34単位/回(-4.02%) |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所と連携した場合[新規]※訪問看護のみ | |||
2,920単位/月 |
初回加算[新規] | 300単位/月 |
退院時共同指導加算[新設] | 600単位/回 |
看護・介護職員連携強化加算[新設] | 250単位/月 |
夜間・早朝訪問加算 | 所定単位×25% |
深夜訪問加算 | 所定単位×50% |
複数訪問加算 30分未満 | 254単位/回 |
30分以上 | 402単位/回 |
90分以上加算 | 300単位/回 |
ターミナルケア加算 | 2,000単位/死亡日及び死亡日前14日以内 |
「在宅での看取り」は強化されるのか?
施設サービスが増えない現状で、また「家で死にたい」という利用者の願いを実現するため、訪問看護を充実させれば「在宅での看取り」が増えることになるのでしょうか。
2月29日の本連載「新設された地域密着型サービスの介護報酬」でも紹介しましたが、訪問看護サービスの利用者は子世帯との同居が多く、一人暮らしや高齢夫婦世帯は少ない状況にあります。また、各認定ランクともに利用限度額の半分くらいしかサービスを利用していない背景には、経済的な事情もあると思われます。
「在宅での看取り」には家族など介護者の負担が前提で、ホームヘルプ・サービスの介護報酬改定では掃除や調理など暮らしを支える生活援助が縮小傾向にあるなかで、在宅サービスの負担は施設サービス並みに引き上げられる可能性がうかがえます。
そして何よりも、慢性的に不足しているといわれる訪問看護師が報酬引き上げによって増えるのかという大きな課題があります。訪問看護ステーションの看護師は2万1057人、准看護師は2549人で、あわせて約2万4000人(常勤換算数)となり、ホームヘルパー約15万6000人(常勤換算数)の15%です(厚生労働省大臣官房統計情報部「平成20年介護サービス施設・事業所調査結果の概況」より)。
看護師の人材バンクとして中央ナースセンター(受託法人・日本看護協会)がありますが、訪問看護ステーションの求人充足率は4.1%(2010年度)と報告されています(3月2日、第1回中央ナースセンターの指定の在り方に関する検討会資料)。「在宅での看取り」の可能性について、さまざまな角度から注目していきたいと思います。
最後に宣伝ですが、市民福祉情報オフィス・ハスカップは2月28日、ハスカップ・レポート2011-2012『どう変わる? 介護保険』(72ページ、1部1000円)をまとめました。関心のある方はぜひ、ご注文ください。