介護報酬の具体的な単価は年明けに
12月5日、第87回社会保障審議会介護給付費分科会(座長:大森彌・東京大学名誉教授。以下、分科会)は、厚生労働省(事務方)がまとめた「2012(平成24)年度介護報酬改定に関する審議報告(概要)」(資料1-1 以下、概要)、「2012(平成24)年度介護報酬改定に関する審議報告(案)」(資料1-2 以下、報告案)について、委員の意見を受けて微調整を加え、その内容を了承しました。
この「審議報告」をもとに、厚生労働省は今後、介護報酬の改定率をもとに報酬単価の具体的な改定をまとめます。そして来年1月(日程は未定)、厚生労働大臣が「これでいいですか?」という諮問書を分科会に出し、分科会から「いいですよ」という答申書をもらうというスケジュールです。第87回分科会については、「介護報酬改定で報告書まとまる」(同日、NHKニュース)という報道がありました。
なお、同日、公益社団法人認知症の人と家族の会は分科会の「審議報告」、11月30日に公表された社会保障審議会介護保険部会〈座長:山崎泰彦・神奈川県立保健福祉大学名誉教授。以下、部会〉の「議論の整理」について、「再び、介護保険が危ない!」という見解を公表しました。
また、市民福祉情報オフィス・ハスカップは11月30日、ホームヘルプ・サービス(介護予防訪問介護、訪問介護)の提供時間区分の短縮案について、小宮山洋子・厚生労働大臣、民主党陳情対応本部に撤回を求める要望書を提出しました。
分科会の「審議報告」のポイント
概要では、第5期(2012~2014年度)介護報酬改定の「基本的な考え方及び重点課題」として、次のような項目が挙げられています。
(1)地域包括ケアシステムの強化
(2)医療と介護の連携
(3)認知症にふさわしいサービスの提供
(4)介護職員の処遇改善等の見直し
(5)次期(第6期、2015~2017年度)改定までの検討課題
介護職員の処遇改善は「労使交渉」?
「1.介護職員の処遇改善等に関する見直し」としては(1)介護職員の処遇等に関する見直しと(2)地域区分の見直しが挙げられています。
(1)は今年度で期限が切れる介護職員処遇改善交付金(以下、交付金)を介護報酬に含めるのかどうかがテーマとなりましたが、報告案を整理してみると、
・介護職員の根本的な処遇改善を実現するため、介護報酬で対応するのが望ましい。
・また、介護職員の労働条件は、労使間で決定されるべきものである。
・しかし、給与水準の向上など処遇改善が確実、継続的に講じられるよう、当面、例外的、経過的取扱いとして事業者の処遇改善を評価する。
ということになります。
分科会では田中滋委員(慶應義塾大学大学院教授=学識経験者委員)が「介護職員の給与に国家が介入するのは資本主義の原則に反する」と繰り返し発言しています。この日は池田省三委員(地域ケア政策ネットワーク研究主幹=学識経験者委員)が、「処遇改善は介護労働者の収入の引き上げにはならない。ホームヘルパーの82.5%は時間給の主婦パートで、税負担をしなくていい範囲で収入調整している。収入を引き上げれば、労働時間を減らす。交付金は常勤職員を前提にしているが、実際には主婦パートが主流」と交付金そのものを批判。久保田政一委員(日本経済団体連合会専務理事=第2号保険者委員)は「賃金は労使交渉に委ねるべきで、経済不況下に介護分野だけ特別扱いするのはどうか」、高智英太郎委員(健康保健組合連合会理事=第2号保険者委員)は「(事業者の処遇改善に報酬をつけるのは)今回の3年限りにしてもらいたい」と発言しました。
大森彌分科会長もまた、「(交付金は)政治的導入で今回はいたしかたないが、審議内容は議事録に残るので、池田委員の発言にはぜひ、アンダーラインを引いておきたい」と池田委員の発言に支持を表明しました。
再び繰り返される「労使交渉」の主張
交付金は、介護労働者の離職傾向を改善するために第4期(2009~2011年度)介護報酬で初のプラス改定(3%)を実施(介護保険料の上昇分は「介護従事者の処遇改善のための緊急特別対策」として税金を投入して抑制)したものの、引き上げ分が賃金になるかどうかは「労使交渉による」という分科会の方針により、結果として離職傾向に歯止めがかからなかったことが背景にあります。このため、麻生政権(当時)は特別対策に続いて交付金として税金を再投入することを政治決定しました。
今回、厚生労働省は、交付金分を介護報酬に組み込むと2%程度の引き上げになると説明しましたが、介護報酬の引き上げ分を賃金にするかどうかは「労使交渉」だという主張が再び登場したため、当初厚生労働省が提案していた「処遇改善加算(仮称)」(第82回分科会資料2)という言葉が報告案から消えました。
ちなみに、“パート労働”が主流であれば、労使の「労」、つまり労働組合に加入している介護労働者はほとんどいないことになり、事業経営者の「使」のみしか存在せず、「経営者の裁量」しか残らないことになります。
交付金が介護報酬に組み込まれるかどうかは、なお未定
なお、社会保障審議会介護保険部会(座長:山崎泰彦・神奈川県立保健福祉大学名誉教授)が11月30日にまとめた「社会保障・税一体改革における介護分野の制度見直しに関するこれまでの議論の整理」では、交付金について(1)維持する、(2)介護報酬に組み入れる、(3)処遇改善は事業者の自主的な努力により行われるもので特段の措置は不要、という3種類の意見がまとめられています。
交付金がどこに着地するのかは、介護報酬の改定率の決定とともに明らかになります。
「地域区分の見直し」は3年間延長?
介護報酬は、人件費の地域差を考慮するため、国家公務員の調整手当(地域に応じた給与の調整手当)の5区分に準じて、市区町村ごとに加算率をかけています。このため、介護報酬の地域別単価は1単位10円から11.05円まで幅があります。
報告案では、地域割り(5区分)が実態にあわなくなっているので、「国家公務員の地域手当」の7区分に変更することが提案されています。この日は厚生労働省から、7区分に変更するため市区町村の意見を聞いたところ、自治体合併など実態と合わない状況があるため、2014(平成26)年度まで3年間の経過措置などを設定することが説明されました。
各サービスの具体的な介護報酬の単価が決まるのは来年1月なので、年内は分科会の“考え方”しか知ることができませんが、次回は各サービスの「方向性」について報告します。
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