制度改定作業は最終局面
11月24日、社会保障審議会介護保険部会(座長:山崎泰彦・神奈川県立保健福祉大学名誉教授。以下、部会)の第41回、社会保障審議会介護給付費分科会(座長:大森彌・東大名誉教授。以下、分科会)の第86回が開かれました。翌25日には厚生労働省社会保障改革推進本部(本部長・小宮山洋子厚生労働大臣)の第4回が開かれ、部会では「当日の議論を踏まえたとりまとめ」が行われ、「案文の修正については、部会長一任」と報告されました。
分科会では、2012年度の介護報酬改定について「改定率については、賃金・物価の下落傾向、介護事業者の経営改善の一方、介護職員の処遇改善の維持の必要性は減じていないことに留意して、適正なものにすべき。各サービスの新たに評価すべき事項などについての方向性を記述」と議論がまとめられ、「12月上旬取りまとめ予定」と報告されました。
介護保険制度について議論する部会では、これまでに出された委員の意見について、厚生労働省老健局(以下、老健局)の提案に部会委員の賛否両論を“多論併記”するという形でまとめた原案(資料1「社会保障・税一体改革における介護分野の制度見直しに関するこれまでの議論の整理(案)」)が出され、委員からはさらに修正意見が出されましたが、最終的な文章は山崎泰彦・部会長に一任することで終了しました。
介護報酬の見直しを議論する分科会でもまた、老健局から原案(資料1「平成24年度介護報酬改定に関する審議報告(案)」)が出され、12月5日に開催予定の第87回(傍聴申込締切11月30日12時)でまとめるとされています。
現在、介護認定を受けているのは約520万人、実際にサービスを利用しているのは約430万人(厚生労働省「介護保険事業状況報告(暫定)2011年8月分」より)、介護現場で働いているのは約128万人(第33回介護保険部会資料1「介護人材の確保と処遇の改善策について」より)を数えますが、制度改定作業がいよいよ終盤を迎えます。
部会に出された厚生労働省案
部会のまとめの原案(資料1)では、「個別の見直し項目」として以下のような厚生労働省(事務局)の最終提案がありました。なお、部会のまとめにもとづき、来年の通常国会に介護保険法改正案が提出される予定ですが、あくまでも「社会保障・税一体改革」(6月30日、政府・与党社会保障改革検討本部決定)にもとづくため、消費税の引き上げを前提にした内容となります。
介護職員処遇改善交付金のゆくえ
今年度いっぱいの経過措置として税金が投入されている介護職員処遇改善交付金(以下、交付金)については、(1)交付金を維持する、(2)介護報酬に組み入れる、(3)処遇改善は事業者の自主的な努力により行われるもので特段の措置は不要という3種類の意見があったとまとめられました。また、(2)介護報酬に組み入れる場合は、介護職員の賃金が維持される仕組みにすべき、事業者に処遇についての情報公表をさせるべきという意見が出されたと加えられています。結局、部会としては最終的な結論は出さないことが明らかになりました。
介護保険料の見直し
(1)第1号介護保険料の低所得者負担割合を引き下げ
65歳以上の第1号介護保険料は所得に応じて6段階(市区町村ごとに段階を増やしているケースもある)だが、今後の消費税率、介護保険料の引き上げに対応するため、「低所得者保険料軽減強化」として負担率を引き下げる。
……10月31日の第39回部会では、「保険料減免と公費による補助のイメージ」(資料2)として第1~3段階を対象とすることが示されていますが、「どのような範囲・条件で減免を行うか」はまだ明らかになっていません。
(2)第2号介護保険料の計算方法を“人数割”から“所得割”に変更する
40~64歳の第2号介護保険料(健康保険組合の加入者数に応じて「介護納付金」として“人数割”の金額が定められている)を所得に応じた金額(総報酬割)に変更(介護納付金の総報酬割導入)する。
……介護保険サービスの費用(介護報酬)の9割は税金と介護保険料で折半していますが、第1号と第2号の介護保険料の分担は2対3で、人口比率で決められています。今回提案されているのは、第1号の低所得者対策を充実させる、第2号は所得に応じた負担にするといった世代別の変更となり、介護保険料の負担のあり方全般の検討はありませんでした。
介護保険サービスの「重点化」
(1)要支援者へのサービスを抑える
要支援者(要支援1・2)の数を2025年には「現行ベースより3%程度減少させる」ため、利用者負担の引上げのほか、サービス(給付)の内容や方法を検討する。
……第39回部会では、「平成18(2006)年度の予防給付導入前後の要支援・要介護別の受給者数及び費用額の伸び」(資料4)として、要介護者(要介護1~5)より要支援者(要支援1・2)の人数と費用の伸びが大きいことを指摘し、2010(平成22)年財務省予算執行調査では、「生活援助を中心とした予防ケアプランを使用している利用者の1年前から現在までの要支援度を比較」として悪化が10%(対象者509件)という数字を示しています。なお、「身体介護中心」では悪化が4%(対象者28件)と報告しています。
介護予防ホームヘルプ・サービス(介護予防訪問介護)の利用者は56万4100人(厚生労働省「2010年度介護給付費実態調査報告」より)になりますが、対象者をどのように抽出をしたのかも含めて具体的な調査内容は不明です。
(2)ケアマネジメントに利用料を求める
「自立支援に向けてケアマネジメントの機能強化を図る観点」から現在、利用者負担がないケアマネジメント(介護予防支援、居宅介護支援)に利用者負担の導入を検討する。
(3)「一定以上の所得がある者」の利用料を引き上げる
「世代内(特に高齢世代内)での公平の確保、所得再分配機能の強化」をするため、「一定以上の所得がある者」の利用者負担の割合を引き上げることを検討する。
……部会では「一定以上の所得」の具体的な金額は明記していませんが、第39回部会では「『高所得者』の水準について」(資料4)として、「介護保険における保険料第6段階の第1号被保険者の年収は320万円(合計所得金額200万円)」、「医療保険における単身世帯の現役並み所得者の年収は383万円(合計所得金額249.75万円)」という金額を示しています。
(4)相部屋の家賃の値上げ
「要介護高齢者の尊厳の保持と自立支援を図る施設の個室ユニット化を推進する」ため、ユニット型個室の家賃には施設の減価償却費に相当する金額が含まれているのと同じように、相部屋(多床室)からも減価償却費に相当する金額を徴収する。
……2005年の介護保険法改正により、同年10月から施設サービスの利用者から食費と家賃を新たに徴収することになりました。低所得の人には補足給付(特定入所者支援サービス費、特定入所者介護サービス費)が設けられましたが、厚生労働省が“基準費用”として示したのは食費が月4万2000円、家賃はユニット型個室で月6万円となり、利用者の負担が大きくなりました。このとき、相部屋の家賃は水道光熱費相当の月1万円という金額が示されました。
今回の厚生労働省の提案は、水道光熱費相当分だけでなく、減価償却費相当分も家賃に組み込むというもので、第39回部会では「介護保険施設に係る1人1月当たりの減価償却費」(資料4)として、特別養護老人ホーム2万7896円、老人保健施設3万5107円、介護療養病床3万5550円という金額が示されています。また、「ユニット型施設の施設数・定員数の年次推移」(資料4)では、2008年の特別養護老人ホームのユニット型個室の割合は21.2%、老人保健施設は4.2%と報告されており、家賃引き上げは大きな影響を与えると思われます。
(5)低所得者対策には、所得だけでなく資産もチェック対象とする
自宅や居住系サービスの利用者の家賃は自己負担なので、「公平の確保」と「所得再分配の機能の強化」のため、施設サービス利用者の低所得者対策(補足給付)には所得だけでなく、預貯金や不動産もチェックする。
(6)利用限度額を超えた施設サービス費は自己負担に
有料老人ホームなど(特定施設)や認知症高齢者グループホームなど“居住系”サービスや施設サービスでは、要介護1、2の平均給付額が在宅サービス利用者の利用限度額(区分支給限度基準額)を上回っているため、超過額に利用者負担を求める。
「効率化」「重点化」「機能強化」の3ポイント
部会では「社会保障・税一体改革」にもとづき、「サービス提供体制の効率化・重点化と機能強化」をテーマに、介護保険制度をどう見直すかという議論が行われました。しかし、利用者サイドからみると、どこに「効率化」「重点化」「機能強化」の3ポイントがあるのか理解できません。
いずれにしても、来年の通常国会に提出される介護保険法改正案に、「低所得者」以外は利用料や食費・家賃の自己負担額が上がる、要支援者のサービスは2005年と2011年の改正に続けて抑制される見込みということが読みとれます。
そして、ここに分科会での介護報酬改定が加わります。
さらには、「行政刷新会議」(内閣府)の「提言型政策仕分け」でも11月22日、「介護サービスの機能強化と効率化・重点化」がテーマとなり、「評価結果」が公表されています。
『WEB RONZA』では大野更紗氏が「〈政策〉の決定過程は、可視化せよ!」(11月21日朝日新聞)と批判していますが、利用者、介護者、介護労働者を読み手に想定していない論点整理であることだけはわかります。
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本連載では、介護保険制度にまつわる皆さんの質問や疑問を受け付けています。制度改正のポイントや利用者・家族、介護職員などへの影響について具体的に知りたいなど、何でも結構です。
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