消費税を引き上げ、保険料と利用料も負担増?
11月14日、来年度の介護報酬を検討している社会保障審議会介護給付費分科会(座長:大森彌・東大名誉教授。以下、分科会)の第85回(資料は現在、未公表)が開かれました。
この日は厚生労働省(事務方)から、「認知症への対応」(資料1)として、認知症高齢者グループホームにおける(1)看取り介護加算、(2)短期利用共同生活介護(空床利用)と共用型認知症対応通所介護の基準の見直し、(3)夜勤職員配置基準の見直し、(4)夜間ケア加算の見直しの4つが “論点”として提案されました。
「介護職員によるたんの吸引等の実施」(資料2)では、(1)特別養護老人ホームと訪問介護事業所の「体制の評価」、(2)訪問介護事業所と連携する訪問看護事業所の「評価」が“論点”として出されました。「さらに議論が必要な論点」(資料3)では、8つのサービスについて提案が出され、「介護サービスに関する関係団体懇談会における主な意見」(資料4)では厚生労働省老健局長の私的懇談会(全3回)に参加した事業者団体の意見が報告されました。
翌15日には、「社会保障・税一体改革成案」(6月30日、政府・与党社会保障改革検討本部決定)の「介護分野の対応について」を検討している社会保障審議会介護保険部会〈座長:山崎泰彦・神奈川県立保健福祉大学名誉教授。以下、部会〉の第40回が開かれ、第38回、第39回に出された委員の意見の整理(資料2)が行われました。
なお、24日9時30分からは第86回分科会(傍聴申込締め切りは18日17時)、同日14時からは第41回部会(傍聴申込締め切りは16日17時)が予定されています。
どちらの会議もテーマはお金(財源)
部会では主に介護職員処遇改善交付金について、分科会では介護保険各サービスの値段(介護報酬)と基準について議論が行われていますが、いずれにしてもメインテーマはお金(財源)です。
第40回部会では厚生労働省から、消費税率引き上げと連動する「社会保障・税一体改革」で「介護分野の検討課題」(資料1)として、(1)介護サービス提供体制と(2)費用負担の能力に応じた負担の公平化を2015年までに「順次実施」することが説明されました。なかでも、目前の「2012年度の予算編成過程において検討すべき課題」として、介護職員の処遇改善問題と2012年度介護報酬改定があるという位置づけです。
在宅を増やし、施設を減らす?
(1)介護サービス提供体制では、「充実」(4900億円程度)と「重点化・効率化」(△1800億円程度)が表裏の関係にあるとして、次のような構図が説明されました。
[充実]在宅介護・居住系サービスの充実←→「重点化・効率化」介護施設の重点化(在宅への移行)
[充実]ケアマネジメントの機能強化←→「重点化・効率化」介護予防・重度化予防
[充実]項目には、施設のユニット化(2500億円程度)と重点化に伴うマンパワー増強(2400億円程度)もあります。単純に考えると、費用がかかる施設サービスから在宅サービスへの移行を進め、在宅サービスはケアマネジメントにより「介護予防・重度化予防」でさらに利用者を減らし(2025年に現行ベースより3%程度減少させる)、施設のユニット化と重度者対応への人材確保にはお金を投入するということでしょうか。
第2号保険料を増やし、低所得者の第1号保険料を減らす?
(2)費用負担の能力に応じた負担の公平化では、「充実」(1300億円)として低所得者の第1号介護保険料の軽減強化のため、「重点化・効率化」(△1600億円)で介護納付金(第2号介護保険料)の総報酬割導入のほか、「重度化予防に効果のある給付への重点化」をすることが挙げられています。今のところ、「重度化予防」「重度化予防に効果のある給付」とは何かについて、具体的な説明はありません。
お金をめぐる“論点”
資料2ではこれまでの委員の意見について、次のように項目を分けています。また、当日は各項目について委員からそれぞれ賛成、反対の意見が出されました。
(1)低所得者の第1号介護保険料の軽減を強化
(2)第2号介護保険料(介護納付金)の総報酬割導入による引き上げ
(3)要支援認定者の利用料(現行1割)の引き上げ
(4)ケアマネジメントの利用料(現行、負担なし)の新設
(5)「一定以上の所得がある者」の利用料(現行1割)の引き上げ
(6)施設の相部屋(多床室)の居住費の新設と低所得者のユニット型個室の居住費の負担軽減
(7)施設の食費・居住費の低所得者対策(補足給付)に資産チェックを追加
(8)施設サービス費用と利用限度額の差額の徴収
働く人の賃金は意見が乱立
今年度で期限が切れる介護職員処遇改善交付金については、2012年度以降も交付金(全額税金)を維持するのか、介護報酬(税金+介護保険料+1割負担)に組み込むのか意見は分かれたままです。
ただし、すでに10月17日の第82回分科会では、「介護報酬において処遇改善措置を実施する場合の考え方」(資料2)として、厚生労働省から「処遇改善加算(仮)」という提案が出されています。
部会では、介護報酬に組み込む場合は介護サービスの情報公表制度などで事業者に人件費公表を義務づけるといった条件付きの意見のほか、「賃金・物価等の経済状況」(第85回分科会に厚生労働省が参考資料として提出)がマイナスという状況のなかで介護職員の賃金だけ増やすことはできない、もともと賃金ベースが低いのだから交付金を継続すべきなど、意見が乱立している状況です。
消費税が上がり、保険料と利用料も上がって、サービスは抑制?
「社会保障・税一体改革」は、消費税引き上げ分について介護保険を含む社会保障費に投入するとしています。一方、部会、分科会ともに、議論は年末に向かって終盤を迎える予定です。
しかし、消費税が上がったうえ、介護保険料(第2号保険料)も利用者負担割合も引き上げになり、サービスの「重点化」が重度者(部会の「介護保険制度の見直しに関する意見」では要介護3~5)で、介護現場で働く人の賃金保障は定まらないという内容で、介護保険料を払っている被保険者7000万人の合意が得られるのでしょうか。今後の推移が大いに心配されます。
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