介護保険と「社会保障・税一体改革」のシナリオ
10月31日、社会保障審議会介護保険部会(座長:山崎泰彦・神奈川県立保健福祉大学名誉教授)の第39回、社会保障審議会介護給付費分科会(座長:大森彌・東大名誉教授)の第83回が続けて開催されました。
介護保険部会(以下、部会)では2005年改正、11年改正と、介護保険法の見直しについて意見をまとめてきましたが、今回は6月30日に政府・与党社会保障改革検討本部が決定した「社会保障・税一体改革成案」にある「介護分野の対応について」の検討を行うために開かれています。
“論点”としては(1)低所得者の第1号保険料の軽減(資料2「1号保険料の低所得者保険料軽減強化」)、(2)所得に応じた第2号保険料の見直し(資料3「介護納付金の総報酬割導入」)の2つが挙げられています。
部会に続いて開かれた介護給付費分科会では、(1)通所介護(デイサービス)、(2)通所リハビリテーション(デイケア)、訪問リハビリテーション、(3)予防給付(介護予防訪問介護、介護予防訪問リハビリテーション、介護予防通所介護、介護予防通所リハビリテーション)、(4)居宅介護支援・介護予防支援(ケアマネジメント)という分類で、それぞれの“介護報酬と基準”について厚生労働省案が示されました。
なお、11月10日に第84回分科会、15日に第40回部会(傍聴申込締切11月10日)が予定されています。
利用者1.5倍をにらんだ“改革シナリオ”
第39回部会では、厚生労働省から「医療・介護のサービス提供体制」(資料1「社会保障・税一体改革における介護分野の制度見直しに関する論点」)として「サービス提供の方向性」が示され、(1)地域における生活の継続(自己決定、多様な住まい方)、(2)介護予防(重度化予防)、(3)医療と介護の連携の強化、(4)認知症対応の推進の4点が挙げられています。
2011年度の介護保険サービス利用者426万人は、14年後の25年度には自然増であれば647万人、「改革シナリオ」であれば6万人少ない641万人になり、どちらにしても1.5倍に増えると推計されています。ただし、1.5倍に増える利用者のサービス内容は、自然増と改革シナリオでは異なります。
(1)在宅サービス利用者304万人(2011年度)
→25年度に自然増で434万人(1.4倍)
→25年度に「改革シナリオ」で449万人(1.5倍)に微増
(2)居住系サービス(有料老人ホーム、認知症高齢者グループホーム)利用者31万人(2011年度)
→25年度に自然増で52万人(1.7倍)
→25年度に「改革シナリオ」で61万人(2.0倍)に倍増
(3)施設サービス利用者92万人(2011年度)
→25年度に自然増で161万人(1.8倍)
→25年度に「改革シナリオ」で131万人(1.4倍)に抑制
施設サービスの伸びを抑制して在宅サービスや居住系サービスを増やそうという内容ですが、特に(1)の在宅サービスでは、市区町村が指定する地域密着型サービスの小規模多機能型居宅介護の利用者5万人(2011年度)が25年度に自然増で8万人(1.6倍)になるのを、「改革シナリオ」で40万人(8.1倍)と大幅に伸ばし、来年度新設予定の同じく地域密着型サービスの定期巡回・随時対応型訪問介護看護を「改革シナリオ」で15万人に増やし、単純計算でみると、“自宅での在宅サービス”利用者の伸びもまた、現在の304万人から394万人(1.3倍)に抑制するという“シナリオ(台本)”になっています。
要介護3~5のサービス利用は倍増?
「重度者の在宅生活を支えられる『社会保障・税一体改革が目指す医療・介護のサービス提供体制』」により、認定ランクに応じて設定されている区分支給限度基準額(利用限度額)について、要介護3で54%(2011年度)しか利用されていないものが「改革シナリオ」では81%(25年度)に、要介護4、5で42%の利用が85%に増えるという表が示されています。ちなみに、なぜ区分支給限度基準額に対して利用割合が低いのか、その原因についての調査・分析はありません。
介護職員は100万人増?
また、利用者が1.5倍になると想定した2025年度に向けた「介護保険制度の機能充実」の内容として、(1)サービス提供体制の改革、(2)マンパワーの増強とそのための介護職員の処遇の維持改善による人材の確保、(3)あるべき提供体制を支える公平な負担の3点が挙げられています。
(2)介護職員の確保については、2011年度の140万人から25年度には自然増で213万から224万人(最大1.6倍)、「改革シナリオ」では232万から244万人(最大1.7倍)に増やす必要があるとしています。
少子化が進むなかで介護職員を14年間で100万人も増やすためには、魅力ある仕事とするための給与など、労働条件の改善整備が必要になります。しかし現在の部会や分科会では、来年3月までの時限措置である介護職員処遇改善交付金(平均月額1万5000円の引き上げ)のゆくえについて、第5期(2012~14年度)に介護報酬に組み込むのか、あるいは交付金のまま継続するのかというテーマに留まっています。
ちなみに、部会は「11月下旬取りまとめ予定」、分科会は「12月上旬取りまとめ予定」とされています(10月24日、厚生労働省政策統括官付社会保障担当参事官室「第2回厚生労働省社会保障改革推進本部」資料より)
消費税引き上げによる「介護保険制度の機能充実」
部会の資料では、「サービスの重点化・制度運営の効率化」により「介護保険制度の機能充実」をめざす「改革シナリオ」を実現するために、「消費税収を主たる財源とする社会保障安定財源の確保」が必要であるという“視点”が出されています。
そして最初に紹介したように、部会では“介護分野のサービスの重点化・制度運営の効率化”の具体的な内容として、(1)低所得者の第1号保険料の軽減、(2)所得に応じた第2号保険料の見直し、そして(3)2012年度以降の介護職員処遇改善交付金のあり方が議論されています。(2)の40~64歳までの第2号介護保険料については、「介護保険料、大企業社員900円増 厚労省試案」(読売新聞10月28日付)、「大企業社員は月900円増 現役世代の介護保険料見直し 厚労省検討」(朝日新聞10月28日付)と、部会が開かれる前に新聞報道がありました。
利用者負担引き上げの再提案
部会ではまた、厚生労働省から資料4「昨年介護保険部会で議論した給付に関する制度見直しの論点」として、以下の5項目が出されています。
(1)要支援認定者の利用者負担=介護予防サービス利用者の利用料の引き上げ(現在は1割負担)
(2)ケアマネジメントに係る利用者負担=ケアマネジメントに利用者負担を導入(現在は利用者負担なし)
(3)一定以上所得者の利用者負担=介護保険の第1号保険料第6段階、医療保険の現役並所得者など、一定以上の所得がある者の利用料の引き上げ(現在は1割負担)
(4)多床室の給付範囲=施設の相部屋利用者から居住費(減価償却費分)を徴収(現在は水道光熱費のみ)
(5)補足給付における資産等の勘案=不動産や預貯金に応じた補足給付の見直し(現在は現金収入のみ)
これらは「介護保険 一部2割負担案示す 民主反対で昨年見送り 厚労省」(毎日新聞11月1日付)という報道にあるように、今年の介護保険法改正案に盛り込むことが見送られた内容です。
10月31日の部会では、資料1~4について25人の委員から自由に意見が出され、11月15日に開催予定の第40回部会に続きます。
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