介護報酬改定に関する3つの会議
10月7日、2012年度の介護報酬を検討する社会保障審議会介護給付費分科会(座長・大森彌、東大名誉教授 以下、分科会)の第81回が開かれました。
厚生労働省(事務方)から提出されたのは、(1)2011(平成23)年介護事業経営実態調査報告(「実調」と略されます)、(2)介護報酬の地域区分の見直し、(3)介護サービスの質の評価、(4)議論の整理(主な論点)の4点です。
なお、大森座長からは2012年度の介護報酬と診療報酬の同時改定に向けて、中央社会保険医療協議会(略称・中医協)から「打ち合わせ会」(資料4)の申し出があり、座長が任意で選んだ分科会メンバーで臨むことが提案、了承されました。第1回打ち合わせ会は21日正午から予定されています。
また、13日には第82回分科会と社会保障審議会介護保険部会(以下、部会)の第38回が予定されています。部会のテーマは「社会保障と税の一体改革」と告知されています。
「社会保障と税の一体改革」については6月30日、政府・与党社会保障改革検討本部が決定した『社会保障・税一体改革成案』があります。このなかでは、「安定財源を確保」のために消費税率を段階的に10%まで引き上げることを中心に、社会保障各制度の改革案が示されています。介護保険制度については、(1)1号保険料の低所得者保険料軽減強化、(2)介護納付金の総報酬割導入、(3)重度化予防に効果のある給付への重点化が挙げられています。
報酬改定の基礎資料
第81回分科会で報告された2011年介護事業経営実態調査報告(以下、調査報告)は資料1-1「概要(案)」、資料1-2「結果(速報値)(案)」、資料1-3「他産業の売上高経常利益率(案)」)に分かれています。
調査報告は介護報酬改定の基礎資料とみなされていますが、2009年度改定時に回収率の低さなどが指摘され、分科会の下に調査実施委員会(委員長・田中滋、慶應義塾大学教授)が設置されました。同委員会は2009年4月20日からこれまでに6回開かれ、(1)2009年度介護報酬改定の結果の検証、(2)介護事業経営実態調査の設計・分析・集計などを行ってきました。
今回の調査報告は集計対象約1万事業所(有効回答率36.1%、被災5県は対象外)で、「主な調査結果」は(1)各介護サービス別の収支は、概ね黒字、(2)前回(2008年)調査と比べ、各介護サービス別の収支は概ね改善、(3)前回調査と比べ、各介護サービス別の総収入に占める給付費の割合は概ね減少、という報告が行われました。
ただし、「介護実調の課題を指摘する声、相次ぐ」(10月7日、キャリアブレイン)という報道もあり、また、収入(介護事業収益と介護事業外収益の合計)と支出(介護事業費用、介護事業外費用、特別損失の合計)の差引額は「税引き後利益」なのかといったデータの基本的な読み方について、委員から疑問が出ました。調査報告の収支差引額に黒字が多いサービスは介護報酬の評価が低く判断されかねませんから、サービス提供事業者を代表する委員が注目するのも当然かと思います。
介護職員の給与は話題にならず
しかし残念なことに、介護職員の給与については話題になりませんでした。調査報告では「利用者1人当たり収入」と「利用者1人当たり支出」、「看護・介護職員(常勤換算)1人当たり給与」という項目も報告されています。介護保険費用(介護予防サービスを含む)の割合が高い上位5サービスについて、数字をまとめてみると次のようになります(費用と割合は平成21年度介護保険事業状況報告〈年報〉より)。
1.特別養護老人ホーム(1兆3895億6116万円、19.4%)
利用者1人当たり収支差額 1171円
看護・介護職員(常勤換算)1人当たり給与 30万3443円
2.老人保健施設(1兆1039億5335万円、15.4%)
利用者1人当たり収支差額 1310円
看護・介護職員(常勤換算)1人当たり給与 31万7091円
3.デイサービス(1兆0352億5528万円、14.4%)
利用者1人当たり収支差額 1221円
看護・介護職員(常勤換算)1人当たり給与 22万7343円
4.ホームヘルプ・サービス(6989億7990万円、9.7%)
利用者1人当たり収支差額 193円
介護職員(常勤換算)1人当たり給与 22万4189円
5.認知症高齢者グループホーム(4500億0506万円、6.3%)
利用者1人当たり収支差額 984円
看護・介護職員(常勤換算)1人当たり給与 23万6755円
介護保険の“収支差額”は施設が黒字?
「利用者1人当たり収支差額」では、ふたつの施設サービスとデイサービスは1000円を超える黒字、認知症高齢者グループホームは900円台で、在宅を訪ねるホームヘルプ・サービスの193円はとても低い数字にみえます(訪問看護でも250円になっています)。
給与でみると、施設サービスの「看護・介護職員(常勤換算)1人当たり給与」は30万円台ですが、認知症高齢者グループホーム(居住系サービスとも呼ばれます)は約24万円、在宅サービスの中心となるホームヘルプ・サービスとデイサービスは約22万円になります。ちなみに訪問看護は41万9937円です。
交付金の比率が高いのは地域密着型サービス?
介護職員の給与は介護職員処遇改善交付金により引き上げが図られていますが、全額公費投入の外付けであるため、介護報酬の基本報酬には組み込まれていません。
分科会の資料1-3「他産業の売上高経常利益率(案)」)の2ページ目に「収支差と処遇改善交付金の関係について」というデータがあります。“介護料収入に占める介護職員処遇改善交付金の割合”が3%台になるのは、小規模多機能型居宅介護(3.2%)、訪問介護(3.1%)、認知症高齢者グループホーム(3.0%)の3サービスと報告されています。
なお、2008(平成20)年調査の収支差と比較してマイナスになっているのは、認知症高齢者グループホーム(マイナス1.3%)、訪問看護(マイナス0.4%)、通所リハビリテーション(マイナス0.5%)、ショートステイ(マイナス1.4%)、特定施設入居者生活介護(0.9%)の5サービスになっています。
ただし、これらの資料が“介護報酬改定の基礎資料”としてどのように分析され、判断根拠とされるのかはまだわかりません。
介護職員の給与は「経営者の裁量」「労使交渉による」とされ、分科会のメインテーマになることはありませんでしたが、今年度までの時限措置である介護職員処遇改善交付金がどうなるのかも含めて、今後の調査報告の議論の行方に注目したいと思います。
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