「定期巡回・随時対応サービス」の展望と課題
今年の通常国会で成立した改正介護保険法には、新サービスとして「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」と「複合型サービス」が盛り込まれました。どちらも市区町村が指定する地域密着型サービスで、訪問看護師が関与するのが特徴です。
特に「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は、改正法案を議論した社会保障審議会介護保険部会(座長・山崎泰彦、神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授=当時)で“要介護高齢者を地域全体で支えるための地域包括ケアシステム”が提唱され、その中心的サービスと位置づけられています。
9月22日に開かれた社会保障審議会介護給付費分科会(座長・大森彌、東大名誉教授。以下、分科会)の第80回では、この2つの新サービスの「基準・報酬」を議論するために、厚生労働省老健局(事務方)から資料1「定期巡回・随時対応サービス(定期巡回・随時対応型訪問介護看護)の基準・報酬について」、資料2「複合型サービス(小規模多機能型居宅介護と訪問介護)の基準・報酬について」が提出されました。
ちなみに、同月30日に開かれた分科会調査実施委員会(座長・田中滋、慶応義塾大学教授)の第6回では、2012年度以降の介護保険サービスの値段(介護報酬)の改定を議論する基礎資料とされる「2011(平成23)年介護事業経営実態調査結果」の速報値(案)が提出されました。こちらは『介護事業 利益率が上昇 介護報酬プラス改定などで』(毎日新聞2011年9月30日付)、『19サービスが黒字確保』(朝日新聞2011年9月30日付)、『介護施設・事業所の経営改善』(読売新聞2011年9月30日付)などの新聞報道があります。
なお分科会は、10月7日に第81回、17日に第82回、介護保険部会は13日に第38回(傍聴申込の締切は10月6日17時)が予定されています。
「定期巡回・随時対応サービス」の定義
「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」というのは法律上の正式名称ですが、厚生労働省資料では「定期巡回・随時対応サービス」と略称を用いています。
同サービスは、厚生労働省が三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に委託(2008年度老人保健健康増進等事業)した24時間地域巡回型訪問サービスのあり方検討会(座長・堀田力、公益財団法人さわやか福祉財団理事長、2010年6月18日から2011年1月31日まで8回開催)の報告書(2011年2月25日公表)に基づき新設されたサービスで、「24時間対応の定期巡回・随時対応サービス事業」(2011年度予算案12億円、60市区町村で実施予定)というモデル事業が実施されています。
第80回分科会の資料1「定期巡回・随時対応サービス(定期巡回・随時対応型訪問介護看護)の基準・報酬について」では、同サービスを(1)市区町村指定の地域密着型サービスのひとつ、(2)対象者は要介護者(要介護1~5)のみで「医師の指示に基づく看護サービスを必要としない利用者が含まれる」、(3)身体介護を中心とした1日複数回サービス(看護や生活援助サービスも一体的に提供)と定義しています。
2種類の提供事業所
「定期巡回・随時対応サービス」提供事業所の形態は(1)介護・看護一体型(1つの事業所で訪問介護と訪問看護を一体的に提供)と(2)介護・看護連携型(訪問介護事業所が訪問看護事業所と連携してサービスを提供)の2種類です。
職員配置は(1)訪問介護員等、(2)看護職員、(3)オペレーター、(4)計画作成責任者(仮称)、(5)管理者の5職種が「イメージ」として提案されています。なお、(2)~(4)の職種のうち「1名以上は常勤の保健師あるいは看護師とする」としています。
「定期巡回・随時対応サービス」は“共同マネジメント”
指定事業所の基準については、以下の論点が出されています。
(1)24時間365日対応のための訪問介護員等と看護職員の必要人数(訪問介護員等は「柔軟な配置」、看護職員は「必要な数以上」)
(2)利用者からの随時連絡に対応できるオペレーター(夜間対応型訪問介護のオペレーターのほかホームヘルパーなどで人材確保)
(3)特別養護老人ホーム、老人保健施設など24時間対応の施設・事業所に従事する夜勤職員の兼務、事業の一部委託
(4)介護・看護連携型事業所と訪問看護事業所の連携方法
(5)ケアマネジャーと定期巡回・随時対応サービス計画作成担当者(仮称)の共同マネジメント(訪問日時は定期巡回・随時対応サービス事業所が決定)
(6)集合住宅(サービス付き高齢者向け住宅など)へのサービス提供における「囲い込み防止」
利用者も2種類?
「定期巡回・随時対応サービス」の介護報酬についての“考え方”は、「医師の指示に基づく訪問看護を受ける者とそれ以外の者(介護サービスと看護職員による定期的アセスメントを受ける者)ごとに包括化してはどうか」と提案され、他のサービスの利用については、(1)デイサービス、ショートステイを併せて利用する場合は「日割り計算」を実施、(2)訪問介護、訪問看護、夜間対応型訪問介護の併用は「想定しがたい」が、訪問介護の「通院等乗降介助」は併給を認めるといった細かい“論点”が出されています。
「定期巡回・随時対応サービス」の課題
できる限り自宅で介護を受けたいと願う高齢者や家族などに応えるサービスとされる「定期巡回・随時対応サービス」ですが、利用者の視点から資料を見ると、複雑なサービス内容を理解できるのだろうかと心配になります。また、“24時間365日”のサービスを維持する関係者の力量が相当必要とされるでしょう。厚生労働省も“論点”として課題をあげていますが、気づいた点をいくつか挙げてみます。
まず、サービスを提供する事業所の数がわからないことです。地域密着型サービスは市区町村(保険者)が指定しますが、各市区町村が第5期介護保険事業計画(2012~14年度)でどのくらいの事業所を確保するのか予測がつきません。介護保険サービスの利用者(年間実受給者数)は523万4900人で、そのうち地域密着型サービス利用者は36万9900人(全体の7.1%)です。地域密着型サービスのメニューである認知症高齢者グループホーム、小規模有料老人ホーム、小規模特別養護老人ホームの居住系3サービスを除くと、17万1900人(3.3%)とさらに減ります(厚生労働省「2010(平成22)年度介護給付費実態調査の概況」より)。
一方、新サービスの対象となる要介護認定(要介護1~5)を受け、有料老人ホームなど特定施設入居者生活介護を除いた在宅(居宅)サービスの利用者は282万5300人(全体の53.97%)にのぼります。在宅系の地域密着型サービスの利用者も事業者も少ない現状で、その理由についての調査もないままに、幅広い対象者向けの新サービスが登場することになります。もっとも対象者については、「要支援や要介護1の方に巡回サービスが要りますか。そんなものは要るわけないんです。要るわけないですから、制度上、それを外せなければ、介護報酬を下げればいいんです」(分科会委員・池田省三、地域ケア政策ネットワーク研究主幹、24時間地域巡回型訪問サービスのあり方検討会委員、地域包括ケア研究会メンバー)という意見も出ています(第74回分科会議事録より)。
介護報酬が確定するのは2012年1月の介護給付費分科会と予定され、金額(どのくらい利益が見込まれるか)によって参入する事業所の数も変動するため、利用者、介護者の新サービスへの期待がかなえられるのかどうか不安が残ります。
次に、「定期巡回・随時対応サービス」を利用する場合、ホームヘルプ・サービス、訪問看護、夜間対応型訪問介護の併用は「想定しがたい」とされていることです。12億円(2011年度予算案)もかけたモデル事業の結果が公表されず課題も明らかにならないまま「想定しがたい」と言えるのか、あるいは判明した課題を解決するプランを提案すべきではないかという疑問が残ります。
3つ目は「定期巡回・随時対応サービス」の利用者は誰に連絡をとり、誰に相談するのかという点です。考えられるのはケアマネジャー、定期巡回・随時対応サービス計画作成担当者(仮称)、オペレーター、管理者の4職種ですが、平均年齢80歳代の「単身・高齢夫婦」に限らず、家族などの介護者でも混乱することが予想されます。
厚生労働省は“国民参加の場”の1つとして、「国民の皆様の声」を随時求めています。新設される「定期巡回・随時対応サービス」に期待するのであれば、利用者や介護者、事業者、そして働く人たちが意見や提案を出し、来年1月に介護報酬の諮問・答申が行われる前に、少しでも利用しやすいサービスにするよう軌道修正を求めることも必要ではないでしょうか。
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