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どうなる? 介護保険

「生活援助」が15分短くなる?

 10月13日、社会保障審議会介護給付費分科会(座長:大森彌・東大名誉教授 以下、分科会)の第82回が開かれました。厚生労働省(事務方)からは「平成24年度介護報酬改定について」として、訪問介護(資料1-1)、訪問看護(資料1-2)、療養通所介護(資料1-3)、短期入所生活介護(資料1-4)、短期入所療養介護(資料1-5)、居宅療養管理指導(資料1-6)の6種類の在宅サービスの「基準・報酬」について、“論点”という提案が行われました。
 分科会については「厚労省、訪問介護の基準見直し案を提示 生活援助の時間区分を45分に」(10月17日キャリアブレイン)、「介護効率化で時間基準見直しへ」(10月18日NHKニュース)、「厚生労働省が介護報酬・基準案 生活援助60分→45分に」(10月21日シルバー新報)などの報道がありますが、ホームヘルプ・サービス(以下、訪問介護)のメニューのひとつである生活援助について、売上(介護報酬)の時間区分を「30分以上60分未満」から「45分未満」に、「60分以上」を「45分以上」に短縮してはどうかという内容です。なお、45分区分にした場合の金額(報酬単価)はまだ提示されていません。
 時間区分を15分短くする理由は、(1)利用者の利便性や負担に配慮し、(2)事業者がより多くの利用者にサービスを提供することが可能になるからということで、根拠として示されたデータは『訪問サービスにおける提供体制に関する調査研究事業』(2011年厚生労働省老人保健健康推進事業、株式会社政策基礎研究所)が“集計中のデータ”と説明されました。そこには、(1)1行為は15分未満ですむ場合もある、(2)組み合わせによっては30~40分程度になり、「45分未満の割合」が8割を超えるので、ホームヘルパー(訪問介護員)の提供時間を「60分」から「45分」に短くできる、と解説が加えられています。

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訪問介護は在宅のメインサービス
 『2010(平成22年)年厚生労働白書』には「厚生労働カルタ」という付録がつき、「我が家の 強力サポーター ホームヘルパー」という札があります。
 ホームヘルパーが提供する訪問介護は「生活援助」「身体介護」「通院等乗降介助」にメニューが分かれ、「生活援助」はさらに掃除、洗濯、一般的な調理・配膳、買い物・薬の受け取りなど“行為別”に分けられています。
 現在、要介護認定(要介護1~5)を受けて訪問介護を利用しているのは全国124万7900人で、在宅サービス利用者の約4割が利用しています(要支援認定者が利用する介護予防訪問介護と合計すると181万2000人になります)。また、在宅サービス費用の半分以上が訪問介護に費やされ、訪問介護は在宅の中心サービスとなっています(厚生労働省「2009(平成21)年度介護給付費実態調査結果の概況」より)。

訪問介護利用者の約7割は生活援助を利用
 10月7日の第81回分科会では、「2011(平成23)年介護事業経営実態調査結果(速報値)」(資料1-2)が公表され、ひとつの訪問介護事業所の月当たり訪問時間は775時間(介護予防訪問介護156時間、訪問介護619時間)で、要介護認定者への訪問介護は、身体介護196時間(32%)、身体介護+生活援助200時間(32%)、生活援助222時間(36%)となり、生活援助を含むサービス提供割合は約7割近くなることが報告されています。
 また、訪問回数をみると生活援助+身体介護は145.1回、生活援助は191.9回で、単純計算ですが1回平均提供時間は、生活援助+身体介護が約1.4時間、生活援助は約1.2時間になります。

どこまで「暮らしの支援」を削るのか?
 介護保険がスタートした2000年度、訪問介護は身体介護、複合型、家事援助の3種類で、03年度の第2期介護報酬改定では身体介護、生活援助の2種類に変わりました。06年度の第3期介護報酬改定では介護予防訪問介護(要支援1・2が対象)と訪問介護(要介護1~5が対象)に分離され、訪問介護は身体介護、生活援助、通院等乗降介助となりました。いずれにしても、制度開始以来、介護報酬では家事援助、生活援助ともに「30分以上1時間未満」「1時間以上」という区分が続いてきました。
 介護報酬をみると、「30分以上1時間未満」の場合、家事援助時代は153単位でしたが、03年度以降、生活援助は208単位が続いています(1単位10円が基準ですが、地域別に換算率が上がります)。
 利用者サイドでみると、電話相談「介護保険ホットライン」(主催:介護保険ホットライン企画委員会)では、前回の法改正が実施された06年度以降、“同居家族”がいることを理由に生活援助が利用できないという相談が増えました。これは基準で決められたわけではなく、働く“同居家族”が不在の「日中独居」、80~90歳代の高齢“同居家族”でも、介護保険の運営主体である市区町村の“判断”によって「生活援助は利用できない」とされるケースが増えたことが原因で、市区町村ごとにばらつきがあります。
 厚生労働省は「一律機械的な制限をしないように」という連絡文を2回、課長通知を1回出していますが、不当な利用制限が解消できたのかどうかは実態調査による検証もないため不明です。

「遠距離介護」は継続できるか?
 利用者にとって不利益と思われる状況が続くなかで、今回分科会に提案されたのが、生活援助の提供時間の短縮です。“同居家族”の有無はともかく、単身高齢者が増加するなか、さらに「暮らしの支援」が削られようとしています。
 単身高齢者への生活援助が縮小された場合、働く世代が離れて暮らす親を介護する「遠距離介護」や「別居介護」への負担が増えるのではないかとも危惧されます。ちなみに「社会保障・税一体改革成案」(2011年6月30日、政府・与党社会保障改革検討本部決定)では、第2号保険料(40~64歳の介護保険料)の引き上げが検討されています。働く子ども世帯にとっては、負担が増えてサービスが減る事態になるのかとも推測されます。

「エビデンス」とは何か?
 いずれにしても、生活援助の提供時間を短縮するという厚生労働省が示した“論点”は、「現在集計中」のデータに基づくものです。2月7日、第71回分科会では第5期介護報酬改定の議論をはじめるにあたり、「2012年度介護報酬改定に向けたメモ」(文責は不明)が出され、「エビデンスに基づいた説得力のある議論を行うこと」に“配慮”することが求められました。
 生活援助の「平均提供時間」が「45分未満の割合が多い」というのは「エビデンス」(=証拠)になるのでしょうか。ちなみに、“現在集計中”のデータを出した株式会社政策基礎研究所(株式会社EBP)もまた、「私共はEBP(科学的根拠に基づく政策)により社会に貢献します」という理念を掲げています。



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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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