「高齢者」と「障害者」は縦割?
介護保険は「加齢に伴う介護負担を社会全体で支え合う」(2011年9月13日公表「厚生労働省に寄せられた国民の皆様の声・集計報告」より)ため、40歳以上の被保険者が保険料を払い、認定でサービスが必要と認められたら利用できるという制度です。なぜ40歳以上なのかについては「脳血管疾患や若年性認知症等の介護ニーズがおおむね40歳から高くなることや、介護サービスが供給されることによって老親への介護負担の軽減が図られる等の理由」(2011年8月12日公表「厚生労働省に寄せられた国民の皆様の声・集計報告」より)であると説明されています。
ただし、介護保険法成立時から、介護サービスと障害者サービスは別建てがいいのか、統合すべきなのかは意見が分かれ、結論が出ないまま推移しています。
そうしたなか8月30日、障がい者制度改革推進本部(内閣府)が設置した障がい者制度改革推進会議総合福祉部会は、第18回部会で「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言 -新法の制定を目指して-」をまとめました。
「障害者」データには「高齢者」も含まれる
現在、福祉サービスは「高齢者」「障害者(児)」「子供」「ひとり親家庭・女性」(東京都福祉保健局『2011社会福祉の手引』より)など対象別に説明され、「高齢者」は措置制度(全額公費負担で、行政が利用者やサービスを決定する制度)から介護保険法、「障害者」は措置制度と支援費制度を経て、障害者自立支援法にもとづく利用が中心です。
ただし、40~64歳の第2号被保険者の介護保険サービス利用は、特定疾病(加齢に伴う15疾病と末期がん)に限定され、それ以外の人は障害者サービスを利用することになっています。2006年度からスタートした障害者自立支援法は、身体障害、知的障害、精神障害に分かれていたサービスを一本化したものです。
障害別にみると、身体障害者(在宅)は全国で348万3000人、うち63.5%は65歳以上(「平成18年身体障害児・者実態調査結果」より)です。知的障害者(在宅)は全国で54万7000人、うち65歳以上は2万5000人で4.6%(「平成17年度知的障害児(者)基礎調査結果の概要」より)と推計されています。精神障害者は「精神疾患のデータ」(2008年)では患者数323万人、「精神病床の入院患者数」31万5000人になります。なお、認知症で精神病床に入院しているのは5万2000人(厚生労働省「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム第2R資料」2011年7月26日より)と報告されています。また、難病者は「特定疾患医療受給者証の所持者数」で67万9335人(「平成21年度衛生行政報告例結果の概況」より)になります。
「高齢者」と「障害者」のサービス統合は先送り続き
高齢者にもさまざまな障害や難病の人がいますが、障害者サービスを利用するときには介護保険が優先されるため、“介護保険にないサービス”に限って障害者自立支援法のサービスが利用できます。ただし、介護認定とは別に障害程度区分認定を受ける必要があります。
病気や障害のある人へのサービスが「高齢者」と「障害者」と65歳ラインで分かれているのはとても使い勝手の悪いものですが、行政レベルでは、(1)介護保険料を払う被保険者を20代、30代まで広げるのか、(2)障害者サービスを介護保険に統合するのか、というテーマに結論を出せないままでいます。
前回の介護保険法改正(2005年法改正、2006年度施行)の内容を検討した社会保障審議会介護保険部会では2004年12月10日、「『被保険者・受給者の範囲』の拡大に関する意見」で、(1)年齢や病気・障害にかかわらず普遍的なサービスが必要、(2)対象年齢の引き下げは介護保険料徴収額を増やし財政的安定につながるが、(3)新たな負担に若年層の納得が得られるかといった問題があるため、「社会保障制度全般の一体的な見直しの中で、結論を得るべきである」と先送りの結論を出しました。ただしこのときには、介護保険に障害者サービスを統合した場合の「想定される施行準備のスケジュール」も示されました。
その後、2006年3月から厚生労働省に「介護保険制度の被保険者・受給者範囲に関する有識者会議」が設置され、2007年5月21日に「介護保険制度の被保険者・受給者範囲に関する中間報告」がまとめられ、賛否両論を併記し、「高齢者と障害者のサービスの相互利用や相談窓口の一本化について、その推進を図るための具体的な措置をできるだけ早い時期に講ずるべきである」「国民各層において幅広い議論が行われることを期待したい」としました。背景には、第5回有識者会議の障害者8団体のヒアリングで、すべての団体が介護保険と障害者サービスの統合に強く反対する意見を述べたことがあります。このため、有識者会議は介護保険部会に続き、先送りの結論となりました。
今年の介護保険法改正の内容を議論した社会保障審議会介護保険部会が2010年11月30日に公表した「介護保険制度の見直しに関する意見」では、「要介護高齢者を地域全体で支えるための体制の整備(地域包括ケアシステムの構築)」が中心テーマで、サービスの統合については「障害者施策については、内閣府の『障がい者制度改革推進本部』において、議論が行われているところであり、今後は、介護保険制度の骨格を維持した上で、被保険者年齢を引き下げることについて、十分な議論を行い結論を得るべきである」と再び先送りになりました。
「障害者」は介護保険を使わない?
そして8月30日、介護保険部会が言及した障がい者制度改革推進本部(内閣府)障がい者制度改革推進会議総合福祉部会がまとめた「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」が登場しました。
具体的な内容については「原則無償化 課題は財源」(2011年9月14日付毎日新聞)などの報道がありますが、提言が構想する「法の理念」では「介護保険制度の制定過程でも『介護の社会化』が目標とされたが、いまだ実現の見通しは立っていない」と厳しい断定があります。
「介護保険との関係」では、「障害者総合福祉法は、障害者が等しく基本的人権を享有する個人として、障害の種別と程度に関わりなく日常生活及び社会生活において障害者のニーズに基づく必要な支援を保障するものであり、介護保険法とはおのずと法の目的や性格を異にする」ため、「介護保険対象年齢になった後でも、従来から受けていた支援を原則として継続して受けることができるものとする」としています。
縦割で目指す「排除されない社会」
「介護保険との関係」の「説明」には、「65 歳以上で要介護状態となった高齢者にも平等な選択権が保障されるべきであるとの意見もあることから、更に慎重な議論が必要である」と加えられていますが、これまでおおまかに65歳というラインで「高齢者」と「障害者」に分かれていたサービスについて、「障害者」の場合は終生、障害者サービスを利用するとしているのです。
障害者分野では「インクルーシブな社会」、高齢者分野では「社会的包摂」という言葉がよく使われます。どちらも、病気や障害、幼児期や高齢期など、多様な社会的弱者が排除されることなく生きることができる社会を目指す考え方です。
「障害者総合福祉法」が、「障害の種別と程度」は超えるけれど「年齢の壁」は超えない。65歳になっても「障害者」は「高齢者」にならない――という主張は「高齢者」と「障害者」の分断の深さを痛感させられます。一方で、縦割りでは「排除されない社会」は実現できないのではないかという疑問をもつのは私だけでしょうか。
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