介護報酬改定の基礎資料
介護保険サービスの費用である介護報酬(事業者にとっては売上、利用者にとっては1割が利用料、行政にとっては9割が給付費)については、社会保障審議会介護給付費分科会(以下、分科会)で具体的な内容が議論されます。
6月16日の第76回分科会では高齢者専用賃貸住宅、認知症高齢者グループホーム、小規模多機能型居宅介護について事業者団体のヒアリングが行われました。今後はリハビリテーション、軽度者への対応、福祉用具などのヒアリングが行われ、秋から年末まで在宅サービス、施設サービスなどの各論が検討される予定です(第20回社会保障審議会医療部会資料2-7「介護給付費分科会の検討スケジュールについて(案)」より)。
医療部会の資料に分科会のスケジュールが入っている理由はさておき、介護保険サービスの各論を検討するための基礎資料は、今秋公表予定の「2011年介護事業経営実態調査結果」と説明されています。
ところで7月14日、厚生労働省は「2010(平成22)年度介護事業経営概況調査」を公表しました。この「概況調査」と「実態調査」はどう違うのでしょうか? なお、7月28日には、第77回分科会が予定されています(傍聴申込の締切は7月26日17時です)。
「実態調査」と「概況調査」の違い
分科会は「2011年介護事業経営実態調査結果」がまとまらないと、サービスごとの検討にエンジンがかからないようです。ちなみに、前回の介護報酬改定(2009~2011年度)のために「平成20 年介護事業経営実態調査結果の概要」が提出されたのは、2008年10月3日の第55回分科会でした。
「介護事業経営実態調査」(以下、実態調査)で報告されるのはサービス別、地域別、規模別、経営主体別の単年度収支計、延べ利用者数、常勤換算職員数、職種別常勤換算1人当たり給与、職員1人当たり利用者数などです。
「介護事業経営概況調査」(以下、概況調査)も同じ内容にみえますが、厚生労働省ホームページの説明では、どちらの調査も「介護報酬は各々のサービスの平均費用の額を勘案して設定することとしていることから、各々の介護サービスについての費用等についての実態を明らかにする」という目的は同じです。ただし、実態調査は「介護報酬設定に必要な基礎資料を得る」、概況調査は「介護報酬改定の骨格(案)作成に必要な基礎資料を得る」という目的が続きます。
実態調査は介護報酬改定の前年に「介護報酬設定」のために報告され、概況調査は前々年に「介護報酬改定の骨格(案)作成」のため、いわばプレ調査として報告されるようです。
「概況調査」の事業者収支計
では、2010年度概況調査で「各々の介護サービスについての費用等の実態」はどうなっているのでしょうか? 2010年度概況調査の統計表一覧で、サービス別の年間収支計を確認してみました。
居宅介護支援 △3万7000円
訪問介護 8万7000円
訪問入浴介護 15万9000円
訪問看護ステーション 16万7000円
通所介護 56万7000円
認知症対応型通所介護 4万円
通所リハビリステーション 18万2000円
短期入所生活介護 34万6000円
福祉用具貸与 40万9000円
特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム) 217万6000円
小規模多機能型居宅介護 26万3000円
認知症対応型共同生活介護 83万6000円
介護老人福祉施設 307万3000円
介護老人保健施設 277万5000円
介護療養型医療施設(病院) 446万6000円
これらの数字のとらえ方にはさまざまな意見があると思いますが、単純に収支状況をみると、ケアマネジャーが所属する居宅介護支援事業所のみが赤字です。黒字額10万円未満は、認知症対応型通所介護と訪問介護です。黒字額10万円以上20万円未満は、訪問入浴介護、訪問看護ステーション、通所リハビリステーションの3サービスです。黒字額が200万円を超えるのは、有料老人ホームと介護保険3施設のみです。
実態調査の結果は秋を待たなければなりませんが、2010年度概況調査とどのくらい違いがでるのでしょう。また、「各々のサービスの平均費用の額を勘案して設定」するときに収支差が反映されるのかどうか、関心をもちたいところです。
日本医師会は「同時全面改定」に反対
介護保険の介護報酬は3年ごとに、医療保険の診療報酬は2年ごとに改定が実施され、2012年度は2回目の同時改定が予定されています。
7月20日に開かれた第20回医療部会では、「2012年度の診療報酬・介護報酬同時改定についての日本医師会の申し入れ(要請)」(中川俊男委員〈日本医師会副会長〉)が提出されました。
要請文の1番目に「平成24(2012)年度の診療報酬・介護報酬同時全面改定を見送ること」とあります。「国およびわれわれ医療関係者は、東日本大震災の復興支援に全身全霊をささげるべきであり、東日本大震災という国難の大混乱期において、国の制度の根幹を左右する診療報酬、介護報酬の同時全面改定を行なうべきではない」というのが理由です。ただし、「不合理な介護報酬に加えて、介護保険料の決定のために必要なことは行なう。日本医師会としても必要な対応を行なっていく所存である」とあります。
「同時全面改定」や「不合理な介護報酬」「介護保険料の決定のために必要なこと」の具体的な内容は、第77回分科会で説明されるのか、医療部会議事録を待つ必要があるのか、そもそも日本医師会の「要請」が反映されるのかどうか、注目したいと思います。
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