改正案の国会審議は最終局面
衆議院で可決された「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」(以下、改正案)は6月7日、参議院厚生労働委員会(以下、委員会)で審議入りしました。9日には5時間35分の質疑が行われましたが、明日14日(火)には2回目の質疑(2時間25分)で採決が予定されています。
つまり、改正案は衆議院10時間、参議院8時間という短時間の国会質疑で成立の予定です(9日の委員会は、参議院インターネット審議中継でネット傍聴できます)。
その後は、社会保障審議会介護給付費分科会(以下、分科会)で改正案の具体的な内容が検討され、2012年1月に厚生労働大臣の介護報酬改定の諮問に答申が行われ、厚生労働省令が出されるという流れになります。なお、16日(木)には第76回分科会が開かれる予定です。
すでに終盤という改正案審議ですが、今回は委員会の答弁のいくつかを紹介します。
若い世代への保険料負担の拡大
介護保険制度では保険料を払う被保険者は40歳以上ですが、主に財源確保を目的に20代、30代の若い世代も負担すべきという意見が繰り返し登場します。
前回、2005年の改正内容を検討した社会保障審議会介護保険部会は2004年10月、『「被保険者・受給者の範囲」の拡大に関する意見』で、「介護を必要とする全ての人にサービスの給付を行い、併せて保険料を負担する層を拡大していくことにより、制度の普遍化の方向を目指すべき」だが、若い世代に負担を納得させることがむずかしい、障害者施策は別に充実させるべきという両論併記の意見をまとめました。
また、厚生労働省介護制度改革本部は2006年3月から介護保険制度の被保険者・受給者範囲に関する有識者会議を開きましたが、障害者団体から障害者サービスの介護保険への統合について強く反対され、『介護保険制度の被保険者・受給者範囲に関する中間報告』もまた、両論併記に終わりました。
今月9日の委員会では、辻泰弘委員(民主党)の「被保険者の拡大」を検討しないのかとの質問に、大塚耕平・厚生労働副大臣が「社会保障全体が現役世代に配慮した改革を行う前提がないと、簡単に理解が得られない」と答弁しました。
「サービス付き高齢者住宅」の住所地特例
介護認定を受けた人が、他の市区町村にある介護保険3施設、特定施設(有料老人ホームやケアハウス、適合高齢者専用賃貸住宅で「特定施設入居者生活介護」サービスを提供する施設)、養護老人ホームなどを利用する場合、施設がある市区町村の費用負担が大きくならないよう、元の住所があった市区町村が介護報酬の支払いなどを行うしくみを「住所地特例」と呼びます(認知症高齢者グループホームが「住所地特例」の対象とならないことは、介護保険サービスがスタートしたときから問題となってきました)。
委員会では谷博之委員が、改正高齢者住まい法(高齢者の居住の安定確保に関する法律)の「サービス付き高齢者向け住宅」で新設予定の「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を利用する場合、住所地特例の扱いはできないのかと質問し、宮島俊彦・厚生労働省老健局長から「高齢者専用賃貸住宅は住宅であり、住宅は特例の対象にはならない」し、「在宅サービスに住所地特例を適用するのは課題が多い」と答弁しました。
小規模多機能型居宅介護のケアマネジャー
2005年の改正で地域密着型サービスに新設された小規模多機能型居宅介護のケアマネジャーについて、谷博之委員(民主党)が「施設サービスと同様、内部化されているが、新しく利用する場合、それまでの在宅サービスのケアマネジャーと関係が断たれてしまうので、外部化してはどうか」と質問し、宮島俊彦・厚生労働省老健局長は「小規模多機能型居宅介護のケアマネジャーの配置のあり方については、分科会で議論してもらいたい」と答弁しました。
「定期巡回」は“サービスの質の低下”につながる?
改正案で地域密着型サービスに新設が提案されている「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」について、中村博彦委員(自民党)が「施設では20年前、おむつ交換は定期交換だったが、今は随時交換が常識であり、さらに日中のおむつはずしが目標になっている。地域包括ケア構想で再び、随時交換に変わるのは、介護現場では考えられない質の低下だ」と質問し、細川律夫・厚生労働大臣は「利用者の状態にあわせた適切なケアマネジメントの実施、保険者による利用者の満足度などの把握、第三者評価の仕組みを活用するなど、質の確保に取り組みたい」と答弁しました。
「介護予防・日常生活支援総合事業」は“シームレスなサービス提供”?
市区町村が実施する地域支援事業に新設が提案されている「介護予防・日常生活支援総合事業」(以下、総合事業)は、(1)介護予防サービス、(2)介護予防事業、(3)「市区町村の実情に応じたサービス」をまとめて提供することが提案されています。田村智子委員(共産党)の「すべての市区町村で実施するのか」との質問に、大塚耕平・厚生労働副大臣が「市区町村の自主性、創意工夫を最大限に活用していただくことが前提」であり、「要支援1、2を対象とする介護予防サービスから、非該当のみなさんへの配食、見守りなどの日常生活支援サービスをシームレスに提供するもの」と答弁しました。また、(3)について田村委員から「要支援認定者へのサービスが指定事業者から、ボランティア、近隣の者に置き換わるのか」と重ねて質問があり、「厚生労働省で、衛生管理や事故発生時の対応など一定の基準は定める」と副大臣の答弁がありました。
福島みずほ委員(社民党)の「要支援認定者には介護保険サービスを利用する権利があるとの大臣答弁があったが、介護予防サービスと総合事業のどちらになるのか、本人の意向と市区町村の判断が異なる場合、要支援認定者は権利を行使できるのか」との質問には、岡本充功・政務官から「権利はあるが、どのようなサービスを受けるかはシステム上、市区町村が決定する」が、「嫌がるものを引っぺがして、こっちだとするものではない」「本人の意思に反して介護予防サービスが支給されないと異議がある場合は、介護保険審査会に審査請求することもできる」という答弁がありました。
都道府県の介護保険審査会は、介護認定に不服がある場合の審査請求機関となっていますが、要支援認定者が総合事業の対象となったことに不服がある場合も介護保険審査会に審査請求することになるのかどうかは、改めて確認して報告します。