「地域支え合い体制づくり事業」予算の使い道
5月31日、衆議院本会議で「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」(以下、改正案)が可決されました(国会の審議は、衆議院と参議院それぞれの本会議と委員会で行われ、本会議には全議員が集まり、議院としての最終決定が行われます)。
続く参議院でも、厚生労働委員会で質疑が始まります。当初、6月2日開始といわれていましたが、内閣不信任案提出のため延期され、7日の趣旨説明(大臣が文書を読み上げるだけなので「お経よみ」と呼ばれます)から開始される予定です。
改正案についての衆議院厚生労働委員会(以下、委員会)の議事録は、第12号(5月11日)の細川律夫厚生労働大臣の趣旨説明、第13号(5月20日)の質疑しか公開されていません。参考人質疑(5月24日)、野党質問(5月25日)、委員会採決(5月27日)については衆議院テレビのビデオライブラリで、本会議採決(5月31日)とともに確認してください。
5月の委員会質疑を傍聴して気になったことのひとつが、「地域支え合い体制づくり事業」です。
「積み増し」された事業費
「地域支え合い体制づくり事業」は、2010(平成22)年度補正予算で「介護等高齢者の生活の安心の確保への取組として、地域の日常的な支え合い活動の体制づくりを行う」ため「介護基盤緊急整備等臨時特例基金に地域支え合い体制づくり事業分として200億円の積み増し」されたものです(2011年1月21日全国厚生労働関係部局長会議老健局関係資料より)。
5月2日に成立した2011(平成23)年度第一次補正予算では、被災地各県(青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、千葉県、新潟県、長野県)の「応急仮設住宅地域における高齢者等のサポート拠点等の設置」(2011年4月27日、厚生労働省老健局振興課事務連絡)のために、「地域支え合い体制づくり事業」分として70億2087万円が「積み増し」されました。
被災者の利用限度額超過に
5月20日の委員会では、古屋範子委員(公明党)が「被災地で介護施設に緊急避難した高齢者が、長期間ショートステイを利用したことになり、利用限度額を超えて高額の請求が来たというが、対応しないのか」という質問に、「2011年度の第一次補正予算で70億円を積み増した『地域支え合い体制づくり事業』があり、避難者の長期化したショートステイにも、3月11日の震災が起こった日にさかのぼって、この事業を適用する」(細川律夫厚生労働大臣)という答弁がありました。
元気高齢者の「ボランティアポイント制度」に
「地域支え合い体制づくり事業」はまた、「介護支援ボランティアポイント制度」にも使われます。「介護支援ボランティアポイント制度」は2005年改正で新設された介護予防事業(市区町村の地域支援事業)の一次予防施策(旧・一般高齢者施策)として実施され、“元気な高齢者”が介護保険施設(市区町村が指定)などで「ボランティア」をしてポイントを貯め、一定のポイントになると現金を支給することで、個別の介護保険料の負担を軽減するという制度です。2007年、東京都稲城市が初めて実施しました。
5月25日の委員会では、松本純委員(自民党)が「横浜市は2009年度から『介護支援ボランティアポイント制度』を導入し、登録者は4600人を超え、受け入れ施設も250施設まで増えた。この制度は、元気な高齢者の力を介護分野で生かすことができるし、互助、共助の仕組みとして注目される。第5期介護保険料も上昇する予想のなか、普及を促進して、介護保険料の軽減を目指すべきではないか」と質問し、「取り組みを進めるよう、全国課長会議などを通じて周知している」(宮島俊彦厚生労働省老健局長)との答弁がありました。
仮設住宅のIT活用に
20日に続いて、古屋範子委員(公明党)からは「全国介護支援協議会から、被災地の仮設住宅向け見守りシステムの提案をもらっている。人材確保が難しい場合、ITを活用した医療センターからのアドバイス、買い物サービスなどを導入してはどうか」と質問があり、「サポート拠点の運用のための携帯情報の端末や緊急通報の装置など、地域ごとにどういうIT機器が必要か協議していただき、ぜひ使っていただきたい」(細川律夫厚生労働大臣)と答弁がありました。
ちなみに、改正案で地域密着型サービス(市区町村指定)として新設が提案されている定期巡回・随時対応型訪問介護看護でも、「随時対応」にテレビ電話など“IT活用”をすることが検討されています。
被災地の「ケアラー支援」に
27日の委員会では、再び古屋範子委員(公明党)から「被災地のサポート拠点に介護者、ケアラー支援の機能として、ケアラー専門員などを置くなど支援していくべきではないか」という質問があり、「『地域支え合い体制づくり事業』を活用して、被災地のケアラーのみなさんのサポート体制、家族介護者のネットワークづくりなどを地域の実情に応じて進めていきたい」(細川律夫厚生労働大臣)という答弁がありました。
2010年6月に発足した「ケアラー連盟」では、“ケアラー”を「家族など無償の介護者」と定義し、介護者支援法の立法化などに向けた活動をしています。
被災地以外の「家族介護者支援」に
また、柿澤未途委員(みんなの党)は「介護家族への支援が不十分なため、介護保険の外側で『お泊まりデイサービス』が全国2000か所に広がっている。介護家族への直接的な支援が必要ではないか」と質問し、「家族介護者の介護負担は重くなっている。2010年度補正予算では、家族介護者のネットワークづくりや支援に取り組むため『地域支え合い体制づくり事業』を設けている。そのほか、家族介護教室の開催、交流促進などの取り組みを進める」(宮島俊彦厚生労働省老健局長)という答弁がありました。
「市町村の実情に応じたサービス」の基盤づくりにも
被災地支援など「災害介護」への対応や「介護支援ボランティアポイント制度」などへのキャッシュバックがあり、“ケアラー”や家族介護者への支援にも使われるという盛りだくさんの「地域支え合い体制づくり事業」です。
しかし、改正案で別に提案されている「介護予防・日常生活支援総合事業」は、(1)介護予防サービス(要支援認定者へのサービス)と(2)介護認定を受けていない高齢者への介護予防事業、(3)「配食、見守りなど市町村の実情に応じたサービス」をまとめて提供するとしています。
市民福祉情報オフィス・ハスカップがまとめた「介護保険法改正Q&A」では、厚生労働省は(2)と(3)の市区町村事業と介護予防サービスが重なる場合、サービスは利用できないと説明しています。「地域支え合い体制づくり事業」には、(3)の担い手となる「生活・介護支援サポーター養成事業」も含まれます。「地域支え合い体制づくり事業」は、要支援認定者を介護予防サービスから排除するための事業ではないかという疑念も残ります。