「サービス付き高齢者住宅」の登場
現在、国会(衆議院)に内閣提出法律案(閣法)として出されている介護保険法改正案「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」の概要には、(1)医療と介護の連携強化等、(2)介護人材の確保と質の向上、(3)高齢者の住まいの整備等、(4)認知症対策の推進、(5)保険者による主体的な取組の推進、(6)保険料の上昇の緩和――の6項目がポイントとして示されています。
(3)高齢者の住まいの整備等には、「厚生労働省と国土交通省の連携によるサービス付き高齢者向け住宅の供給を促進(高齢者住まい法の改正)」とあります。高齢者住まい法(高齢者の居住の安定確保に関する法律)は2001年に成立した法律で、基本方針、都道府県高齢者居住安定確保計画、高齢者向け住宅の供給については、2009年から国土交通省と厚生労働省の「共管」(2つ以上の行政官庁の所管事項)になっています。
高齢者住まい法の改正案は2月8日に衆議院に提出され、4月22日に衆議院、同26日に参議院で可決されました。
今回は、この高齢者住まい法の改正から、今後の高齢者の「終の住みか」について考えてみます。
「賃貸住宅」から「サービス付き高齢者住宅」に
改正高齢者住まい法では、高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃、約9万戸)と高齢者専用賃貸住宅(高専賃、約4万戸)、高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃、約3万5千戸)の3種類の「賃貸住宅」が廃止され、有料老人ホームも含めて都道府県に登録する「サービス付き高齢者住宅」に変わることになりました。
「サービス付き高齢者住宅」は、床面積25平方メートル以上、洗面所付き、バリアフリーが住宅助条件で、安否確認、生活相談サービスを最低限提供するとされ、「『定期巡回随時対応サービス』等と組み合わせた仕組みの普及」を国土交通省・厚生労働省の「共管」で行うことが予定されています。
「定期巡回随時対応サービス」との組み合わせ
「定期巡回随時対応サービス」は、介護保険法改正案で地域密着型サービスに新設することを予定している「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」のことです。自宅で暮らす要介護認定者(要介護1~5)を対象に、ホームヘルパーによる「入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話」と看護師による「主治医が認めた療養上の世話又は必要な診療の補助」があわせて提供されると説明しています。
細目は省令や介護報酬で決まるため、“自宅”で利用可能なのか、「サービス付き高齢者住宅」など“自宅ではない在宅”が中心になるのかは、まだはっきりしていません。
「サービス付き高齢者住宅」は3万戸
国土交通省では「高齢者等居住安定化推進事業」(予算325億円)で、民間事業者、医療法人、社会福祉法人、NPO等に建築費・改修費などの直接補助を行い、約3万戸の「サービス付き高齢者住宅」の整備を当面の目標としています。しかし、介護保険法改正案がこのまま成立した場合、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は市区町村が指定する地域密着型サービスに位置づけられているため、整備目標すべての「サービス付き高齢者住宅」で提供されることにはなりません。
会計検査院は「高齢者住宅」と「随時対応」に厳しい指摘
一方、会計検査院は2009年、独立行政法人住宅金融支援機構がバリアフリー賃貸住宅建設のために実施した公的融資の96%(約417億円)が貸付条件に違反し、抽出調査では全体の5%しか高齢者が入居していなかったことを指摘しました(朝日新聞2009年9月30日付)。
また、介護保険に新設される予定の「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」に重なるサービスとして、すでに夜間ホームヘルプ・サービス(夜間対応型訪問介護)があります。こちらでも、会計検査院は2010年10月、「地域介護・福祉空間整備推進交付金及び地域介護・福祉空間整備交付金による夜間対応型訪問介護の実施状況について」で、オペレーションセンターによる“随時対応”のために通信機器などを整備した事業所の利用低調、休業などにより交付金約16億円がムダになっていると報告しています。
「サービス付き高齢者住宅」は利用されるのか、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」の“随時対応”で導入予定のテレビ電話は活用されるのかが懸念されます。
高齢者は「持ち家」に住み続けたい
4月28日、東京都福祉保健局は『2010(平成22)年度東京都福祉保健基礎調査「高齢者の生活実態調査結果の概要」』を公表しました。
これは、東京都内の在宅高齢者6000人を対象とする調査ですが、「約7割の人が現在の住宅にそのまま住み続けたい」と希望し、高専賃など高齢者向け住宅を知っているのは約2割、自宅以外の住まいに支出できる費用は10万円未満が過半数と報告されています。
日本では第二次世界大戦後の「持ち家政策」推進の結果、総人口の23%を占める高齢者の持ち家率は83.4%(全世帯は61.1%)と高い水準にあります(総務省『2008年住宅・土地統計調査』より)。そして、持ち家がある高齢者の約7割は「住み替え・改善は考えていない」、約2割が「リフォームなどを行い住み続ける」という意向を持っています(国土交通省住宅局『2008年住生活総合調査の調査結果』より)。
“重点化”に逃げていいのか?
有料老人ホームやケアハウスなど“自宅ではない在宅”のひとつとして「サービス付き高齢者住宅」は登場し、現在、高齢者住まい法改正案は成立し、介護保険法改正案は審議入り待ちとなっています。
しかし、介護が必要な高齢者でみると、特別養護老人ホームへの入居待機者は約42万人で、16万人分の緊急整備が進められていますが、単純計算では26万人の不足です。「サービス付き高齢者住宅」が登場しても、当面の整備予定は3万戸なので、施設サービスを希望しながら自宅に暮らす人は23万人になります。
介護報酬を検討する社会保障審議会介護給付費分科会(以下、分科会)では2月以降、「給付の重点化を図ること」と書かれた「2012年度介護報酬改定に向けたメモ」が毎回、資料として出されています。日本医師会や日本看護協会などの委員からは、すでに医療系サービスの介護報酬を増やすようにという要望が出ています。それと引き換えのように、要支援認定者やホームヘルプ・サービスの「生活援助」をカットしようという意見も出ています。
このままでは、介護保険は“自宅ではない在宅”や医療系サービスに“重点化”されていくかもしれません。しかし、東日本大震災で介護ニーズが増大することも明らかな今、 “重点化”に逃げない議論が必要なのではないでしょうか。