国会と審議会の関係
4月27日、2012年度の介護報酬改定について議論する社会保障審議会介護給付費分科会(以下、分科会)の第73回が開かれました。同月5日に国会(衆議院第177回常会)に提出された介護保険法改正案(閣法50番)が審議入りしないなかでの開催です。
分科会では「自由に意見を出してもらう」(大森彌座長)という議事のなかで、池田省三委員(龍谷大学教授)から「要支援1、2は介護保険から外すべき」であり「(利用者を)どこかで切るなら、自治体にまかせるべきだ」、武久洋三委員(一般社団法人日本慢性期医療協会会長)から「過保護はよくない。自助を高めないと制度が崩壊する」ので「重度化対応するなら、軽度は自治体対応でいいのでは」という発言がありました。池田委員からはさらに「予防は自己責任だ」「(利用者は)お金がないのではなく、使わないだけだ」という断定もありました。
なお武久委員は、第72回分科会でも「利用者本位というが、利用者の好き勝手にできるということでいいのか」という意見を出しています。
「尊厳」と「敬愛」からは遠く
2005年の改正で、介護保険法の第1条には、介護保険サービスを必要とする高齢者の「尊厳を保持」という言葉が追加されました。老人福祉法では基本的理念として「老人は、多年にわたり社会の進展に寄与してきた者として、かつ、豊富な知識と経験を有する者として敬愛されるとともに、生きがいを持てる健全で安らかな生活を保障されるものとする」とされています。
しかし、法律のもとに運営される審議会では、高齢者に対する「尊厳」や「敬愛」が不足しているのではないかと思われる場面に遭遇するのも現実です。
審議会は行政機関に答えるのが役割
審議会というのは国家行政組織法、内閣府設置法に「重要事項に関する調査審議、不服審査その他学識経験を有する者等の合議により処理することが適当な事務をつかさどらせるための合議制の機関」と定められています。
むずかしい定義ですね。「審議会等は行政機関の附属機関であるため、行政庁の諮問に対して答申するのみで、国民に対する執行的性格は持っていない。審議会等の委員は国家公務員であり、答申などの形態で、一行政機関としての意思を表明することとなっている」(国立国会図書館『レファレンス』2007年5月号「議会等・私的諮問機関の現状と論点」より)といいます。
読み解いてみると、介護保険制度でいえば、分科会(社会保障審議会)は厚生労働省(行政機関)の附属機関で、厚生労働省に意見を求められて(諮問)、答える(答申)けれど、法律的な権限はないということです。
国会は行政機関の法案を審議するのが役割
介護保険法改正案は、(1)社会保障審議会(介護保険部会、介護給付費分科会)の意見を聞いて、(2)厚生労働省が法案を作り、(3)法案が閣議で認められて(閣議決定)、(4)内閣が作った法案(閣法)として国会に提出され、(5)国民が選挙で選んだ国会議員が議論(審議)して成立する、という流れになります。前述のとおり、現時点では(4)まで進み、(5)がいつになるのかという状況にあります。
市民福祉情報オフィス・ハスカップは4月26日、これから介護保険法改正案について検討する衆議院厚生労働委員会、参議院厚生労働委員会の委員(国会議員)全員に、「介護保険法改正案についての要望書」を配りました。
介護保険法改正案に新設が盛り込まれている「介護予防・日常生活支援総合事業」では、介護認定を受けた要支援1、2の人たちを、市区町村の判断で、介護予防サービスから地域支援事業に移していいとされています。要望書では、「介護認定を受けた人がサービスを選んで利用する権利」を守ってほしいと訴えました。
冒頭で紹介した分科会委員の発言にある「要支援1、2は自治体にまかせるべきだ」「軽度は自治体対応でいい」というのは、この「介護予防・日常生活支援総合事業」の新設を指しています。
「財源が増やせないのに」「東日本大震災でそれどころではない」といった声も聞かれます。しかし、制度が約束した基本ルールを変えるという大きな変更をするのであれば、広く国民に信を問うべきものではないでしょうか。