介護保険法改正案
3月11日、介護保険法改正案(介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案)を今国会に提出することが閣議決定されました。
改正案を提出する理由は、「高齢者が可能な限り住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」にするために、(1)「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」など新サービスの創設、(2)保険料の上昇を抑えるための財政安定化基金の取り崩し、(3)介護福祉士等による「喀痰(かくたん)吸引」を可能とする――の3点とされています。
今回は、改正案の主な内容について紹介します。
(1)要支援1、2をサービスから除外?
今回の改正案では、「地域支援事業」に“介護予防・日常生活支援総合事業”を新設することになっています。前回の改正(2005年)では、介護認定を受けず、介護保険サービスを利用していない高齢者を対象とする“介護予防事業”が登場しました。これは「サービス」(給付)ではなく、市区町村の「地域支援事業」(事業)のひとつです。
「地域支援事業」は主に地域包括支援センターが実施していますが、“介護予防事業”のほかに、“包括的支援事業”として要支援1、2の利用者のケアプラン作成、“総合相談支援事業”“権利擁護事業”“包括的・継続的ケアマネジメント事業”、任意で実施する“家族介護支援事業”などさまざまな事業メニューがあります。
いつもながら法律案の文章は抽象的で複雑なため、国会質問や答弁を待たないと具体的なイメージがつかめません。しかし、厚生労働省の「介護保険法等の一部を改正する法律案(仮称)のポイント」には、市区町村の判断により、在宅の要支援1、2の認定者(居宅要支援被保険者)が介護予防サービス(予防給付)を利用するのか、新たな“介護予防・日常生活支援総合事業”(地域支援事業)を利用するのかを決めるとされています。
新事業を導入するかどうかは、私たちが住んでいる市区町村それぞれに任されることになっています。しかし、“介護予防・日常生活支援総合事業”が国会で認められると、介護保険サービスが必要であると介護認定(要支援認定・要介護認定)で認められた人が、介護保険サービス(介護予防サービス・介護サービス)を選んで利用できる、という制度の原則が崩れることになります。なお、新事業の具体的内容は、厚生労働省令で定めるとされています。
(2)医療(訪問看護)が主の新サービス
改正法案に盛り込まれた新サービスは“定期巡回・随時対応型訪問介護看護”と“複合型サービス”で、どちらも地域密着型サービス(市区町村が事業者を指定)とされています。
“定期巡回・随時対応型訪問介護看護”はこれまで、「24時間対応定期巡回・随時対応型サービス」と呼ばれていました。「24時間対応」がなくなり、「サービス」は「訪問介護看護」に変わりました。介護保険サービスの正式名称は熟語をいくつも並べたものが多く、利用者や一般市民には覚えにくいのも特徴です。今回は「訪問介護看護」という“まったく新しい”(「24時間地域巡回型訪問サービスのあり方研究会」報告書より)医療系サービスが登場しています。
利用できるのは在宅の要介護1~5の人(居宅要介護者)で、「定期的な巡回訪問」と「随時通報」により、訪問看護事業所と連携しながら、介護と看護を提供するとされています。また、“定期巡回・随時対応型訪問介護看護”事業者は、厚生労働省令にもとづき市区町村が公募し、指定するとされています。
“複合型サービス”もまた、在宅の要介護1~5の利用者が対象で、訪問看護と小規模多機能型居宅介護のふたつのサービスを最低限組み合わせ、厚生労働省令で定めるとされていますから、改正案が成立すれば、社会保障審議会介護給付費分科会(以下、分科会)に具体的内容が提案(諮問)されると思われます。
(3)保険料の上昇を抑える
都道府県ごとに積み立てられている財政安定化基金は、市区町村(保険者)の介護保険料収入が足りない場合に貸し付けられるものです。2008年度は全国1646保険者のうち57保険者が22億円を借りています。借りている保険者は全体の3.5%足らずなので、基金には2,752億円が積み立てられています。この基金を2012(平成24)年度に限って取り崩し、介護保険料の急激な上昇を抑えるために使うことが盛り込まれています。
(4)介護職員の「医療的ケア」を認める
今回の改正案と同時に社会福祉士及び介護福祉士法を改正し、「医師の指示」のもとに、「診療の補助」として、介護福祉士と“認定特定行為業務従事者”による「喀痰吸引等の実施」を認めることが予定されています。“認定特定行為業務従事者”とは、都道府県の研修課程を修了した介護職員とされています。
(5)「介護サービスの情報公表」は基本情報だけに
前回の改正では、利用者がサービスを選ぶことができるようにと「介護サービス情報の公表」制度が新設されました。サービス提供事業者は基本情報(職員体制、床面積など)と調査情報(マニュアルの有無など)を都道府県、または都道府県が設置する指定情報公表センターに報告することが義務づけられ、調査情報は調査員が訪問して事実かどうかを確認するという仕組みです。
今回の改正案では、事業者が報告した基本情報の公表のみに縮小され、事業者負担だった公表手数料が削除されることになっています。
公表方法がインターネットに限られているため、これまでも利用者がどのくらい利用できているかは不明でしたが、「選択に資する」仕組みはグレードアップするのではなく、情報が減ることになります。
以上が主な内容ですが、法律案というのはとてもわかりづらい文章です。また、気づいた点があれば随時、紹介していきます。なお、改正案が国会に提出されると、修正などを経て成立、あるいは廃案になります。
今年の通常国会(第177回国会)は6月22日まで開かれます。東日本大震災の特別立法の議論が優先されると思われますが、衆議院厚生労働委員会、参議院厚生労働委員会での審議に注目したいと思います。