介護報酬見直しの論点 その3
2月7日に開かれた第71回介護給付費分科会(以下、分科会)では、(1)利用限度額(区分支給限度基準額)についての調査結果、(2)介護認定の有効期間の見直し、(3)2012年度改定に向けて、がテーマになりました。
(3)については、分科会の終盤、大森彌座長(東大名誉教授)から、事務方(厚生労働省)と相談してまとめたという「2012年度介護報酬改定に向けたメモ」が追加配布され、これに沿って今後の議論を進めたいという説明がありました。
あらかじめ定められた方向性
「2012年度介護報酬改定に向けたメモ」(以下、メモ)はA4版1枚で、無記名です(知人から「怪文書みたいだけど、誰が書いたの?」と聞かれました)。内容は「2012年度同時改定は、医療・介護・予防・住まい・生活支援サービスを切れ目なく、有機的かつ一体的に提供する『地域包括ケアシステム』を実現」することを目的に、「基本的な視点」と「配慮すべき点」を並べています。
「地域包括ケアシステム」とは…
「基本的な視点」の最初に、「地域で介護を支える体制を構築すること(地域包括ケアシステムの基盤整備)」とあります。「地域包括ケアシステム」とは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が2010年3月にまとめた『地域包括ケア研究会報告書』(厚生労働省2009年度老人保健健康増進等事業 以下、報告書)にある「おおむね30分以内(中学校区)」に必要なサービス(医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスなど)を提供するという未来図です。第26回社会保障審議会介護保険部会(2010年6月21日 以下、部会)では田中滋・同研究会委員(慶應大学教授)からヒアリングが行われ、「介護保険制度の見直しに関する意見」に盛り込まれました。報告書は「24時間短時間巡回型在宅サービス」、部会の意見は「24時間定期巡回・随時対応サービス」の新設(地域密着型サービス)で、「短時間」が「定期」に変わりました。
「24時間サービス」とは…
三菱リサーチ&コンサルティング株式会社はまた、「24時間地域巡回型訪問サービスのあり方検討会」(厚生労働省2010年度老人保健健康増進等事業、堀田力座長)を設置し、第35回社会保障審議会介護保険部会(2010年10月28日)では「中間とりまとめ」についてヒアリングが行われました。
24時間サービスは、ホームヘルパーと訪問看護師が“連携”して、「単身」「重度」の人たちに対応するサービスとされています。部会では「軽度者」(要支援1~要介護2)へのサービス抑制、ホームヘルプ・サービスの生活援助のカットなど「給付抑制」とあわせて意見がまとめられました。これに対して、民主党厚生労働部門会議・介護保険制度改革ワーキングチームは「介護保険制度の見直しに関する提言」(2010年12月22日 以下、提言)で、「生活援助は継続」としました。しかし、この提言にも「24時間対応の定期巡回・随時対応型サービス、複合サービスなどの整備」が盛り込まれています。
介護保険法改正と介護報酬改定は同時進行
厚生労働省は2月22日、全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議を開催し、3月上旬に通常国会に提出予定の「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案(仮称)の概要」を公表しました。そのなかには、「要介護者等への包括的な支援(地域包括ケア)を推進」「単身・重度の要介護者等に対応できるよう、24時間対応の定期巡回・随時対応型サービスや複合型サービスを創設」「保険者の判断による予防給付と生活支援サービスの総合的な実施を可能とする」とあります。
介護給付費分科会メモの「配慮すべき点」の1番目には「給付の重点化を図ること」とあります。
今後、介護保険法改正案の国会議論と並行するように行われる介護報酬の見直しのなかで、「重度者への対応」(=「軽度者」への抑制)、「医療系サービスへの重点化」(=福祉系サービスの除外)などの論点を注意深く見守りたいと思います。