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和田行男の「婆さんとともに」

ふとしたこと術

 バリバリやっていた人ほど、それができなくなった時のショックは大きいのかもしれない。
 今年に入ってご相談にのった方のお母さんもその一人。
 働き盛りの夫を亡くした後、ひとりで家族を守り従業員を守るため、夫の残した会社を切り盛りしてきたバリバリのおかあちゃん。
 そのおかあちゃん、6年ほど前の70歳代半ばに「あれっ」と思うことが起こり始め、受診するとアルツハイマー型認知症の診断がついた。その頃から何に対しても意欲をなくし、1年前に脳梗塞を患ったことで一気にふさぎ込んでしまったそうだ。
 介護保険事業に関わってもらっているが改善されていないようである。

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 僕らはどういうわけか、ふとしたことで沈んだり、ふとしたことで浮き上がったりする。
 婆さん支援をしていくうえで、その「ふとしたこと」の二面に僕らがいることを忘れてはならない。
 つまり、僕ら次第で「沈んだり・浮いたりする」可能性があるということだ。
 今日は「浮き」の方の話である。
 僕は相談いただいたおかあちゃんに、うちの職員たちを関わらせてみたいと思った。それは、きっとうちの職員たちなら、浮かせられる「ふとしたこと術」をもっている。そう思い込んでいるからだ。
 すべての職員がそうではないかもしれないが、少なくともうちのリーダーたちなら浮かせていくために一生懸命知恵を絞って手立てを講じていくのではないかと思う。
 このおかあちゃんに限らず誰にだって「浮き沈み」があるだろうが、ふとしたことがきっかけで「沈み」から「浮き」に転じられたりする。それが薬物によることもある。
 それが薬物だとしても、その薬物に出会わせてくれた医師(ひと)がいて、その医師に出会った「ふとしたこと」があるはずだ。
 よく聞く「笑顔が見たくて」っていう言葉の向こう側には、必ず「ふとしたこと」があるはず。平たく言えば「きっかけ」かな。
 その「きっかけ」を偶然に委ねたのでは素人と同じこと。それを試みで導いていくことにこそ専門性があり、専門職とは「ふとしたこと」を自ら編み出す職業人ということだ。
 僕の生きてきた時代、映画でいえばチャップリン、サーカスで言えばピエロ、芝居でいえば藤山寛美なんか、その典型かな。
 特別なことでなく、極めて日常の誰でもが感じやすいことを題材にして、見る人の心の中をぐらぐら揺さぶり、閉じこもっていた感情を豊かに表出するきっかけをくれる。だから刑務所に収監されている囚人も囚人を監視する警視官も立場を超えて「フフッ」と笑み「ググッ」と涙ぐむのではないか。しかも、それが“生きる意欲”につながったりするのだ。
 僕らも、目の前に来られた人の塞ぎ込んだ心を解放するために、たくさんの「ふとしたこと術」を身につけていかねばである。
 しかも、それを身につける題材は、「特別な時間」や「特別な場所」や「特別なこと」である必要はなく、日常生活のあらゆる場面にゴロゴロ転がっていて、それに「ふと気づけるかどうか」である。そのことに気づける今日にしよう。


 追伸

 その術は、どうやったら身につきますか?
 この業界だけかどうかはわからないが、すぐに答えを聞きたがる。大事なことは「答えを知る」ことではなくて、「答えを導き出す」こと。
 まずは、同僚たちと話し合ってみてはどうか。
 どうやって話せばいいですか?
 また答えを聞きたがる。
 自分から聞けなければ、「自分から」は棄てないで、聞けないなら「書く」でもいい。自分の思いを書いて同僚に読んでもらうのもひとつの方法では。
 ただし・・・
 言おうが書こうが同僚や上司に振り向いてもらうには、できていようができていようまいが、一所懸命仕事に取り組む姿勢があることが大前提になる。
 よくあるのが、自分は一生懸命取り組むこともなく、同僚や上司や法人を批判し、部下がこうだから後輩がこうだからあの婆さんがこうだからこうなんだというように、他人のせいにする輩。そんなもんは論外である。合わせて、一生懸命取り組む姿勢をもつのが嫌だから何も言わないというのも論外だ。
 どんな術も「取り組む姿勢」の中で育まれるものであって、「取り組まない姿勢」からは産まれない。
 術をもたないのは素人と同じである。
 姿勢こそ最大・最高の術なのかもしれないね。


コメント


>すぐに答えを聞きたがる。

 今回のブログ、追伸の方に目が行ってしまいました。

 人を相手にする仕事では「これこそが正解!」なんてまずありませんね。(これはダメ!ってのはあるけど)

 自分自身で調べて『考える』癖を付けて欲しいです・・・。


投稿者: toto | 2014年02月12日 11:32

ワタシより下手っぴな人をみつけると、自分に自信がでてきたり

ワタシより不幸な人に出会うと、気持ちが楽になったり
痛くてのたうち回る人が目の前に現れたら、さすがに自分の不幸はさておき「だいじょうぶ?」って声かける気持ちが生まれたり。。
人を踏み台にして気持ちを上げる!決して自慢はできない自分の習性をヒントに
下手っぴな人、不幸のどん底にいる人、のたうち周る人などなど…気分の落ちてる入居者さんの前でよく演じていました。相手の意欲の矢印がわずかでも上向いたら、こっちのもんですよね?!


投稿者: ばーばら | 2014年02月14日 23:26

試みがうまくいった仲間に「どうやったの?何て声かけたの?」ってよく聞きたがるほうです!
成功者に聞くこと自体は、昔からあまり変わらない私の癖です。
が、聞き取りの中味は、180度変わった…という自信があります!

新人の頃は、うまくいった人の言葉や方法を真似よう・盗もう、それが技術だ、と思い込んで表面的なことだけしか見えていませんでした。今は

(その職員の)声かけのどこが、相手の気持ちに響いたのか
相手の気持ちの、どの部分に働きかけたのか
技術があるとすれば、そのあたりかなぁと思いますし
紐解きながら辿り着くのは、単純に相手の人の気持ちだったり、それを抜きに考えている自分だったりします。

こちらの思うようにするためか、相手の人が、自分の思うように動けるようにするためか

「どうやったの?何て声かけたの?」って今も昔もすぐ聞きたがる私の、根底にある職業魂はだいぶ変化したと思います!

もし仲間に「何て声かけしたの?」って自分が聞かれたら、言葉だけでなく、その言葉の背景を伝えたり、聞かれたその場で、なるべく一緒に考えるようにしています。


投稿者: すみこ | 2014年02月22日 10:34

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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