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和田行男の「婆さんとともに」

退職を想う

 「退職したいのですが・・・」
 ドキッとする言葉のひとつであるが、僕はその言葉を聞いた時点よりも「なんでや」って問いかけなおした後、どんな言葉がでてくるかにドキドキしている。

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 僕は三度結婚したが、きっと「一度結婚したら添い遂げるべし」とは全く思ってないから二度も離婚を選択した(のだろう)。
 仕事も、学校を卒業して念願の国鉄に入ることができたにもかかわらず退職し、それから26年の間に三度退職して四社目が今所属している会社である。
 それも「雇ってもらったら何が何でも定年まで」なんて思っていないから、選択肢ができたことでその時点でベターな選択をしてきた結果だ。
 つまり退職や離婚など「退く・離れる」というのは、選択肢の結果であって、選択肢がなければ「継続」していた(ことだろう)。
 国鉄だった民営化されていなければ、どんなに嫌なことがあったとしても辞める選択はなかったと断言できる。それほどの想いで入ったところだったが、相手が民営化して国鉄を止める以上、僕に「残る」選択肢はなかった。
 よく考えればわかることだが、「嫌なことがない」「自分の思うようになる」なんて「ない」と考える方が自然であり、どこで仕事をしようが、その意味では「どこも同じ」であると考える方が自然である。
 僕の場合は、「嫌」だから退いたり離れたわけではなく、よりよい自分の人生のために、他人にしわ寄せを強いながらも自ら選択した結果なのだ。
 僕自身がそう考えていることもあり、「退職したい」という言葉は「ある」ことが前提だから、その言葉自体にドキッとすることはない。でも、退職の理由を聞くのはドキドキである。
 退職の理由は大きくは「目指すべき選択肢ができた・選択せざるを得ない状況ができた」「ここが嫌」「体調」の三つではないかと思えるほど、今まで接してきた人たちの退職理由はほぼこの三つに当てはまる。
 もちろん、「ここが嫌」から選択肢が生まれることもある。でもそれは「きっかけ」であったとしても、目指すべき選択肢ができたということだ。

 ひとつめ、「体調が悪いから退職したい」と聞くと、何かしてやれないかと思うのに何もしてやれないため悩ましくなる。これは、本人だけではなく「家族の体調不良等」も同様だ。ただ「復帰を待つ」ことはできるので、その言葉は出せる。

 ふたつめの「ここが嫌」に対しては冷静になる。
 自分の都合のいいようにいかないことで嫌になっていたらひと言ふたこと言いたくなる。
 会社の側に課題があると感じたら、改善するように働きかけたくなるし、本人には「時間をください」とお願いしたくなる。
 また誤解があれば解きたくなるし、目指すべき方向が違っていれば退職した方が良いと応援したくなる時もある。
 人間関係で嫌になっているとしたら「お互い」の視点から話し、お互いに良くしていけるチームづくりを一緒にしないかと誘いたくなる。

 逆に嬉しくなるのは「他に・・」が退職理由の時だ。
 「大逆転の痴呆ケアを読んで、もう一度学校の教師の仕事に挑戦したいので退職します」
 「入居者と向き合うこの仕事について、自分自身と向き合えていない自分に気づかされ、もう一度勉強し直してみたくなりましたので退職します」
 「全く違う業界ですが、元々やってみたかった仕事に就けるチャンスが巡ってきたんで退職します」
 「結婚することを決めてお付き合いをしていた彼との間に子どもができちゃって・・・だから退職します」
 「最期は親の介護を自分がしたいと思うようになりました。今なら果たせそうなので退職します」
 どんなことでも、どんなことがきっかけでも、その時点で自分が目指すべき道が明確になり「退職します」って言葉を聞くと嬉しくなる。
 共に仕事をする連中と出会って、利用者・入居者と出会って、この仕事と出会って「次の自分の歩む道がみえた」ってステキなことだし、それを応援することはあっても引きとめることはしないし、勘ぐることもしたくない。
 もちろん残された職員たちはきつくなるが、きつくなる職員も一緒に「よかったね」って言ってやれたら尚ステキだなと思うし、個人的には時間とお金に余裕があればご馳走でお祝いしたくなる。

 僕らはよく「離職率」とか「定着率」で「退職者が多いかどうか」を問われることがあるが、大切なことは「ステキな退職を応援できる事業環境にする」「体調を崩しにくい事業環境にする」ことではないだろうか。
 同じ介護業界にありながら「辞めさせてもらえないので、そちらに移るのは断念します」という就職希望者の声を聞いてきたが、「やりたいことが見つかって良かったね。応援するよ」って言い合える業界にしたいし、「この業界に残ってくれるのならOK」って言い合える業界にしたいものだ。
 合わせて、同じ介護業界にあって同じ介護職にあって、事業間の給与格差で、「本当はグループホームで仕事をしていきたのですが、結婚して子どもができて・・・やむを得ず施設に転職します」はなくしたい。

 同じ制度上の事業間で給与(待遇)格差が出ていて、そのことでやりたいことをあきらめさせる仕組みには、どうしても納得がいかない。おかしい!
 それが退職理由のときは、仕組みや実態を理解しているだけに「しょうがない」と本人には言いつつも、仕組みに対しては腹が立って腹が立って武者ぶるいを起こす。
 次期介護報酬の改定作業はすでに動き出している。文句や愚痴を言う前に関心を寄せること・自分なりに検証するからはじめよう。

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 夢中って背中がステキやね

コメント


 居宅の管理者をしています。4人の事業所なのに7月思い込みの強い一人の職員の一言で一人がうつ病になってしまいました。いろいろありましたが思い込みの強い職員が今月いっぱいで退職します。そういう私も3月に、同じ目に合い私もうつになり今も薬を飲んでいます。それなのに休職中の職員の代わりの訪問、対応を日々しています。辞める職員は何の責任もなく、悪気もなく・・人を傷つけたことに全く反省もなく。忙しくなればなるほど「私の時間を返せ!」と怒鳴りたくなりますが・・あたり場所のない日々です。
責任は自分の力のなさなのか、人の言うことを素直に聞けず、上司への批判は当たり前、わがまま放題、4年も一緒に仕事してきた仲間を簡単に裏切れる彼女の性格に憤りと悔しさ。ご利用者に喜んでいただけるような仕事をただひたすらしていきたい。早くこの状況を切り抜けたい思いでいっぱいです。今のこの思いをどう消化し次に生かしていけばよいのでしょうか?


投稿者: M.T | 2013年09月10日 21:59

日々
利用者・家族・職員の思い
上司・組織の流れに翻弄され疲労困憊です
先月のブログで和田さんの言う「ズレ」なるほど納得です。
それぞれの立場の違い・思いの違い、すり合わせ修正して行くことが大切なんだと。
理解したつもりでも
あれこれありすぎて消化できないでいるのも確かです。
組織のルールとの「ズレ」に気づいてくれて、職員が次なる目的に向かって「退職」を選んだのなら後が大変になることが予想できても頑張れます
ズレを修正してゆく過程で心が折れてしまいそうになる。
余計なひと言を伝えてしまったり。
利用者の思いに寄り添う職員の姿に力をもらい、反省する日々です。
受け取ったバトンを次なるランナーに引き継ぐまでは倒れるわけにはいかない。
頑張っている仲間がいてくれてる
頑張ってくれている利用者・ご家族がいるから
こんな私でも立っていられる
一歩づつ歩めている
感謝です。


投稿者: なんくる | 2013年09月14日 04:09

ご連絡遅れましたが7月20日付けで退職いたしました。ホーム長や職員に恵まれていながら退職した理由…これと言って強い理由はありません。現在、9月1日オープンのグループホームでオープニングスタッフとして働いています。私の目的はそこで他の職員に`和田菌′を感染させることです(笑)…管理者も理解があり、徐々に感染させて行っております。さあどうなるか?楽しみで仕方がない状況です。

元なごみ方南 磯村でした


投稿者: いそいそ | 2013年09月14日 22:42

MTさんへ

同僚であろうが部下であろうが上司であろうが仲間であろうが、誰であろうが、おかしいと思ったら『おかしい』って言える勇気は『言う気』であり、言う気をもてるかどうかは、何を大事にするかで決まるような気がします。

つまり、MTさんにとって、その状況下でなお大事にしたいものが何かでしょうね。

また、手だての選択肢に『逃れる』をいれとくことも大事ですからね。
『向かう』ばかりでは息がきれて辛くなりますもんね。
しっかり息継ぎしないとね。


投稿者: わだゆきお | 2013年09月15日 14:31

あらま磯村さん

そうでしたか、グループホームの立ち上げにかかわるために辞めたんや。
しっかり真っ当なグループホームを目指してやりや。
どこでやろうが、国民に対する仕事は同じやからね。
また会おうぜ!


投稿者: わだゆきお | 2013年09月16日 18:08

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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