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和田行男の「婆さんとともに」

重い“癌言”と“火災”への想い

 大先輩が癌になった。
 そこで励ます会をやったのだが、何とも大笑いの会に。というのも癌を嘆くどころか、癌を笑い飛ばしているからである。
 第一線を退き、癌を患ってからのほうが、顔色も良くふくよかで「健康的」なのだから、人って面白い。
 後輩の僕が言うのも失礼だが、もともと頭が良く、誰に聞いても仕事は一流。考え方もやることも豪快な人である。
 癌のおかげで「俺は癌だから」という、人様をひれ伏させる「インロウ」をもったおかげで、先輩を第二戦に引き寄せようとする力を封じ込めることができ「わが・まま」に生きられている今を楽しんでいるかのようである。
 癌にはなっても癌患者にはなっていないのだ。

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 先輩いわく「おれは癌のツー」だと。
 つまり、ふたつの癌をもったのだが、「同じ癌でも、俺はおしっことうんこ。情けない」と、癌になったことよりも、癌の部位を嘆いていた。
 また、「俺は介護が必要になっても、この人たちには介護されたくない」と介護者を人選する強気で、この人たちとは、ひとりは妻、ひとりは先輩が尊敬する看護師(その場にいた)、ひとりは毎日のように通った飲み屋のママ(その場にいた)だと言うのだ。
 これも大笑いの話なのだが、その理由もまた「妻には絶対虐待されるだろう、これまでがこれまでだからな。この人(看護師)には、弄ばれるから嫌。この人(ママ)には、ほったらかされるから嫌だ。」と拒否介護者の人選以上にその理由で笑わせてくれたが、聞いた僕は笑いながらもマジで「そうやんな」と思った。
 癌になって初めて語る「まだ見ぬ介護者へ」の思いは、遺言ではないが癌言。
 先輩は、身近な人をあげて「嫌なこと」を端的に理路整然と語ってくれたが、「虐待されたくない」「弄ばされたくない」「ほったからされたくない」は先輩だけの願いではなく誰もに共通することだ。
 僕ら介護者は「虐待になっていないだろうか」「弄ぶことになっていないだろうか」「ほったらかしになっていないだろうか」と自問自答し続けなければいけないことだと改めて思った。話には大笑いできたが、話の中身には「笑ってる場合じゃない」と自己警告。
 思考は落ちなくても実践する力は落ちていくもので、「自分は大丈夫だ。」なんてあり得ないと考え、自分の実践を検証していくことだ。
 しかも、それを自分自身に課す(自己批判)だけでは弱く、「僕の実践に課題はないですか」と同僚や上司に検証してもらい、チームとして互いに検証し合う厳しさ(相互批判)がないと「井の中の蛙さんチーム」になりかねない。
 かく言う僕のチームも他人事ではない。先輩の“癌言”を重く受け止めてチームで共有していきたい。


 今週は、重く受け止めずにいられない一大事故(事件?)が起こった。長崎市におけるグループホーム火災である。
 原因は電気製品の不具合だと報道されているが、そうだとしたら電気製品なんてどこでも使っており、不具合を起こすことはどこでもあり得るだけに深刻な課題である。
 電気製品の不具合を、素人が100%事前に把握しきれるかと言えば、ショートして煙が出るまでわからないというのが実際で、どうやって不具合をキャッチして「出火」に至らないようにするか。その「知識と実際」について専門家を招いて身につけないと、コンセントの周りの埃を掃除しているだけでは防止にはならない。
 また、詳細はわからないが、電気製品に不具合が起こると、それをキャッチして通電を強制的に止める機器、スプリンクラーなども合わせた「補完機器」を、万が一に備えて設備していたかどうか気になる。
 万が一に備える設備費は出し渋りがちだし、建物の立地要件もあるだろうが、不適切な状況をそのままにした状態が続かないように事業者を導いていく行政マン達の気概も気になる。
 僕の知人は、ひとりは億の借金してグループホームを建て替えたし、ひとりは廃業した。みんな涙をのんでということだが、それもこれも行政マン達の気概と事業者の気概が「万が一の時に入居者を護る」という一点で一致したからだろう。
 長崎県では2件目の火災事故ということになるだけに、事業者にも行政にも、その気概が他府県以上に強くあってもおかしくない。
 行政も事業者を責めるだけでなく、自分たちに欠けていたことがなかったどうかの検証を是非していただきたいし、事業者である僕らも、僕の知人のように億の借金をしてでも・廃業してでも「火災から護る」という「気概」を点検していこうではないか。
 僕のところでも、こだわってガスコンロにしてきたが、新規開設分はもちろん、既設のところも「火から熱」へ転換している。
 でもこの度の火災は「火ではなく熱が原因」であり、そのことの重大さ(あまりにも一般的過ぎる=どこでもあり得るから)を受け止めている。策をたて先へすすんでいかねばならない。
 1999年、東京都初のグループホーム施設長を任されたときに、グループホームという仕組みを発展させるために、あとに続く人たちのために、絶対にあってはならないことは「食中毒」と「火災」だと考え、職員と一緒に徹底的に必要以上に管理してきた。今も僕の中の徹底管理2事項である。
 その気概を改めて自分に問いかけ、うちの連中に伝え、全国の人たちに伝え、四度とないように尽力していきたい。
 お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げ、お約束させていただきます。

合掌

和田行男(本名:加藤行男)


コメント


「思考は落ちなくても実践する力は落ちていくもので、…自分の実践を検証していくことが必要。しかもそれを自分自身に課すだけでは弱く、同僚や上司に検証してもらい、チームとして互いに検証しあう厳しさがないと井の中の蛙チームになりかねない」今までの私の中の「和田語録」の中で一番気になりました。今までも似たようなことは何度もおっしゃっておられたとは思いますが、今この時期私には一番大切なことのように思われました。今、新規にデイサービスを始めようとしている若い夫婦にアドバイスをさせていただいておりますが、こんなチームを目指していこうと思います。思考だけ(頭でっかち)で運営しないで、「ふつう」に生きることを支援できる心を持ったチームになりたいと思います。明日は新事業の事前勉強会です。さっそくこの「和田語録」をもとに若い人たちと話し合ってみたいと思います。ありがとうございます。


投稿者: 花蓮 | 2013年02月13日 08:43

癌と聞いちゃー黙ってられませんね(笑)

なんたって乳がん患者ですから。32で乳がんそりゃ結構きついですよ。でもまだ「介護される」なんて何にも考えてないなぁ。

転移してその可能性はなきにしもあらず。
標準治療からしっかり外れてるので転移の可能性は標準の人よりは高いかななんて。
家族に相談もなしで手術日程まできめちゃったし。

シングルママだから仕事できないような体になってしまったら生きていけない。何とでもなったのだろうけど、私はこの仕事を「選んで」生きている。

これからもそうしていきたい。

たまに「死」を考えたりもするけど、いつか誰かは迎えるもの。
そこに向かってどこまで笑って過ごせるか、最後に笑ったもん勝ちです。

と、ふとたまに思ったりもするのです。


投稿者: 細野 | 2013年02月13日 22:22

細野へ

寒いねぇ。ハハハ


投稿者: わだゆきお | 2013年02月15日 11:42

細野へ

いくら今が寒くても、もうすぐ勝手に春はくるからなぁ。ハハハ。


投稿者: わだゆきお | 2013年02月15日 11:45

「介護されたくない介護者」「癌になっても癌患者にならない」
末期癌の入居者さんがいます。告知はされていません。

最期の日、最期の時間を迎えるのことだけ考え、その方と向かい合っていました。
和田さんのブログとコメントを読んで、その考えのベクトルが動き始めました。


投稿者: わたる | 2013年02月16日 22:39

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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