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和田行男の「婆さんとともに」

オーバーヒート

 友だち林田君はバイクやクルマが大好き。しかも好きになるクルマは旧車ばかり。
 この夏、御覧のように情けない顔をした写メ付きメールが届いたが、好きで買ったクルマ「ニッサンサニー・トラック=通称:サニトラ」がオーバーヒートで立ち往生したというのだ。ハハハ。

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 オーバーヒートという言葉すら耳にしたことがない人が増えているのではないかと思うが、簡単に言えば「何らかの原因により高温になったエンジンを冷やすことができなくなりエンジンの能力がダウンした状態」で、その原因は、エンジンを冷やす装置(ラジエターなど)かエンジンを冷やす材料(エンジンオイルなど)である。
 1980年代以降の日本車では考えられないオーバーヒートだが、要するにエンジンにとって環境不適応が起こっているということで、不適応の原因は「乗り手」にあり「メンテナンス不足=ほったらかし」である。行きつく先は「エンジンの焼きつき」で再起不能状態となる。
 空冷エンジン(これも知らない人が圧倒的かな)の場合は、エンジンを冷やす装置がなく「風」と「オイル」で冷却するため「夏はしょうがない」と言えなくもないが、常に温度計を見ながらエンジンを休ませ・休ませ走っていれば、オーバーヒートには至らない。
 僕が乗っていたトヨタパブリカ(昭和43年式 空冷エンジン800cc 平成3年~20年まで所持)だと箱根を越えるときや高速道路を走る時は何度も休憩をとりボンネットを開けながらの「大名ドライブ」で対応していたし、グランドワゴニアというアメリカ車は水冷エンジンだったが「冷却用の強制ファン」を上乗せで取り付けてオーバーヒート対策をしていたし、ミニというイギリス車は冷却用のファン(扇風機のようなもの)の羽枚数を増やして対応していた。
 こうした対応は、車に環境を適応させるか、車を環境に適応させるかであり、乗り手である人がする=支援するということに他ならない。あわせて、その世界にはその世界の専門職・プロがいて、対価に合わせて、助言をくれたり手を下してくれたりするのだ。
 前に書いたが、何事も「過用:使いすぎない」「誤用:間違った使い方をしない」「廃用:使えるのに使わないとダメになる」で、人もクルマも「人様との間の環境不適応で壊れる」ということだ。
 つまり、不適応にならないように手を尽くすことが「乗り手」に求められるということで、婆さん支援も同じだということになる。
 きっと林田君も、僕と同じような視点で婆さんの「生きること支援」を突き詰めているだけに、オーバーヒートした時は「クルマに情けない思いを持った」のではなく「自分が情けなくて仕方がなかった」のではないか。それは「オーバーヒートしたクルマ」ではなく「オーバーヒートさせてしまった自分」への悔しさであり情けなさである。(クルマに責任をなすりつけている人の方が圧倒的に多いが…)
 今また別の原因でサニトラちゃんは入院中のようだ。新車しか乗らない人や新しいクルマにしか乗らない人にはわからないが、30年も40年も前の車を買って乗ると、新車から乗り継いできた何人いるかわからない自分以前のドライバーが、どんな風にそのクルマに接してきたか(乗ってきたか)がよく伺える。先を見据えて予防策をとり適時手立てをとっていたクルマは年数が経っていても全然違うからだ。これとて婆さん支援と同じである。
 僕のボスが「履歴書の一番目に書かれる法人の重みを噛みしめよう」と新卒者を迎え入れる職員に語ったが、それとて同じである。
 情けないオーバーヒートから、たくさんのことが「み得る」ものだ。ありがたき林田さんちのサニトラである。永生きを!!!


コメント


車の故障からも、婆さん支援のヒントを掴むとはさすが和田さんですね。でも、なぜか一番心にストンと落ちました。支援のヒントって身近にあるんですね。婆さんたちにとっていいメンテナンスが行える支援者になりたいです。


投稿者: 花連 | 2012年10月16日 11:35

お久しぶりです。
サニトラ君では無いですが…
私もオーバーヒートかな?(苦笑)
事業所廃止に伴い、今日、私も今月末で退職する事が決まりました。
ご利用されていた利用者様は、他の事業所へ頭を下げて移行して頂きました。
認知症の進行している利用者様達が、ようやく色々と慣れて笑顔が増え、活発になられていた時でしたので…
老々介護の奥様から「(話を聞いて)泣いたわ!!
この歳になって、こんな泣かされるとは思わへんかった。お父ちゃんがイキイキと元気になって来てたのに!」と訴えられました。
他にもそれぞれの家族様やケアマネ・ご本人様から…
嘆かれました。
何もできない自分が情けなく、悔しいです。


投稿者: moto | 2012年10月16日 18:09

motoさんとご利用者の方々は、一緒に素敵な時間を過ごされたと思います。

自分には差し伸べる手があるのに、伸ばしても届かない、何にも出来ない時は苦しいし、悔しいです。
私は今、老人ホームに勤務してます。
食事や入浴介助、掃除など、お話できる機会はあります。ベテラン職員から「話す時間がもったい。」と、入居者さんとお話している時に注意を受けました。その入居者さんはうつ病を患ってます。
薬や吸入の為のチューブを投げて渡すベテラン職員がいます。
ベテランも新人もあるもんか!と、虎視眈々ともの申す機会を伺ってます。


投稿者: わたる | 2012年10月17日 15:09

情けないという気持ちが また 活力の基になること祈っています。毎日 凹んでばかりの私が言える事ではありませんが


投稿者: マメ | 2012年10月17日 21:12

和田先生!御無沙汰しております。いつも和田先生のブログ読んでヤル気活気頂いてます。ブログへのコメントできなくてすいません。
私ごとなんですが、和田先生にチョットお聞きしたいことがあります。私自身も今、グループホームで働いてますが、今度地域のお年寄りに認知症の予防についてお話しやなあかんのです。予防って一言で言うてもたくさんあると思うのですが、和田先生ならどんな事を予防としてお話ししますか?参考までにと思いまして…もし良かったらお返事下さい


投稿者: つくし | 2012年10月18日 15:13

わたるさん。
マメさん。
いつも、ありがとうございますm(__)m


投稿者: moto | 2012年10月19日 09:53

つくしさんへ

お題をいただきましたので、次回かその次にお応えしますね。お待ちを。


投稿者: わだゆきお | 2012年10月20日 00:37

以前にコメントさせていただきました、グループホームの公募に応募し、なんとか選定されたようです。ヒアリングでの熱い思いが通じたようでとても嬉しいです。福祉元年と言われる年に生まれた僕、もうすぐオーバーヒートしそうです。でも、せっかく掴んだチャンスですので、ポンコツでも全力で走ります。何度もバーンアウトしていますが、オーバーヒートするまで走ります。その時は是非冷まして頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。


投稿者: 稲毛のマウンテン | 2012年10月20日 09:05

ありがとうございます。待ち通しく待たせて頂きます(*^^*)


投稿者: つくし | 2012年10月22日 15:36

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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