応え答え
彼が僕にこう切り出した。
「和田さん、僕は訪問介護の仕事をしているのですが、僕が訪問している利用者で和田さんの大ファンがいるんです」
「ハハハ、ありがたいね。どんな人なんや」
「ご夫婦とも今は高齢ですが、若いころから障がいのある方なんです」
その方のことを聞くと、夫婦のうち一人は、お話はできるがガンの末期ターミナル状態で、もう一人は話ができない人とのこと。
ここまではよくある話なのだが、本題はここからである。
「実は…」
「どないしたんや」って問うと、バツの悪そうな顔をしてボソボソ話しだした。
その利用者からいつも「いつ和田さんに会うんだい」って聞かれるようで、そのたびに、あーでもないこーでもないと答えていたようだ。
ところがある時、いよいよ話の流れで勢い余って「今度和田さんに来てもらおうか」と話してしまったというのだ。
もちろんご夫婦は喜ばれ、期待をもつ言葉も聞かれたようである。
ところが彼は、それを和田に直談判してくるわけでもなく、間接的に届けることもなく、一切行動しないで放っておいたようだ。
でも悪い奴ではなく「申し訳ないな」とは思っていたのだろう。研修会の懇親会で僕を見かけた、酒の勢いにのっかって思い切ってこの話をしてくれたというわけだ。
「そら、あかんわ。すぐに会いに行こう。お前がウソつきになってしまう。しかも、ターミナルということなら時間との勝負やろ」
ということで、すぐに調整して、いきなりの訪問だったが翌日にお宅を訪ねることにした。
言うまでもなく大変喜んでくれたが、実際は「ターミナル」とはほど遠い状態で、二人とも電動車イスに乗っかって起きていた。
まあ、聞いていた状態とは違い、結果的には急ぐこともなかったということになるが、彼もご夫婦もスッキリしたようである。
ここまでなら「いい話でしたシャンシャン」で終いであるが、実は本当の本題はここからである。
「和田さん、周りから何でそこまで応えようとするのかって聞かれ、考えても考えても、それに答えられなかったんです」
応えようとはするのだが、応えようとするのはなぜかに答えが出せないというのだ。
彼はまだ二十歳である。この仕事について丸2年を経過したばかり、無理からぬことかもしれない。
では、56歳経験27年の僕はなぜ応えたか。
それは、僕らの仕事の基本は「応えることにある」と考えているからである。
僕にとってすべてのことが「応えること先にありき」で、その上で応えるべきか・応えないべきか、応えられるか・応えられないかを考え、その答えを出す。
その上で応えると決めたら、どうしたら応えられるかその手立てを考え、可能なら実行するし不可能なら実行できない。そこまで答えを出して、はじめて応えたということだ。
つまり、応えられないことも含めて「そのわけ」を導き出すことが基本だと思っているからである。
今回は結果的に「会いに行く」という答えを出して応えたが、「会いに行かない」という答えを出すことも応えるということだ。
記念に撮らせてもらった写真を掲載できなくて(きちんと承諾を得ていないから)残念だが、身体が不自由でも豊かに生きている人からは、ホントの豊かさとは何かをいつも感じさせられる。自問している連中からいろんなことを感じさせられる。だから少し無理してでも応えて答えを出そうとしてしまう。
しかも、応えるならできるだけ速やかがいい(速やかに応えられなくてもやもやする、応えずにもやもやさせることだらけなので)。
昨日の今日は、なんかとても清々しい気分である。
今しがた借金を取り立てに来た(?)銀行マンからも、「和田さん、何となくスッキリしていますね」なんて褒められたわ。ハハハ
コメント
応えたいことが出てきて、応えきれない時は、次に似たような事が出てきた時の為に勉強したり相談したりします。
時々、葛藤で頭と体がパンクして動きが止まります。しばらくしたら、また動き出してます。
何で動き出してるのか…考えてわかった事は、まだ答えが出てこないって事でした。和田さんは27年、私は何年かかるだろう。
まだまだ若いからっと、一旦、仮の答えを出して落ち着きます。
松山千春さんの歌「君を忘れない」の一節に「どうして生きているの?君は僕に尋ねたけど、こたえを急ぐことは無い〜やがてわかるから〜」を思い出しました。
今の私は「介護技術向上」が1つの応えである気がしてます。
また考え始めてました。
「応えることありき」は和田さんの真の姿だといつも感じています。僕もそうあるべきと毎日頑張っています。そして応えられるだけの信頼を勝ち得た者こそ介護の素晴らしさを実感できるのではないでしょうか。ケアマネ不要論の根底にある「何もできない何でも屋」なんて論争は無用だと思っています。又お会いできることを楽しみにしています。
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