風向き
介護スタッフとして、認知症の方と接し始めてから7か月が過ぎました。頭では自立支援をしなくてはいけないとわかっていながら、つい手を貸してしまうためか、利用者さんによっては、他のスタッフの前では自立して動作されているにもかかわらず、相手が私であるとわかると「できない」と言われます。どう対応してよいか悩んでいます。
研修会が終わった後、駆け寄ってきてくれた彼女からこのような質問をいただきましたが、これはよくいただく質問です。
これをよく考えると、「人をみて行動する」という誰もにある行動だということがわかります。「人の顔色をうかがう」なんていうようにも言いますね。
つまり婆さんの行動は「認知症だから」とか「特異」ではなく、どこにでもある、自分自身も行っているかもしれない「ふつうの行動」だととらえることが、まずは大切です。
その上で、逆に考えてみると「人(自分と他の職員)を見られている」ということであり、その見られ方からは「なめられている」と「圧力がない」という両面が見えてきます。
なめられているというのは、解釈として「自分がふがいないから」ということになりがちですが「圧力を感じていない」ということでもあり、婆さんにしてみたら「圧力を感じない人・楽な人」ということです。
あわせて、人は「人を見下す」という行動をとりますから、自分は他の職員より「見下されている」ということになりますが、それも圧力がないからこそであり、悪いことばかりではありません。
ということだとしたら、彼女はきっと「ひとのよい人」で、80年も90年も生きてきた人は、それを見抜くのでしょうね。
質問の現象は「ひとのよさ」の結果であり「あなたはいい人ね」って思ってもらっている証だと思います。
さて課題はここからです。
彼女が「単なるひと」ならこれでOKなのでしょうが、僕らの仕事に求められていることは「いいひとであれ」ではありません。
介護保険法の目的には「有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようにする」とありますから、それを推進することが僕らに課せられた仕事です。
そこから彼女の前にいる婆さんを考察すると、彼女が「いいひと」で留まっているばかりに「できる能力があるにもかかわらず、しなくて済む」状況になっているということがわかります。
この状況は彼女だけが思い悩むことではなく「これまでの介護」にはよくあることで、自分だけを追い込む必要はないでしょう。
ただ、彼女が勤めているグループホームの他の職員たちは、頭を使ってあの手この手を駆使し、介護保険法の目的に向かって尽力しているようですから、「今のままでよい」とは言えませんし、彼女もそこに自分のふがいなさ(他の職員との差)を感じているのでしょう。
彼女の課題は「ひと」にあるのではなく「専門性」にあるのですが、就業7か月の専門職ですから、そのことに気づきそれを課題だと感じているだけで、まずは合格でしょう。
それよりも気になるのは、彼女のグループホームで「風を吹かせるのは誰?」なのかです。
なぜなら婆さんは、主体性をもって動いているばかりとは限らず、圧力を感じて動かざるを得ないから動いている面もあると考えると、この解決策を職員一人ひとりに委ねるのは得策ではありません。
つまり「職員から圧力を感じるから動く」のではなく「ここはこういうところだから動く」にすることが大事なのです。皆さんの生活だって基本はそうなっていることでしょう。
僕が施設長の時は、僕がボスになりきって「ここはこういうところ=自分のことは自分でする・互いに助け合うところ」の「風」を吹かせまくりました。国民の中に吹いている「風」です(これまでの介護に吹いていた風は「できることもしてあげる・してくれる」でしたが…)。
グループホーム(コミュニティ)の中にどんな「風」が吹いているか、その「風」は「婆さんの生きること支援」にとってはとても重要で、風を吹かせられるのはボスでしかありません。
彼女の悩みが議論の入り口で、彼女に課題があるように思われがちですが、実はコミュニティに課題があり、その解決の糸口はコミュニティに吹く「風」にあり、風の吹き出し口が重要なカギを握るということです。
とても抽象的にいいましたが、要するにみんなで「自分の・自分たちの仕事とは何か」「なぜチームで取り組むのか」「僕らの仕事は・チームリーダーとは婆さんにとって何なのか」「グループホームとは」などについて語り合い、しっかり考察してみることです。
暑い夏には、オリンピックや高校野球など熱い闘いと熱い議論が似合いますよね。
熱いオリンピックの応援、お疲れさんでした。明日からゆっくり寝ましょう。
コメント
利用者さん 婆さま達が所属する コミュニティは ひとつの社会弱きを助け皆 利用者職員含め そんなホームにするのか お互いに助け合う雰囲気にもっていくのか、 苦情の多い方 優先するのか 勤務先のスタンスが 問われます。 私自身 間に立たされつつ、助け合いの心を持った方々は 密かに 応援しています。 ディサービスとグループホームの違いあれど 。 ディサービスでは すぐに認知入ってます。 で片付けてられてますが 自身の経験 感じた事大切にして下さい。
私も和田さんに質問された方と似たような悩みを持っています。
でもこれから先も続けていたい仕事なので(今は離れていますが)、悩みは早期発見早期解決に限ります。
悩みは無尽蔵ですが。
和田さんが出演されたNHK「プロフェッショナル」を観て、和田さんの逃げない、守りに入らない姿に、介護職に対する気持ちが上昇してます。
最近は和田さんの過去のブログの「専門性」「覚悟」という言葉が響いています。
和田さんの軸は曲がったり折れたりしないのでしょうか?
くそ(下品ですみません)暑い夏、あの婆さん、この爺さん、果てはその家族も職員も、体調はどうか、熱中症に気をつけようと毎日何度も会話しています。
私は相変わらずスリリングな日々を過ごしています。
知り合いが嘆いて言いました。
以前は皆(チームの職員のこと)ボスの言うことを聞いていた。ボスが退職してから皆言うことをきかないと。知り合いに聞きました。「なんで前は言うことをきいて今は聞かないの?」 知り合いは、ボスがこわかったからと言いました。今は知り合いがボスです。「あんた、どんなグループホームにしたいの。どんなボスになりたいの。」 知り合いは考え考え語り、怖いからやる チームは嫌とのこと。
新人ボスが、専門性の風を吹かせることができるようバックアップしていきたい。
くそ(度々すみません)暑い中、久々に自分の時間が取れたので一日ぶらぶらしてきました。モーニングして好きな物を見て(桃山江戸の文化)、ランチし、マリーアントワネットの頃のレプリカのかつらをかぶり、お茶をし。
自分で自分の好きなことができるということは、本当に幸せです。
議論できるって良いですね。
ボスになりぶれない信念を貫き、議論する。本当に大事なことであり、重要なことであるのは理解しているし、頑張っているけれどなかなかできない事です、私には。
和田さんは初めからそのスタンスを貫き全力でこの仕事に邁進していらっしゃる。尊敬し憧れです。
私は息切れしています。自分を鍛えないとと考えています。
この年で(66歳)まだ頑張ろうと思えるのも和田さんはじめ介護の世界でいろいろ発信してくれる方々のお蔭と思います。感謝します。
お体ご自愛ください。
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