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和田行男の「婆さんとともに」

異様

 なに!和田さん 身体拘束! 虐待!!!
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 これは、僕のちびっこが入院した病室のベッドである。
 ちびっこのベッドで寝てしまった僕。知らない間に連れ合いに柵を上げられ写真を撮られたのだが、何とも言えない異様な光景だ(横になると太った和田の醜姿態がまるわかりやね。いややわ)。
 ちびっこがベッドから転落しないように・柵を乗り越えて落っこちないようにつけられている安全策・安全柵。アルミ製で軽く、上下昇降する可動柵であった。
 これを目にしたときに思い返したのは、僕がこの仕事に就いたばかりの頃、20年くらい前、ある特別養護老人ホームに研修に行ったときに見たベッドとその中に座っていた婆さんのことだ。当時の柵は、鉄格子。
 ちびっこの脳力・能力ではこの高さ(約70センチ)には対応できないということなのだろうが、婆さんに対しても同じ理屈で策として柵がつけられていた。
 僕の出会った婆さんはそれだけではなく、職員さんに「お話をしても大丈夫ですか」と聞いたときに「気をつけてくださいね」と言われたことを思えば「危害を加えるから閉じ込めておく」という理由もあったのだろう。まるで動物園の猛獣扱いである。
 高くて危険ならば、どうして低いベッドにしないの?
 素朴な疑問を病院にもったが、残念ながら聞けなかった。想像するに、看護師など職員側が処置しにくいからかで、病の子どもにとって絶対に必要な「高さ」ではないはず。
 乳児の場合、年の差のない小さなお兄ちゃんがいると「何をされるかわからない」といった脅威が常にあるため「寝かせる高さを変えたり囲いをつけて守る」という理屈から赤ちゃんベッドを使ったりする。それは大人が常にちびっこ達の傍にいられない状況を考えると「仕方がない」と思える。だから聞かなかったのかもしれない。
 その理屈は婆さんにも通じてよいと僕は思う。だから自分のところでも施設に鍵をかけて閉じ込めることをする。

 大事なことは何か。
 柵がつけられたベッドに人が寝ている光景を見て「異様」と思えるかどうかではないか。異様だと思えるからこそ「異様じゃないようにしよう」と思えるのであって、そう思うからこそ行動を起こそうとし、きっと脳は「快」を求めフル回転することだろう。
 異様とは辞書によると「いよう:ようすが普通でないさま」「ことざま:ふつうとは異なったさま」「ことよう:普通とちがっていること」とある。
 人が人を封じ込めることに異様だと感じるのは、閉じ込められないのが「普通」であることを「ものさし」にして「普通じゃない」と思うということであり、それだからこそ施設に鍵をかけて人を閉じ込めることは、職員配置など社会の到達点としては仕方がないことだとしても「可能な限り最小限にする」ために尽力するのだ。
 例でいえば、24時間一日中鍵をかけて婆さんたちを閉じ込めるのではなく、職員が一人になる夜間の時間帯しか鍵をかけないようにしているということだ。
 まさに災害地で生きる人たちにも、それを支援する人たちにも通じることだと思う。今回の災害や事故に対して、政治家にも「異様」を本気で感じて打てる手立てを速やかに講じてもらいたいし、感じても行動できないとしたら「無能か怠慢か限界か」であり、その評価を己でするか他人にしてもらうべきだ。
 それは僕らにも当てはまることで、常に婆さんを取り巻く環境に「異様」が起こっていないか自己監視し、その「異様の原因」は「無能か怠慢か限界か」を見極める自浄力が専門職には欠かせないということでもある。
 異様を感じ取れる普通を忘れないように。


コメント


和田さん、お久しぶりです。
懐かしいベッドの写真をありがとうございました。

思わず、私も20年前の特養を思い出しました。

震災関連で異様なことばかりですが?負けない心でがんばります・・・・


投稿者: 相談員 敦 | 2011年04月22日 09:18

施設研修に行った際、ご利用者の居室に監視用カメラがあり、居室内のトイレも写し出されていました。

別の施設研修では、外から施錠する二重扉だった部屋を見せてもらいました。
恐怖すら覚えました。

掲示物や飾り物が無い共通スペースは誤食やケガ予防が施されてました。

介護職に就いて改めて見ても、やっぱり怖い。
ご利用者はどんな気持ちで過ごされているのでしょう?


投稿者: わたる | 2012年08月07日 02:12

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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