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和田行男の「婆さんとともに」

うつぐみ

 夏の高校野球は沖縄県の代表校が優勝した。沖縄の仲間からは、熱狂している光景が伝わる熱い厚いメールが寄せられた。普天間問題など怒りに燃えていた沖縄の人たちのエネルギーのすべてが高校球児に向けられたのではないだろうか。ひとやすみ? かな。
 今日は沖縄から婆さん支援を俯瞰してみたい。

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 行かれたことのある方もたくさんいるのではないかと思うが、沖縄本島から南西400キロ離れた石垣島から船で10分のところに、竹富島(周囲9キロ 人口320人)という小さな島がある。
 訪れたときの僕の第一印象は「離島博物館」。
 赤瓦屋根の屋敷が立ち並び、珊瑚石灰を積んだ石垣に色鮮やかな南国の花が咲き乱れ、白いサンゴ砂の道は驚くほどに美しい。島全体が京都の有名な寺社のようだ。
 1987年に国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されているのだから、全体が博物館のように感じたのも無理からぬことだが、むしろ最も注目すべきは、文化財の建物群よりも「かしくさや、うつぐみどぅまさる」という言葉に根づく精神にあると思う。
 つまり竹富島は、博物館のような遺物の展示場ではなく、「今を生きている街・町の人々」だということで、それに気づけたのは、沖縄の人々と知り合い、沖縄に関心を寄せ出した最近のことだ。
 この言葉は500年前の島の偉人の遺訓のようだが、「みんなで協力することこそ優れて賢いことだ」という意味で、「うつぐみ」とは助け合いの精神を言うのだそうだ。
 終戦後、島の土地を本土の資本に食い荒らされそうになったとき「金は一代、土地は末代」を合言葉に「土地を島外者に売らない」「集落景観、自然を壊さない」など「売らない・汚さない・乱さない・壊さない・生かす」の基本理念を掲げた「竹富島憲章」を住民の総意で制定し、改築も勝手にせず、コンビニ店も置かず景観を守ってきた。白いサンゴ砂の道を毎朝掃くのは200年以上も前からの習慣だそうだ。
 この住民の意識(一人ひとりの心)を維持し発展させてきたのは、住民の自治組織である「公民館」だと言われている。
 公民館と聞くと「建物」を描いてしまいがちだが、ここでいう公民館とは「シマ」の自治組織で、シマとは島ではなく、祭りを共同で執り行うムラ(村落)を指すそうだ。
 地域とは「共属感情をもつ人々の一定の範囲」なんて規定されているが、まさにシマは地域そのものであり、シマの人々は「わがシマの人々」を意識して、互いに助け合いながら、時には激論を交わしながらともに生きていくための手立てとして、自治組織である公民館を築き守り発展させてきたのだ。
 島民の三分の一が島生まれではなくなった現在においても、組織率は100%加入しているおかげで、あの竹富島を守ることができているということだ。
 「島はみんなの宝。向こう三軒両隣が協力しなければ守れない」と新聞の取材に語る住民の声を読んだことがあるが、自分が生きていくためには、自分のことを自分でするのはもちろんのこと、互いに助け合い、公民館活動など主体的に社会参加していくことが当たり前の精神になっている証である。
 どこの町村に行っても言わせてもらっているが、こうした互助組織は“うっとうしい”といえば“うっとうしい”。若い頃は特に耐えられないくらいに嫌なもので逃げ出したりもするが、「高齢」「独り」「障害」「災害」「事故」などにまみれると、涙が溢れんばかりの感動劇を生む。
 竹富島に遊びに行って帰ってきた人は一様に「いいとこやったわ」と言うが、そのいいとこは「みんなで協力することこそ優れて賢いことだ」という精神に裏づけされたもので、自分のところ(家族、職場、町内、友人など人間関係が存在するところ)も「いいとこ」にするために、その精神までお土産にできてこそ「竹富島に行ってきた! いいとこやったわ」と言えるのではないだろうか。でなければ僕と一緒で「竹富島博物館を見てきた」程度のことになり、もったいない限りだ。
 看護職員と介護職員、特養職員とグループホーム職員、AユニットとBユニット、A法人とB法人、A事業者団体とB事業者団体、職員と家族、事業者と保険者や第三者評価委員など、どちらかといえば「いがみ合い」が目立つこの業界だが、500年前の偉人の言葉「みんなで協力することこそ優れて賢いことだ」でいえば「愚かでばか者」ということになる。
 婆さんからみれば、医療職も介護職も、グループホームもデイも、行政も事業者もない。みんな「私が生きていくことを支えてくれる応援団」のはず。
 基地、野球、台風と話題の尽きない沖縄。いろいろ問題や課題はあるだろうが、これからの日本の社会にとって、この小さな島に根づくものから学ぶことは、非常に身近で、でっかいように思う。

【案内】
理学療法士 田中義行さんの著書
「潜在力を引き出す介助」刊行記念セミナー

《大阪会場》
日 時:平成22年9月12日 9時50分受付 10時20分-16時
場 所:チサンホテル新大阪(淀川区中島)

主 催:中央法規
参加費:5000円

 友人の理学療法士田中さんの出版記念セミナーで、和田はサポーターとして移乗介助などの被介護者役とトークで出演。僕で務まるかなぁーとやや不安ですが、初めての経験にワクワク・ドキドキでもあります。
 田中さんは、いつも和田が説く「介護」ではなく「支援」という視点から、動作介助の方法を伝えてくれます。
 申し込み方法などは中央法規ホームページ、ブログ「けあサポ」に掲載されています。まだ間に合うようなので、ぜひ来て見てください。
問い合わせは 03-3397-3878 中央法規営業部営業課まで


コメント


 確かに、婆さんからみたら、職種や立場に関係なく、みんな「私が生きていくことを支えてくれる応援団」のはず。なんですよね。・・・にも関わらず、目の前の支えてくれている職員は、職員同士が、上司と部下が、サービス間等の一部に、険悪な状況が見え隠れしています。
 婆さんの立場に同じく、職員も職種に関係なく、支え方は違うにせよ、みんな「人が生きていくことを支えていこうという仲間」なんですよね。
 まず、自分自身がみんなを仲間であると、改めて意識的に見てみます。


投稿者: 和田さんの仲間 | 2010年08月26日 14:35

 和田さんこんばんは。
 GHの現場で10年、お年寄りから学び・癒され・元気をもらい・・また悩みを繰り返してます。
 認知症の専門性について考えると、GHに固執しているだけではいけないのではと悩んでいます。他職種からの視点も知りたかったことと、和田さんに会いたくて、元気を貰いたくて、今日「潜在力・・・」セミナーに参加しました。
 ジーンズにTシャ姿は変わらないのですが、数年前の和田さんとはどこか違うように感じました。洗練されたというか・・家族の力でしょうか・・勝手にすみません。
 「シマ」のしがらみがうっとうしくて「シマ」を離れましたが、子育て中は向こう三軒両隣の支えのありがたさを身に染みて感じ、今、仕事を通して互助組織の大切さ必要性を感じています。連携をとること、共鳴していくこと、再構築していく事に難しさを感じています。
 改めて専門性を活かしながら「ゆいまーる精神」地域力の復活のために何かできないかと思うのですが・・
 「運営推進会議」を「交流会」と名を変えてもなかなか馴染んで頂けず。皆さんのところはどうしていますか?教えてください。


投稿者: なんくる | 2010年08月29日 22:40

 ‘よその子’にでもちゃんと叱れる大人が居たように、子育てひとつみても昔は、近所ぐるみで地域ぐるみで、社会全体でもって、世の子供を守り育てていくのが当たり前な空気があった、というかつて聞いた話。自分と他人の間の境界線を外すことは、そんなに難しくもなく、楽しくて、いいことのようにも思えてきたのは年齢のせいでしょうか・・・?

 土地の言葉「うつぐみ」って響きに、涼やかで軽やかな中に、強く芯のある精神を感じて感動しました。


投稿者: こま | 2010年08月30日 02:16

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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