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和田行男の「婆さんとともに」

点と線と面

 お待たせしました。先々週のご質問にできるだけわかりにくくお応えします。

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 私たちは24時間365日生きています。時間にすると、秒にして3153万6000秒、分にして52万5600分、時間にして8760時間です。
 私たちの行動・行為が1秒間に1回だとしても1年間で3153万回、1日にして8万6400回ということになりますが、瞬間的に行動する人間ですから、その何倍ものことを自力でこなしていることになります。
 すなわち、人間の一般的な状態=和田さんの生きている姿というのは、和田さんの凄まじい能力の中から生み出された姿だということがわかります。それを実感するためには、知らない間に自分をビデオ撮影してもらうといいでしょう。本当にたくさんのことを自力で行えていることがわかりますし、一般的な人の姿=自立できている状態というのは、ありがたいことであり、尊いことだということがわかります。
 私たちの前に来られる人々は、その能力が低下した状態にあるということで、特に認知症をもつ人々の場合は、1日1秒に1回として8万6400回の行動・行為のどこに不適応が発生するかわからない状態になるということです。
 そういうふうに考えると、「自分に意思をもって移動することができる状態=一般的な人の姿」に認知症がくっつくと、「自分に意思をもって移動することができるがやりとげることができなくなる状態」となり「いつ・どこで・どんなことが起こってもおかしくない状態」となることがわかります。
 となると、現行の訪問介護のように定格的支援は難しくなります。人ひとり1年間生きていくことを8760時間の線だとしたら、それは1時間の点が8760くっついて構成されているということで、毎日2時間の訪問介護では、8760時間を24時間で区切って、その24時間の中の24分の2を支援することしかできません。
 こういうと訪問介護の人から「2時間が24時間に反映できるようにするのが訪問介護の仕事よ!」なんてお叱りを受けそうですが、個別にはうまく支援できる場合もあるでしょうが、認知症の特徴を考えれば、客観的に難しいということです。
 特養やグループホームなど入居型の事業は、自宅をあきらめさせる代わりにというわけではないでしょうが、専門職の周りにかき集めてきて、線で支援していくのが特徴です。
 しかも、人は他人との間で線と線を絡ませて生きていることを考えれば、自宅とは違っていやがおうにも他人との共同生活を余儀なくされる入居型の事業では、線と線が絡む面への支援が必然的に必要になります。介護保険法でいえば「共同生活介護」(グループホーム)とか「入居者生活介護」(特定施設、ショートステイ)がそれにあたるのではないでしょうか。特養で言えば「福祉施設」(福祉とはに該当する)という位置づけです。
 まとめると、自宅で過ごすことを支える訪問介護は、24時間をまるごと担う支援策ではなく点の支援策ですが、特養やグループホームは、曲がりなりにもであったとしても、24時間を他人と交えて過ごすので面の支援策が必要になるということです。
 そう考えると高齢者の孤独死は、誰とも交わることなく点の支援もなく、ただひたすら死に向かって線で生きていたのかなと思え、点の支援もないこの国が「豊かな超大国だなんて見え張るな!」と悲しくなるし、点の支援策しかないから自宅生活を続けられなくなる人が増えるのはもっともで、面で自宅生活を支える支援策を早急に確立するべきなのです。
 ちょうど参議院選挙の真っ最中!
 候補者は、この国をどういう国にするのかという将来ビジョンを語っているのかもしれませんが、僕らには見えてきません。
 どの政党の人も、ご飯を食べる前に「いただきます=ありがとう」、食べ終わったら「ご馳走様=ありがとう」と手を合わせることでしょう。
 年寄りの前にいるときだけ手を合わせるのではなく、選挙のときだけ手を合わせ「一票いただきます=自分にとってのありがとう」ではなく、高齢者になるまでの働き盛りは「税金をいただきます、しっかり国民のために使わさせていただきます=ありがとう」と国民に手を合わせ、働き盛りが過ぎたら「長らくの納税お疲れさまでした。これから先はご安心を=ありがとう」と言い切れる施策を講じてほしいものです。
 「点と線と面」
 これは和田さん流の独特の言い回しですが、僕の頭の整理としては実に明快で、困難な支援を考えるときも、「行為・行動の分解思考」と共にこれでスッキリとさせます。
 わかりにくかったらまた質問くださいね。考えていただけるようにわかりにくくするのが和田さんの特徴のようなので、突っ込みをいれてきてください。

追伸
 再び携帯電話に悪夢が…。
 先般の「放浪の旅」に続いてしばらく携帯電話が入院します。もう再起不能かもしれませんが、とりあえず入院しますので、連絡はパソコンメールだけになります。よろしく。


コメント


 リハビリにも通じる、ある介護技術の本を思い出しました。‘椅子から立ち上がることを介助する’の巻き。「私(=一般的な人の姿)が立ち上がるという行為」を分析するところから方法論がみえる、という内容に妙に納得。
 以来‘分析→根拠→この介助(有する能力に応じた自立への介助。全介助~手を出さない介助も含めて)’というふうに、いつもどこかで根拠ある支えの行動をしたいなと思っていました。生きることを支えるために、生きていることを分析する力って必要だなと思います。算数が苦手な私にこの(和田さん流の)発想はなかったですが、新鮮で分かり易かったです。ありがとうございました。

 「点・線・面」わかったつもりで書いていながら恥ずかしいのですが、この際。面で自宅生活を支える支援策って?私がイメージできるのは小規模多機能に近いものとかで。現実きびしいのではと思えたりしますが。いろんな流派の発想がききたいです。少々ワクワク


投稿者: こま | 2010年06月30日 00:35

和田さん、皆さん、おはようございます。

 私たちは、どこで一番過ごしたいでしょうか?知らない土地と答える人は、あまりいないでしょう。自宅が一番なんです。全てとは言い切れませんが、自宅にて最後を過ごしたい方が本当に多いと私は思います。
 だから、訪問介護・訪問入浴・訪問看護・お弁当宅配サービス・近所の茶飲み友達・ご近所さんなど、町で出会う沢山の人たち・そして、ボランティアが支えてくださる事に本当に有難いことだなぁ~と思います。こちらは、ある意味点で支える事になりますが、ケアマネを介してお年寄りを多くの点にて支える事が出来る気がします。こういった事を、街づくりで始めているところもあるようですが、まだまだ栃木では、これからです。

 高齢の方は、少ない年金から後期高齢者医療保険・介護保険・所得税などが天引きされます。本当に生活するだけで精一杯だと思います。でも、今の日本を作ったのは今までのお年寄りです。それでも、お年寄りのせいにばかりしていられません。明日は我が身なのです。今の政治を変えなければ、私たちに未来はないでしょう。私は、そう考えています。
 厚生年金額も私たちの頃には少なくなりそうだし、だからこそ、私たちが私たちの手で、しっかりとこの国を動かしてくれる人を探す必要があると思います。今度の選挙は、大変重要な意味があると思います。
 各党の選挙公約、どこまでしてくれるかわかりませんが、良く読んで、この国のために、自分の事を投げ打って考えてくれる人を探しています。日本は変わらなければいけないと思っています。
 御爺さん、御婆さん、やがてくる自分たちの未来のために、未来を作っていくのは私たちなのだから、私たちの手にかかっているのだから…。私たちが住みやすいように変えていかなければ…と思っています。


投稿者: 寺内 美枝子 | 2010年06月30日 08:47

 例えば一人暮らしのお年寄り(この際お年寄りでなくてもいいんだけど)。
 近所つきあいがあって、買い物にも出かけて、家族と近況報告の電話をしながら一人で暮らしている人は、‘面’で生きてるってことでいいですか?ものわかりが悪くてごめんなさい。


投稿者: ばーばら | 2010年07月03日 12:34

 7/5.13のブログを読んで戻ってまいりました。「面の支援」その根っこにあるものが、おぼろげながら見えてきました。
 支援って言葉がちょっとくすぐったい。人が人と共に存在して行動し生きてること。そのものが、‘いつかの我々がおかれる社会をつくっている’と思ったら責任と同時に、不思議と肩の力がとれるような感じがした。
 余談ですが、職員に気付かれぬよう出かけるお年寄り。だけども「困った時には、必ずお助けマンが登場してくれるはず」という確信を持って出かけている方もいる気がします。
 垣根もつくらず、ごくごくふつうに、助け合い・生きてきたから持てる確信なんだと思う。まだまだ追いつけないな私。本当に尊敬する。学びたい。


投稿者: こま | 2010年07月14日 03:00

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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