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和田行男の「婆さんとともに」

魅力ある仕事・でも就きたくない

 福祉を勉強している大学1年生30名程に、介護業界について聞いてみた。

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 僕からの問いかけは「介護業界に入りたいと思う理由」と「介護業界には入りたくないと思う理由」のふたつだけだが、問いかけに対する回答を読んで思ったのは、学生たちに映る「介護労働」は、「非常に魅力的な普遍的価値があると思ってはいるが、その価値ほどに対価がないと見限っている」ということだ。
 介護業界に入りたいと思う理由では、「いつも近所の声をかけてくれる高齢者がいる。その人たちの役に立てる仕事がしたいと思ったから」「自分の祖父母が認知症になった時に何もしてやれなかったから、勉強して」「困っている人を助けてあげたい」「高齢者に接していろんなことを学び返したい」など、「人の役に立ちたい」が圧倒的に多かった。
 大学1年生18歳で「人の役に立ちたい」と考えて福祉を学ぶ学生たちには、ただただ脱帽するばかりである。
 逆に介護業界に入りたくない理由は、「仕事がきついわりには給料が安い」「重労働である。低賃金である」「安定した生活を送れる給料ではない」など労働環境に関すること、なかでも仕事と賃金の関係にギャップを感じて就きたくないというのが圧倒的に多い。
 つまり端的に言えば、「人の役にたつ仕事として魅力はあるが、労働環境が悪く見合わないから就きたくない」ということだ。
 昔なら「人の役にたつ」というだけで介護労働に身を投じたかもしれないが、そんな時代ではなく、他人に役立つだけではだめで、自分の人生にも貢献できる職業でなければ就かないということだ。
 違う言い方をすれば「いい仕事やねんけど就きたくない」ということだが、これはとっても、もったいないことだ。
 もともと介護労働に対する魅力がないから人が見向きもしない職業になっているのなら致命的だが、そうではなく、少なくとも福祉系の学生にとって「介護労働」そのものは十二分に魅力的な職業だと言っているのである。
 学生たちはイメージだけでなく、実際に現場実習に行って見聞してきているから深刻だ。
 おそらく目前の給料を引き上げればよいという単純なことではなく、自分が30歳40歳、独身から既婚、家族をもったときに他業種と比較してどんな暮らしができるだろうかと思いを巡らすと「考えてしまう」のだろう。それは仕事の内容にも思っていることがあって、「体力的に精神的にきつい仕事」と考えている学生が半数を超えており、それをいくつまでできるかと考えると「今」もそうだが「将来への不安」を抱いてしまうようだ。
 介護労働は「人の役に立てる仕事」ではあるが、自分が生きていく上で欠かせない「労働」という側面からシビアに眺めると「人の役には立っても自分がボロボロになってまでは就けない・就きたくない」という学生の声は、真っ当な声である。
 その意味では、給料面だけでなく、「完全週休二日制の導入」や「年次有給休暇の完全取得」など「労働の再生産」がきちんと可能な労働環境を組み込んだ制度にすること、その真逆にある「利用者と関われる時間の確保」も必要だ。
 つまり職員として休めるだけでなく、職員の休日数が増えても利用者へのサービス供給時間が変わらない仕組みにしないと、労働環境は良くなったが、利用者に関わる時間が減ったり、出勤者数が減って現場の人が少なくなっては元も子もないということだが、特養に代表される定員比人員配置では起こりかねない。きちんと「介護保険事業最低労働環境」を組み込んだ仕組みが必要だ。介護保険事業従事者は「公務に就く員」なのだから、事業者に委ねることではない。
 また「習っている理想と現場の現実にギャップが大きすぎる」という声に代表されるように、制度も実践も引き上げていくことを追求していかないと、「魅力ある仕事であり、就きたい」と思ってもらえないということでもある。
 実際には大学で習っていることがあまりにも現実離れしているということなのかもしれないが、現場の先輩達が「本当はこうありたいけど、現状では…だから変えていきたいのよ、力を合わせてやりましょうね」というように話せれば随分と違うと思うのだが、良いも悪いもなくただ現状を肯定しきっている先輩達をみてしまうと、落胆してしまうのではないだろうか。
 就きたくない理由に「若い者の意見は聞きいれてもらえないとよく聞くから」という声もあったが、「介護現場はそうみたいよ」という風が流れてしまっては「そうではない現場」も「そんな現場」も同じように痛手をこうむるわけで、こうした点では全体意識をもつことが大事なことではないか。
 わかりやすく言えば、たったひとつのグループホームで食中毒(火災でも虐待でも不正請求でも)が起これば全部に影響が出るということで、グループホームを護るためには絶対に食中毒を出さないように一人ひとりが努力しないとあかんということと同じだ。
 福祉系の学生でさえ1年生の時点で「就きたくないと思っている者が圧倒的な現実」を、せめて「福祉系の学生は100%近く就きたいと思っている仕事」にどうやったら変えていけるか。
 僕ら先輩に課せられた課題は多いなと感じたし責任を感じる。学生さん、ありがとう。

[ご案内]
地域社会の中で生き生きと暮らせるように
~グループホームの未来に向けて~

日時■3月10日 11時30分受付 12時30分~16:00
場所■星陵会館(東京都千代田区永田町2-16-2 地下鉄「永田町」駅下車)
定員■400名 
参加費■1500円

■プログラム
○グループホーム「こうありたい像」の提起~実態調査より~
○地域で認知症の人を支えるために~三道県の実践に学ぶ~
・北海道(人材育成の新たな試み)
・群馬(地域社会にサポーターを増やす)
・福岡(生き生きとした姿を取り戻す)
○シンポジウム
~グループホームの未来に向けて~
・シンポジスト
 社団法人「認知症の人と家族の会」代表理事 高見国生氏
 NHKアナウンサー 町永俊雄氏
 厚生労働省認知症・虐待防止対策推進室 室長補佐 田仲教泰氏
 全国グループホーム団体連合会代表世話人 和田行男氏
・コーディネーター   
地域ケア研究所所長 蓬田隆子氏

■申し込み方法
FAX・メールにてお申し込み下さい
参加費の支払いは当日会場にて

全国グループホーム団体連合会事務局
 担当 中村・坂本
電話
 0297-63-0572
ファックス
  0297-63-0573
メール
  info@zenkokughren.com

【FAX・メールに記載する内容】
☆氏名
*複数の場合は全員の名前をお願いします
☆住所
*複数の場合は代表者のみでOK
☆連絡先
*複数の場合は代表者のみでOK
☆事業所名ならびに所属団体名
*個人の方は不要です


コメント


 僕は看護専門学校勤務で、当然看護師を目指す学生と接している。彼らは卒業して試験に合格すれば、ほとんどが実際に就職する。
 ところが就職後数年あるいは結婚・出産の機会に離職する者が非常に多い。介護分野よりは待遇面など恵まれているのに、なぜ同じような問題が起きるのか。

 僕は、介護・医療という「システム」に、次のような問題が共通しているためだと思う。
○ 「人の役に立つ仕事」と聖職視され、従事者自身もそう思っている。
○ 日本では施設・病院が家族代わりに利用者・患者を世話するやり方が主流。
○ その結果、従事者が責任を負い過ぎ、長時間強いストレスにさらされる。

 こういうやり方のままでは、報酬を多少見直しても離職は止まらない。「システム」全体の転換が必要だ。
○ 介護・医療の過剰な聖職意識を見直し、サービス業の一つととらえ直す。
○ 施設・病院が家族・地域と連携して利用者・患者を支援する形を目指す(施設・病院だけで世話するのは無理ですよ、とアピールし周囲に協力を求める)。
○ 利用者・患者のリスクを分け合えるような地域との関係づくりを目指す。

 こう考えると、和田さんの「グループホームを護るためには絶対に食中毒を出さないように一人ひとりが努力しないとあかん」という言葉には抵抗がある。結果として「ホーム以外では食事するな。お祭りの屋台で買い食いなどもってのほか」など、安全至上主義・抱え込み保護主義を助長するおそれがあるからだ。
 むしろ「地域で暮らす以上、食中毒を完全に防ぐのは難しいけど、大事に至らないように対応を工夫しようよ」でいいのではないかな。


投稿者: あが | 2010年02月26日 00:18

あがさんへ

 僕はまったく同感です。食中毒を出さないようにするのは、食中毒が出た時点で役人たちは規制を厳しくしようとします。国民がキュウキュウしてきた分、役人もキュウキュウし「工夫しようではないか」というところで踏みとどまれない現状があるということです。
 あがさん、「大転換」へ頑張りましょうね。ただしサービス業という呼称がよいかどうかは語り合いたいですがね。


投稿者: わだゆきお | 2010年02月26日 10:28

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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