介護者の疲弊
名古屋大学医学部保健学科の「在宅介護者」の調査が新聞発表(中日新聞12月20日付け)されたが、深刻である。
2006年12月から07年5月までの半年間に、愛知県、岐阜県、滋賀県における調査で、要介護度3以上か、認知症の要介護者を抱える男女213名の介護者から血液や尿、血圧や心電図検査を行った結果、介護者は塩分摂取量が多いことなど栄養バランスが偏り、睡眠の時間帯も不規則なことによる健康状態に問題があることが判明したというものだ。
調査の結果は、女性介護者(161名)の場合、高血圧の割合は一般の女性34%に比べて46%と高い。また、高血圧で降圧剤を服用している女性32名のうち23名に改善がみられず、一般の女性に比べてかなり深刻な状態にあるそうだ。尿検査でも塩分濃度は一般に比べて30%高く、食生活に問題があると指摘している。
介護保険制度で本人の栄養改善が図られても、介護者の栄養状態が悪化していては何をかいわんやである。
報道によると、在宅介護者の健康状態は、4人に1人の割合で軽度のうつ傾向がみられ、老老介護の男性介護者の死亡率が、そうでない男性の2倍に上るなど深刻な状況を示す結果が出ているようだ。
僕はいつも問題提起しているが、今の介護保険制度は「自宅での生活を支える仕組みが脆弱すぎる」ことと「家族が本人をみてやりたいという願いを応援する仕組みが脆弱」で、早々に自宅生活を応援する仕組みを検討し、可能な限りの仕組みを構築する(国民に選択肢を提示する)ことが必要だ。
でなければ、本人の活動性が低下するだけでなく、一緒に暮らす家族の自立度や活動性が低下し、介護殺人や虐待、心中などきわめて不幸な結果を招くことになったとしてもおかしくないだろう。
それは介護従業者も同様で、夜間まで含めて24時間を応援する施設の人員配置基準はお粗末極まりなく、本人の生活の質を維持することも引き上げることも困難ばかりで、介護に従事する専門職までもが疲弊し、介護から離れていくことになるだろう。
また介護現場だけでなく、医療の世界も医師や看護師など疲弊しきっている状況ではないだろうか。
そのような疲弊環境状態には手をつけず従業者の質だけを問われるのは、なんともやるせない。
社会保障にお金はつきものだが、そのお金に限度があることは国民だって百も承知しているはず。でも、医療や介護といった国民生活の根幹に関わることにビジョンとコストを明確にすれば、あとは国民の選択権で決めればいいことで、政治家はそれさえ明確にできていないのではないか。
こうした調査結果を僕は知らないが、これまでにもたくさん出ていることだろう。そうした警告を謙虚に受け止めこの国の社会保障をどうするか、コスト負担も含めてぜひ超党派でビジョンを構築して欲しいものだ。
自宅生活を安定的に継続できるようにするためのシステム構築は、かなり急務の課題である。
コメント
中日新聞愛読者です。
中日新聞では、最近介護殺人等連載されています。自分の仕事の中でも、年々、介護者やキーパーソンがいない方、お金がないため支援開始に時間がかかったり、わずかな支援で綱渡り状態の方々が増えているように感じています。
みなさん、「こんな事になるとは思ってもみなかった。」「介護保険が使いたくても使えない。」「入院もさせてもらえない、施設も順番待ち、順番が来てもお金がない。」とおっしゃいます。家族はこのご時世、収入が落ち込んだり、休むと首を切られることが起きています。いよいよ、今まで仕事をせず過ごしてきた子供さんしかいない方も出てきています。
施設職員さんも、転倒があるたびに上司や家族から責められ、日々の業務を何事もなく過ごすことが目的になっていきます。(ミーティングや会議はされていますが、参加する時にはみな疲れ果てています。)
個々で話をすると、みなこのままではいけないと言います。が、その声をどうしていけばいいのか分からずにいます。
こつこつと仲間作りはしています。
私は、介護保険料が安過ぎると思うのですが、そう思うのは間違っているのでしょうか?
制度の始めから、医療保険料と比べてみて、いつも、介護とはそんなに軽く扱われているのかと思ってきましたが。
もちろん、収めた保険料を、きっちり国民に還元してくれる政府であることが大前提ですが。
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