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和田行男の「婆さんとともに」

根拠

 皆さんは「歩掛」という言葉を知っていますか。これは「ぶがかり」って読みますが、僕は知りませんでした。
 介護保険制度ができてから何となく気になっていたことがあり、それが段々と煮詰まって「やっぱり介護保険制度はおかしい」とハッキリ思うようになったのですが、それを端的に言い表わした言葉が「ぶがかり」だということを知りました。

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 この言葉を教えて下さったのは、元ゼネネコンの大幹部で今はある県でグループホームをまとめている方です。
 あるとき僕が「介護保険制度はここがおかしい!」ってわめいていたら、「和田さん、それを歩掛っていうんですよ」と教えてくれました。
 歩掛の意味を、ネット(Wikipedia GMT版2008年7月15日)で調べると、こう書いてありました。
 『歩掛とは、ある作業を行う場合の単位数字または、ある一定の工事に要する作業時間ならびに作業日数を数値化したもののこと。
 土木部及び建築工事の積算の際は、歩掛にそれに対応する職種の労務単価を乗じ、場合によってはそれに諸経費を追加して価格を算出して工事の費用の根拠とする。
 例えば、1㎡四方の穴を人力で掘る場で、普通作業員と呼ばれる作業員が3人で6時間かかるという場合、3×6=延べ18時間、1日の労務時間を8時間として、18時間÷8時間=2.25、その結果を受けて普通作業員2.25人工(にんく)という言い方をする。国土交通省が毎年度制定している公共工事標準歩掛が日本の土木建築工事の積算基準となっている。』
 つまり、1㎡四方の穴を人力で掘る場合は2.25人工かかり、1人工の人件費が1万円なら2.25万円かかるということです。

 ここまで書けば僕が言っている意味がわかったと思うのですが、建築の世界に限らずですが、ものの値段には根拠があるはずです。でも介護保険事業にはその根拠がなさ過ぎるように思っているのは僕だけではないはずです。
 例えば、介護保険事業の通所介護における管理者でみてみましょう。通所介護における管理者への法的要求事項は条文にこう記されています。
 ひとつは「(管理者の責務)第52条」で「指定通所介護事業所の管理者は、指定通所介護事業所の従業者の管理及び指定通所介護の利用の申込みに係る調整、業務の実施状況の把握とその他の管理を一元的に行うものとする。2 指定通所介護事業所の管理者は、当該通所介護の従業者にこの節の規定を遵守させるため必要な指揮命令を行うものとする。」
 ひとつは「(通所介護計画の作成)第99条」で「指定通所介護事業所の管理者は、利用者の心身の状況、希望及びその置かれている環境を踏まえて、機能訓練等の目標、当該目標を達成するための具体的なサービスの内容等を記載した通所介護計画を作成しなければならない。」
 とあります。
 これそのものはどうあれ、法令が求めている管理者の職務がこれであるとするならば、通所介護事業所の規模(定員)によって管理者業務に必要な従事時間数が違うはずです。
 もちろん定員が大きければ大きいほど、「利用の申し込みに係る調整」「業務の実施状況の把握」「従業者の数」「通所介護計画数」など、法が要求していることに要する時間数は多くなるでしょう。
 つまり10名の利用定員・週5日稼働・職員数2名(生活相談員1と介護職員1)の事業所で管理者業務に要する時間数が週8時間だとしたら、20名なら16時間、100名なら80時間を要求されたとしても、根拠に整合性があり、理解できます。
 でも介護保険法ではそのような人員配置基準にはなっていません。ましてや同一敷地内で「業務に支障がなければ兼務も可能」などは、曖昧をさらに曖昧にしているようなものです。
 グループホームでも介護計画の作成に要する時間数のものさし(根拠)が利用者1名1か月当たり2時間だとしたら、9名定員なら18時間となるので、ひと月に最低18時間の計画作成に従事する人員を配置しなさいということであれば、「計画作成を2時間でやれというのは無理やで」ということはあったとしても、6名定員の事業所なら12時間、7名なら14時間ということは理解できるということです。
 あわせてさらっと言わせてもらうならば、介護報酬に含まれるものは何と何であるかも明確にしてもらいたいものです。役人が変わるたびに利用者から徴収していいものと悪いものが変わるとしたらおかしいし、保険者によってその解釈が違っているとしたら、国の制度がひとつである以上おかしなことです。
 元々制度設計をするときに根拠があって、人員配置やそれに基づいた介護報酬などを設計しているはずなのですが、どう考えても「適当」に決めたのではないかと思えてしまうのは、整合性や法則性がない(ないと感じてしまうような基準や指導になっている)からではないでしょうか。
 制度(報酬)が決まったあとで、運営推進会議や情報公表など、実施に時間(コスト)を要する事柄を義務づけてきているところなどは典型的な「思いつき設計」で、どう考えても国土交通省のように根拠に基づいた設計をしているとは思えません。
 民主党に政権が変わったから言うわけではありませんが、もういちど制度の積算根拠を洗い出してもらいたいし、僕らにばかり情報開示を求めるのではなく役所も情報を開示し、その根拠が適正か否かについて第三者評価を入れてもらいたいものです。
 国土交通省が毎年度公共工事標準歩掛を制定して日本の土木建築工事の積算基準を明らかにしているのだとしたら、厚生労働省も、省庁間人事交流で国土交通省から厚生労働省に来られる役人もいるように聞いていますし、最近では国土交通省と厚生労働省の「生活住居」に関するコラボレーションも進められているようですから、ぜひ制度の根拠を明らかにするということも見習っていただき、着手してもらいたいものです。明らかにしていただければ、僕のようにモヤモヤしている現場の人たちは、いいも悪いも『そうか』と、一旦は理解するでしょう。スッキリと仕事ができる環境を整えていたたきたいものです。


コメント


 人員配置基準には私も疑問を持っています。
 私は訪問介護事業所で、管理者兼サ責の肩書きを与えられていました。しかし実際は、サ責の業務だけでも本当にこなせていたかくらい多忙で、ほとんど現場に出ていました。
 訪問が終わってくたくたになってから、やっと本来のサ責の仕事や管理者の仕事をするのが当たり前になってて(残業当然、もちろんサービス残業)、当然自分が一ヘルパーとしてオムツ交換や調理をしているんだもの…電話なんて出れるわけがない。
 登録さんからの急な報告や指示を仰ぐ電話に出れるわけがない! それを最初から見越している現場や、福祉のことを知らない社長が、本来私のするべき指示や判断をして通達していました。
 提供困難な新規の依頼の電話があっても、私に相談することなく、すでに勝手に受けている…そしてあとは丸投げ……いつも事後報告。苦労するのは人材難で泣く私。誰もいけるはずのない夜中の訪問も、結局私がぶっとおしでいくことに。
 儲け第一に考えている人間に現場の苦労が理解できるわけがない !当然、指示も私の判断と違うことが多々あり…でも、こういう人員配置って都合いいんでしょうね。
 そこでは通所もあったんですが、みんな管理者兼主任みたくされていました。当然、外部の窓口は社長。ひとりオイシイとこどり。訪問と同じく、後始末は管理者兼主任。
 兼務なんてOKにしたら、ますますこんな事業所ばかりが増え、過労なあげく、みな現場を離れざるをえなくなる悪循環を生むとおもいます…。
 特に小さな事業所は、なんでもありみたいなところが当然と考えている経営者がすごく多いと思います。異を唱え社長に立ち向かえばボーナス減、急な人事異動(降格)…ヒトラー体制のもと、私たち現場の本当の悲鳴は厚労省のお偉い方々には届くことはないでしょうね…。


投稿者: ゆでたまご | 2009年11月03日 06:11

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち97年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。東京都地域密着型サービス事業者連絡協議会代表としても活躍。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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